とある英雄達の最終兵器
第93話 ここのスタッフはバカか
テュールはその後、ひと目につかないよう回り道をして薄暗い路地を縫うように進み、途中で気配遮断の黒套を生成魔法で作り出せばいいことに気付く。
(最初からこうしておけばよかった……。いや、仕方ない。こんな状況なんだうっかりの一つや二つあるある。どんまいどんまい。さて…)
ようやく辿り着いた玄関の前でテュールは黒套を消し、ドアノブをじっと見つめ考えこむ。
(もう帰ってる……だろうな。さて、どんな状況になってるんだ?)
当然モヨモト作のこの家は防音対策は完璧にして作られているのでドアに耳をあてても音は漏れてはこない、が、それでも耳をあてずにはいられないテュールであった。そんな時に――。
「パパー!」
ガチャ。バンッ。
「ふぐわっ」
飛び出してきたのは小さな少女。開けた扉がテュールにぶつかったことなど意にも介さず、半開きになったドアからスルリと抜け出し抱きついてくる。当然モヨモト設計の家は外部の気配は内部に伝わるようになっている。そう不思議ハウスである。
(い、いってぇ~。さ、流石モヨモト設計の家だ……。気配が全く感じられなかった……)
「パパおかえりなたーい!」
「お、おう。ただいま」
抱きついてきた少女を両手で掴み、目線を同じ高さにして挨拶を交わす。
(当然、この子が出てきたということは俺の帰りにみんなも気付いているだろう……。さて、腹を決めますか)
テュールは半開きになったドアを開き――。
「ただい………………ま」
居間でうずくまっているセシリアを見て、凍りついた。
………………。
居間には全員が集合しているが、誰一人口を開かず非常に重い空気だけが存在している。
「パパー? どうちたの?」
少女だけが一人無邪気にその空気を切り裂く。
「…………」
(いや、そりゃそうだよな……。セシリアの告白の回答を先送りにしていたのにいきなり子供連れてこられたらそうなるのは当然だ……)
ようやく事の重大さに気付いたテュールは何と声を掛けていいか分からず黙り込んでしまう。その時――。
「おい、テュール。あんたはうちの孫娘を放ったらかしにして他所で子供を作ってくるってのはどういうことだい?」
ルチアが静かに問うてくる。
(知らなかったと言うか? そんなつもりはなかったと言うか? どう考えてもそんな言い訳で済ませていい問題じゃない……)
どう答えていいか考え込むテュールにリオンからも言葉が掛かる。
「テュール。おめぇ何も言えねぇのか? ならもういい、そのまま黙って歯を食いしばれ」
リオンの眼光がするどくテュールを突き刺し、拳が強く握られる。それを見たテュールも覚悟を決め、腕に抱えた小さな少女を離れた場所にそっと座らせ、扉の前に戻り、目を閉じ歯を食いしばる。
ヒュッ。
リオンの動いた気配をテュールが感じる。そして目の前に迫りくる拳が――。
「てってれー」
テュールの顔の直前で止まると、覚悟を決めたテュールにはいつまでも衝撃はこず、代わりにやってきたのは間抜けな効果音と――。
「……ん?」
そっと片側の眼だけ開くと目の前にはドッキリの看板。
「…………」
テュールは目の前の事態に追いつけず、目を白黒させる。
「す、すみません! テュールさん! 私はこんなことしたくないと言ったのですが……」
慌ててセシリアがテュールに駆け寄り、頭を下げてくる。
「……どういうこと?」
「なーに、ただのドッキリだ。この子のことは前からみんなに相談していたからな」
レフィーが少女を抱きかかえながらそんなことを言ってくる。テュールは一同を見渡し、ねぇほんと? という視線を投げかける。
「ホホ、ワシらは知らなんだよ。知っとったのは孫達だけじゃ」
「フハハハ、我にも言わず勝手に魂魄継承するとは流石は我の孫だな! フハハハ!」
「つーわけで、事情を聞いた俺達が急遽お前に危機感持たすために仕掛けたわけだ。ガハハハ、ビビったろ? ま、これでなぁなぁにしていい問題じゃねぇことに気付けたわけだ。俺ぁ龍族のしきたりは詳しくないが、こういう場合は……どうなるんだ? やっぱ結婚になんのか?」
リオンがテュールから視線を外し振り返ってファフニール、アンフィス、レフィーに尋ねる。
「ふむ。魂契約と魂魄継承は生涯一度きり。ましてや王族の直系……普通であれば結婚であろうな。だが、どうやら孫達は何か考えているみたいだな」
ファフニールが答えている間にもレフィーやセシリア、カグヤ、レーベ、リリスに動揺は見られない。
「うん! テューくんがレフィーだけのものになったら困るのだ! リリスも子供欲しいのだ!」
(ブッ!! こんの幼女は何言ってやがんですかね?)
「私もししょーとの子欲しい。強くする」
(……レーベはなんだか本当にただ強い子供が欲しいから言ってるだけな気がする。というかこの子達の貞操観念は大丈夫だろうか? いや、下手したらどうやって子供ができるのか知らない可能性も……?)
「当然、私もテュールさんとの子供は欲しいですからね……?」
上目遣いでモジモジしながら言ってくるセシリア。
(うん、これは知ってますわ)
そして、次はまるでカグヤが答える番だとばかりに一同の視線が集まるが――。
「え、何かな? フフ、みんな? 好奇心はマンティコアをも殺すって知ってるかな?」
笑顔で躱していた。
「というわけで暫く結婚の話はなしだ。少なくとも卒業するまでは、な。お祖父様、勝手なことを言って申し訳ありません」
「フハハハハ!! 仕方あるまい! だがテュール。お前には我のひ孫を守る責任がある。今まで以上に強くなってもらわねければな。だがその前に――」
(その前に……?)
「ホホ、その子の名前じゃな」
(最初からこうしておけばよかった……。いや、仕方ない。こんな状況なんだうっかりの一つや二つあるある。どんまいどんまい。さて…)
ようやく辿り着いた玄関の前でテュールは黒套を消し、ドアノブをじっと見つめ考えこむ。
(もう帰ってる……だろうな。さて、どんな状況になってるんだ?)
当然モヨモト作のこの家は防音対策は完璧にして作られているのでドアに耳をあてても音は漏れてはこない、が、それでも耳をあてずにはいられないテュールであった。そんな時に――。
「パパー!」
ガチャ。バンッ。
「ふぐわっ」
飛び出してきたのは小さな少女。開けた扉がテュールにぶつかったことなど意にも介さず、半開きになったドアからスルリと抜け出し抱きついてくる。当然モヨモト設計の家は外部の気配は内部に伝わるようになっている。そう不思議ハウスである。
(い、いってぇ~。さ、流石モヨモト設計の家だ……。気配が全く感じられなかった……)
「パパおかえりなたーい!」
「お、おう。ただいま」
抱きついてきた少女を両手で掴み、目線を同じ高さにして挨拶を交わす。
(当然、この子が出てきたということは俺の帰りにみんなも気付いているだろう……。さて、腹を決めますか)
テュールは半開きになったドアを開き――。
「ただい………………ま」
居間でうずくまっているセシリアを見て、凍りついた。
………………。
居間には全員が集合しているが、誰一人口を開かず非常に重い空気だけが存在している。
「パパー? どうちたの?」
少女だけが一人無邪気にその空気を切り裂く。
「…………」
(いや、そりゃそうだよな……。セシリアの告白の回答を先送りにしていたのにいきなり子供連れてこられたらそうなるのは当然だ……)
ようやく事の重大さに気付いたテュールは何と声を掛けていいか分からず黙り込んでしまう。その時――。
「おい、テュール。あんたはうちの孫娘を放ったらかしにして他所で子供を作ってくるってのはどういうことだい?」
ルチアが静かに問うてくる。
(知らなかったと言うか? そんなつもりはなかったと言うか? どう考えてもそんな言い訳で済ませていい問題じゃない……)
どう答えていいか考え込むテュールにリオンからも言葉が掛かる。
「テュール。おめぇ何も言えねぇのか? ならもういい、そのまま黙って歯を食いしばれ」
リオンの眼光がするどくテュールを突き刺し、拳が強く握られる。それを見たテュールも覚悟を決め、腕に抱えた小さな少女を離れた場所にそっと座らせ、扉の前に戻り、目を閉じ歯を食いしばる。
ヒュッ。
リオンの動いた気配をテュールが感じる。そして目の前に迫りくる拳が――。
「てってれー」
テュールの顔の直前で止まると、覚悟を決めたテュールにはいつまでも衝撃はこず、代わりにやってきたのは間抜けな効果音と――。
「……ん?」
そっと片側の眼だけ開くと目の前にはドッキリの看板。
「…………」
テュールは目の前の事態に追いつけず、目を白黒させる。
「す、すみません! テュールさん! 私はこんなことしたくないと言ったのですが……」
慌ててセシリアがテュールに駆け寄り、頭を下げてくる。
「……どういうこと?」
「なーに、ただのドッキリだ。この子のことは前からみんなに相談していたからな」
レフィーが少女を抱きかかえながらそんなことを言ってくる。テュールは一同を見渡し、ねぇほんと? という視線を投げかける。
「ホホ、ワシらは知らなんだよ。知っとったのは孫達だけじゃ」
「フハハハ、我にも言わず勝手に魂魄継承するとは流石は我の孫だな! フハハハ!」
「つーわけで、事情を聞いた俺達が急遽お前に危機感持たすために仕掛けたわけだ。ガハハハ、ビビったろ? ま、これでなぁなぁにしていい問題じゃねぇことに気付けたわけだ。俺ぁ龍族のしきたりは詳しくないが、こういう場合は……どうなるんだ? やっぱ結婚になんのか?」
リオンがテュールから視線を外し振り返ってファフニール、アンフィス、レフィーに尋ねる。
「ふむ。魂契約と魂魄継承は生涯一度きり。ましてや王族の直系……普通であれば結婚であろうな。だが、どうやら孫達は何か考えているみたいだな」
ファフニールが答えている間にもレフィーやセシリア、カグヤ、レーベ、リリスに動揺は見られない。
「うん! テューくんがレフィーだけのものになったら困るのだ! リリスも子供欲しいのだ!」
(ブッ!! こんの幼女は何言ってやがんですかね?)
「私もししょーとの子欲しい。強くする」
(……レーベはなんだか本当にただ強い子供が欲しいから言ってるだけな気がする。というかこの子達の貞操観念は大丈夫だろうか? いや、下手したらどうやって子供ができるのか知らない可能性も……?)
「当然、私もテュールさんとの子供は欲しいですからね……?」
上目遣いでモジモジしながら言ってくるセシリア。
(うん、これは知ってますわ)
そして、次はまるでカグヤが答える番だとばかりに一同の視線が集まるが――。
「え、何かな? フフ、みんな? 好奇心はマンティコアをも殺すって知ってるかな?」
笑顔で躱していた。
「というわけで暫く結婚の話はなしだ。少なくとも卒業するまでは、な。お祖父様、勝手なことを言って申し訳ありません」
「フハハハハ!! 仕方あるまい! だがテュール。お前には我のひ孫を守る責任がある。今まで以上に強くなってもらわねければな。だがその前に――」
(その前に……?)
「ホホ、その子の名前じゃな」
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