とある英雄達の最終兵器

世界るい

第64話 はい、ここテストにでまーす

 一夜明けて――


「おはよー。レフィー調子はどうだ?」


「あぁ、なんともない。大丈夫だ」


 と、15人という大所帯での朝食場面でテュールとレフィーはそんな会話を交わす。


 言葉通りレフィーの体調は良くなったようで顔色も普段通り、食事も問題なく食べられているようだ。皆もひと安心して朝食をとり、賑やかな食事が終わると登校の準備をはじめる。


 ――――――


「おはよー」


 テュールが教室の扉を開きながら挨拶をする。周りからもごく自然に挨拶が返ってくる。3ヶ月もすればクラスメイト同士の距離も縮まり、気楽に挨拶や会話が飛び交うようになる。そんな中の一人が――


「おい、テュール。貴様カグヤ様に迷惑はかけていないだろうな? あとあまり馴れ馴れしくするんじゃないぞ」


「おう、クルードおはよー。毎日毎日同じこと言ってて疲れないか? そこらへんはカグヤ様に確認してくれー」


 日常と化したクルードとのやり取りを終え、自分の席へ座るテュール。クルードもそれ以上は食い下がることはなく、フンと一つ鼻を鳴らしてカグヤをはじめ、王族の少女たちに挨拶をしにいく。


「カグヤ様おはよう御座います! 御機嫌如何でしょうか? それとテュールは何か失礼なことをしていませんでしょうか!?」


「あ、クルードくん、おはよう。ううんー大丈夫だよ~、あ、アイリスちゃんおはようー!」


 カグヤもだいぶクルードの対応が雑になってきているな……。


「あ、カグヤ様……」


 そんなセツナさが滲みきった声を出すなよ公爵家の人間……。そして、後ろからトントン――リリスが公爵家の人間の肩を叩き、振り向かせる。


「ハッ! リリス様! おはよう御座います。透き通るような肌、妖艶な瞳、本日もお美していらっしいますね」


「うむ、苦しゅうない」


 腕を組みふんぞり返りながらリリスが挨拶を返す。


 学校に来ると毎回あれやってるけどリリス楽しいか、それ? そしてレーベも次、私の番と言った風に指を自分に向けている。


「レーベ様もおはよう御座います! 可憐さの中に凛々しさが秘められたまるで野に咲く百合の如き佇まい、学ばせていただきます」


「くるしゅーない」


 シュタっと手を挙げて答えるレーベ。クルード君は何を学ぶ気なんだろう……。


「レフィー様! ――」


「ん、おはよう」


「セシリア様! ――」


「フフ、おはようございます」


 こうして、公爵家の人間の務めが終わると大体――チャイムが鳴る。


 そして、ルーナが教室へ入ってきていつもと変わらないホームルームが行われ、その後は座学の授業が始まる。


「さて、今日の授業は宗教についてだ。この世界には5大宗教と呼ばれる宗教があるが……、当然答えられるな? 男子リーダー」


「はい、5大宗教はグリッド教、ラウス教、クライス教、ナーブ教、ログム教の5つで、順番に人族、獣人族、龍族、エルフ族、魔族が信仰する宗教です」


 時折――というより明らかに他の生徒より高頻度で当てられる男子リーダーのテュールは、気構えが出来ていたため淀むことなくスラスラと答える。


「うむ、そうだ。5大宗教は5大国ができる遥か前から存在する。そして、この5大宗教の唯一の共通点は――自らの種族こそ至高、他種族は悪――という点だ。まぁこの言い方は少し乱暴だがな」


 教徒の者が知り合いにいるなら気を悪くしないでくれ、と一言挟み、ルーナは続ける。


「もう少し噛み砕いて言うならば、5大宗教は自らの種の繁栄こそが幸せになるための道であり、使命である。そして唯一の信じるべき教えであると、そう説いている。それは暗に他の宗教は邪教、他種族は排斥せよと言っているということだな。そして5大宗教の人口比は5割~9割とも言われ、国や地方によっては教徒でない者は迫害されるということまである」


「……そして、それは5大国を建国した後も変わらなかった。しかしそれは五輝星の目指す未来にとっては邪魔だった・・・・・


 何故だかは分かるな? クラスを見渡し問いかけるルーナ。


「――内乱を治め、5大国家を創り、そしてゆくゆくは5種族の融和を目指していた五輝星に排他主義思想の宗教は容認できるものではなかった。そこで五輝星は5大宗教を禁じようとした」


 生徒達は口にこそ出さないが、現在まで5大宗教は変わらず存在しているのだから先に続く言葉は予想できるといった風だ。


「……そうだ。これは上手くいかなかった。あまりにも教徒が多すぎたこと、そして過激派の存在だ。各宗教の過激派はこれに猛反対し、暴動の先頭に立ち、教徒を扇動した。折角治めた内乱を再燃させることを忌避した五輝星は宗教の自由を許す。だがタダでは転ばず過激派が沈静化したところで5大国の停戦協定を結び、法でこれを縛ることには成功する。そしてそれは今日まで大きく変わりはない」


 と、言いたいところだが――。ルーナの言葉に生徒達は顔を上げる。


「過激派は少しずつ力を蓄えながら異教徒、つまり他種族を排斥しようという動きをみせはじめている。これは五輝星が表舞台から去った後から徐々にだな。そしてその先、最悪の場合には第二次5種族大戦になる可能性すらある。数と思想というのは恐ろしいものだ」


「だから各国の王族を始めとした上層部は無宗教の者で固められており、有事が起こらぬよう抑止力としての武力を高めようと必死だ。そしてこの学園もその延長線上にある、ということだな」


 ここまで分かったか? そう生徒に確認しながらルーナは授業を続け、この後も各宗教ごとの特徴や、宗教間戦争の歴史、宗教が持つ権力などを説明し――チャイムが鳴ったところで授業が終わる。


 ルーナが退室し、扉が閉まると生徒達は示し合わせたかのように一斉に息を深く吐き出し、凝り固まった体をほぐす。


 そしてテュールのすぐ傍から――


「「ひっるやすみっ♪ ひっるやすみっ♪」」


 と、ゴキゲンな歌い声が聞こえてくる。お昼休みウキウキテンション急上昇隊のリリス隊長とテップ副隊長だ。


 そして、そんなリリスは待ちきれないようでテュールの右手を引っ張り、早く行くのだぁ~、と催促しはじめる。


 片や左手にも、早くぅ~、としなを作って引っ張るのが一名。気色悪いから手を握らないで下さい……。


 こうしていつものように第一団の10人で食堂へ移動し昼食をとる。……のだが、テュールにとって昼休みは気が休まらない時間でもあった。


 10人は食堂へ着くと入り口側5人、窓側5人で長テーブルに座る。席順はこの3ヶ月で固定されてしまっている。通路側、レーベ、テュール、リリス、テップ、ベリト。そして窓側、セシリア、カグヤ、レフィー、アンフィス、ヴァナルの順だ。


 はい、おかしいことに気付きますよね? 俺とリリスの位置反対にした方がいいですよね? そうしないと10人で座っているのに俺だけ女子5人に囲まれて座っているようにみえる――


 と、まるで被害者ぶってそう言うと某テップに深淵魅せてやろうか? と、とても怖い笑顔で言われるので口には出せない。が、とにかくそんな状況のため、脇目も振らず文の道、武の道を邁進まいしんしている青春斬り捨て男子の方々から怨嗟えんさの篭った視線を非常に多く頂く。


 最近はあまりの視線の数にうんざりし、極少量、ほんの僅かね? ごくごーく少量の殺気・・を乗せて睨み返している。これで視線は大分減った。余談ではあるが、一度面倒になって全方位に殺気を放ったら食堂中の生徒がカタカタと震え始め、保健室をパンクさせるという事件を起こしてしまったことがある。テヘペロ。


 さて、そんなわけでまだ多少居心地の悪さが残る食堂で食べる本日のお弁当は、ジャン! これ!


「わ~ぉ! 黄色一色! 卵焼きオンリー弁当じゃないかぁ……」

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