とある英雄達の最終兵器
第112話 気になる木
「コホンッ。さて、ではまずはリエース共和国のことから紹介しますね。リエースというのは――」
そこからはふざける様子もなく、エリーザがリエース共和国について説明を始める。おおよそはハルモニア校で習ったことなので取り立て目新しいことはない。そしてテュールがそうであったように他の生徒もそんな態度が出てしまい――。
「フフ、皆さんよく勉強されているようでリエース共和国についてはご存知のようで嬉しく思います」
エリーザにちょっとした皮肉を言われてしまう。が、エリーザもここまでは予定調和なのか特に負の感情は表には出ていない。
「さて、では次は世界樹の話をしましょうか。世界樹ユグドラシルは、別の世界から訪れた意思のある生命体です。フフ、驚きましたか? さて樹なのに意思があるなんて言うと信じ難いですよね。実は証明するのは難しいです。と言うのもユグドラシルは会話が可能です。……ですが、その会話が出来るのは遠い過去に世界樹と契約を交わした我々の一族だけとなります。ですので我々一族だけが会話ができると言い張ってるわけですね。フフ、幸いリエース共和国の方々には信頼を頂きましたのでこれがリエースでは公然の事実となりました。そしてエルフとユグドラシルの渡し手になった我々の一族はいつからか守り手、世界樹の巫女と呼ばれ、エルフを代表するようになったのです」
ユグドラシルの生態、ルチア一族の関係は深くは書物に書いていないため、ここに来て生徒たちの目に好奇心の色が宿る。
「話を続けますね。世界樹は森を川をマナを、豊かな暮らしを我々リエース国民に与えて下さいました。フフ、ここからが面白いのですが、意思なき樹であれば我々はその恩恵を享受するだけで終わりだったでしょう。しかし、意思ある樹ユグドラシルは一方的に奉仕することを拒みました。そして、世界樹は契約者である我々の一族に要求をしたのです。退屈だから話し相手になれ、と。そしてお腹が空くから魔力を食べさせてくれ、と。フフ、ちなみにユグドラシルの好物は恋バナです。えぇ、恋バナというのは皆さんの考えている通りの恋愛の話ですよ」
(なっ……)
ユグドラシルに意思があるということも驚きだが、まさか恋バナが好物という俗物っぽさにテュールは驚きを隠せない。そして、当然周りの生徒も同様に驚いており、講堂内にざわめきが生まれる。
「フフ、期待通りの反応をありがとうございます。ユグドラシルに意思があるということは、秘密にはしていませんがあまり他国には知られていません。と言うのも五種族の溝は容易く埋まってはくれず、このように突拍子もない話をすると懐疑的な目で見られてしまうからです。まして、恋バナが好きということをバカにされてしまったらウチの大切なユグドラシルさんがヘソを曲げてしまうので」
エリーザがおどけながらそんなことを言う。そこには確かに一人格を尊重する慈しみの気持ちが存在していた。
「さて、長々と喋ってしまいましたね。私の話はここまでにしておきましょう。皆さん是非リエースを楽しんでいってくださいね。では、私は失礼します。あ、セシリア、今晩はうちへ帰ってらっしゃいねぇー、お父さんが寂しがってるわよーフフ~♪」
コクコクコク。
セシリアは大声で返事を返すことはなく何度も首を縦に振る。
(ははっ、友達の前で親に話しかけられるって恥ずかしいもんなぁーっていうか、そういう次元じゃないか)
隣で恥ずかしそうに小さくなっているセシリアを見てテュールは同情する。周りの生徒は王族相手に迂闊なことはできないため囃し立てることもなく沈黙を貫いている。そのせいでよりいたたまれない空気となってしまっているのは言うまでもないだろう。
それから一日をかけてハルモニア校の生徒は教師引率のもとリエース見学をする。テュールは意思ある樹ユグドラシルに触れてみたがったが、残念ながら王族以外は入れないよう厳重に管理されているためしぶしぶ諦めた。
また、ルーナがテュール率いる第一団が余計なことをしないよう常に近くで監視していたため、勝手な行動もできず大人しく施設見学に勤しむ。
こうして一日目の見学が終わると後はホテルに戻るのだが第一団にはエリーザから公式に招待の通達がきたため、セシリアの家へと向かうことになる。そして向かう間際ルーナが――。
「おいテュール。いいか、くれぐれも失礼のないようにしろ? あとあのバカの面倒を見るんだぞ? もしユグドラシル家で問題が起きた場合は良くて退学、悪ければ死ぬぞ?」
と、テュールの両肩をグググッと爆ぜんばかりに強く握りしめながら注意する。当然あのバカとは、今この瞬間も現地人エルフを口説いているテップである。テュールも流石の迫力に気圧されるが何とか軽口で返す。
「了解です。まぁうちのバカ代表が迷惑かけないようにいざとなったら気絶させます。でも、死ぬは大袈裟ですよ、ハハハ」
テュールの肩に食い込んでいた指に更に力が加わる。
「ハハハ、冗談じゃないぞ? エリーザ様からの通達はこうだ。セシリアが普段お世話になっているお友達も招待させて下さい。お姫様方の安全は保証します。うちには茨姫がいるので、だ。分かるな?」
「い、茨姫……。確かその人って……」
「あぁ、そうだ。エリーザ様の妹であり、SSSランク冒険者、つまりエルフ族最強の方だ」
「あは、あははは……。はい、絶対問題起こさないようにします。あと、強い人見るとすぐ喧嘩売っちゃう子もいるんで、そっちもなんとかします」
「あぁ、頼んだぞ。私も死者は出したくない……」
そして、テュールとルーナはやや疲れた顔で頷き合う。
こうして、雲行きの怪しくなってきたセシリア家へのご招待ツアーが始まる――。
そこからはふざける様子もなく、エリーザがリエース共和国について説明を始める。おおよそはハルモニア校で習ったことなので取り立て目新しいことはない。そしてテュールがそうであったように他の生徒もそんな態度が出てしまい――。
「フフ、皆さんよく勉強されているようでリエース共和国についてはご存知のようで嬉しく思います」
エリーザにちょっとした皮肉を言われてしまう。が、エリーザもここまでは予定調和なのか特に負の感情は表には出ていない。
「さて、では次は世界樹の話をしましょうか。世界樹ユグドラシルは、別の世界から訪れた意思のある生命体です。フフ、驚きましたか? さて樹なのに意思があるなんて言うと信じ難いですよね。実は証明するのは難しいです。と言うのもユグドラシルは会話が可能です。……ですが、その会話が出来るのは遠い過去に世界樹と契約を交わした我々の一族だけとなります。ですので我々一族だけが会話ができると言い張ってるわけですね。フフ、幸いリエース共和国の方々には信頼を頂きましたのでこれがリエースでは公然の事実となりました。そしてエルフとユグドラシルの渡し手になった我々の一族はいつからか守り手、世界樹の巫女と呼ばれ、エルフを代表するようになったのです」
ユグドラシルの生態、ルチア一族の関係は深くは書物に書いていないため、ここに来て生徒たちの目に好奇心の色が宿る。
「話を続けますね。世界樹は森を川をマナを、豊かな暮らしを我々リエース国民に与えて下さいました。フフ、ここからが面白いのですが、意思なき樹であれば我々はその恩恵を享受するだけで終わりだったでしょう。しかし、意思ある樹ユグドラシルは一方的に奉仕することを拒みました。そして、世界樹は契約者である我々の一族に要求をしたのです。退屈だから話し相手になれ、と。そしてお腹が空くから魔力を食べさせてくれ、と。フフ、ちなみにユグドラシルの好物は恋バナです。えぇ、恋バナというのは皆さんの考えている通りの恋愛の話ですよ」
(なっ……)
ユグドラシルに意思があるということも驚きだが、まさか恋バナが好物という俗物っぽさにテュールは驚きを隠せない。そして、当然周りの生徒も同様に驚いており、講堂内にざわめきが生まれる。
「フフ、期待通りの反応をありがとうございます。ユグドラシルに意思があるということは、秘密にはしていませんがあまり他国には知られていません。と言うのも五種族の溝は容易く埋まってはくれず、このように突拍子もない話をすると懐疑的な目で見られてしまうからです。まして、恋バナが好きということをバカにされてしまったらウチの大切なユグドラシルさんがヘソを曲げてしまうので」
エリーザがおどけながらそんなことを言う。そこには確かに一人格を尊重する慈しみの気持ちが存在していた。
「さて、長々と喋ってしまいましたね。私の話はここまでにしておきましょう。皆さん是非リエースを楽しんでいってくださいね。では、私は失礼します。あ、セシリア、今晩はうちへ帰ってらっしゃいねぇー、お父さんが寂しがってるわよーフフ~♪」
コクコクコク。
セシリアは大声で返事を返すことはなく何度も首を縦に振る。
(ははっ、友達の前で親に話しかけられるって恥ずかしいもんなぁーっていうか、そういう次元じゃないか)
隣で恥ずかしそうに小さくなっているセシリアを見てテュールは同情する。周りの生徒は王族相手に迂闊なことはできないため囃し立てることもなく沈黙を貫いている。そのせいでよりいたたまれない空気となってしまっているのは言うまでもないだろう。
それから一日をかけてハルモニア校の生徒は教師引率のもとリエース見学をする。テュールは意思ある樹ユグドラシルに触れてみたがったが、残念ながら王族以外は入れないよう厳重に管理されているためしぶしぶ諦めた。
また、ルーナがテュール率いる第一団が余計なことをしないよう常に近くで監視していたため、勝手な行動もできず大人しく施設見学に勤しむ。
こうして一日目の見学が終わると後はホテルに戻るのだが第一団にはエリーザから公式に招待の通達がきたため、セシリアの家へと向かうことになる。そして向かう間際ルーナが――。
「おいテュール。いいか、くれぐれも失礼のないようにしろ? あとあのバカの面倒を見るんだぞ? もしユグドラシル家で問題が起きた場合は良くて退学、悪ければ死ぬぞ?」
と、テュールの両肩をグググッと爆ぜんばかりに強く握りしめながら注意する。当然あのバカとは、今この瞬間も現地人エルフを口説いているテップである。テュールも流石の迫力に気圧されるが何とか軽口で返す。
「了解です。まぁうちのバカ代表が迷惑かけないようにいざとなったら気絶させます。でも、死ぬは大袈裟ですよ、ハハハ」
テュールの肩に食い込んでいた指に更に力が加わる。
「ハハハ、冗談じゃないぞ? エリーザ様からの通達はこうだ。セシリアが普段お世話になっているお友達も招待させて下さい。お姫様方の安全は保証します。うちには茨姫がいるので、だ。分かるな?」
「い、茨姫……。確かその人って……」
「あぁ、そうだ。エリーザ様の妹であり、SSSランク冒険者、つまりエルフ族最強の方だ」
「あは、あははは……。はい、絶対問題起こさないようにします。あと、強い人見るとすぐ喧嘩売っちゃう子もいるんで、そっちもなんとかします」
「あぁ、頼んだぞ。私も死者は出したくない……」
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