とある英雄達の最終兵器

世界るい

第31話 赤毛のお調子者現る

 そして試験当日の朝を迎える。


 テュール達四人は試験会場であるハルモニアの校舎へと向かう。


 ロディニア大陸一、つまりこの世界アルカディア一と言われるこのハルモニア校では、一学年三百人に対し、三万という実に倍率百倍もの申し込みがある。


 余談だがハルモニアの受験料は高めに設定されており、その受験料だけでその一年の黒字を出してしまうほどだ。なので、授業料は安い。最下級冒険者が三ヶ月で稼ぎきってしまうほどには。


 入試資格は十五歳のみ、在籍期間は三年間、留年制度はなく、ついていけなくなれば即退学だ。しかし、狭き門をくぐって入学した生徒の中にはついていけなくなる生徒というのはほとんどいない。但し十五という年齢は盗んだバイクで走り出したくなる年頃だ。バカをやって辞めさせられる生徒はチラホラといるみたいだ。


 さて、入試会場についた四人は、受付を済ます。ちなみ三万人を一度に試験をするなど不可能なため、まずは十日程かけて体術、魔法の試験で人数を千五百名前後まで絞り、後日合格した千五百名を一同に集めて筆記試験となる。


 四人は同時に申し込んだため体術、魔術試験の日にちは一緒だった。しかし、十箇所に区切られた試験会場ではバラバラとなり、お互い最後の声援をかけあいそれぞれが試験会場へと向かう。


 テュールも自分の試験会場へと向かい、辿り着くと椅子が用意されているためそこに座る。どうやら一人一人試験するため順番を待つようだ。椅子は一列に長く並んでおり、前の方に三十人程座っているのが見える。


 結構待たされそうだな、などと思いながらテュールが腰掛けると、すぐさま他の受験生がテュールの横に腰掛ける。すると──。


「やぁやぁ、お兄さん。緊張するねぇ! いやぁ俺もう心臓バクバクでね。あ、俺はステップって言うんだ。気軽にテップって呼んでくれ! な!」


 全然緊張してない様子で赤毛のクルクルパーマ男がそう声をかけてくる。


「え、あ、あぁ、そうですね。緊張しますね。あ、俺の名前はテュールです」


 正直めんどくさいので会話をそこまでに留めようとするテュール。


「テュール君ね? おっけー! よし、テュール! ここで出会ったのも何かの縁だ。お互い頑張ろうじゃないか!」


 君付けから呼び捨てになるまでが僅か一秒であった。


(おっけーの間に俺とお前の関係がどう変わったんだよ……)


 心の中でテュールはツッコむがこれは関わっちゃいけないタイプだと思い、適当な相槌を打つに留める。


 試験は魔法試験を行い、続けて体術試験を行うとのことだ。合わせて五分から十分程で終わるのだが、テュールの前には三十人。二時間半以上もかかる計算になる。その間、ずっとこの男が隣にいるのかと思うとやや憂鬱な気持ちになるテュールであった。


 そんなことはお構いなしにステップは話し続ける。どこから来たの? なんでこの学校に? 将来は? 今彼女いるの? なぁなぁ今並んでいる女の子の中なら誰がいい? おっぱいは……etc、etc。


 そして、二時間半後──。


「でさ、そいつってば二股かけられてて、もうひとりのオトコと彼女が会っているとこに突入して、俺はなんだったんだよ! って言ったらしいのよ! そしたら彼女のほうが……う~ん、保険? だってさ! もう一瞬で冷めて、お幸せにって言って帰ってきたらしいぜ。つか、俺の話だけどな!! ダハハハ!!」


「ダハハハ! それマジでウケるわ! てお前の話だったんかい! で、向こうのオトコはどんな反応だったんだ?」


「お、俺も保険か? 俺も保険なのか!? って。そしたら彼女が保険はたくさんあった方が安心でしょ? って言うもんだからそのオトコ愕然として最高に間抜けな面だったぜ? ま、女を乳だけで選ぶとろくなことないな! ナハハハ!」


「仕方ないさ、おっぱいの前では俺達男は無力なんだ。理屈じゃない、あれだけは理屈じゃないんだ」


「そうだな。俺はいくつツライ恋を味わっても、おっぱいがそこにある限り歩みを止めることはないだろう」


「テップ──」


「テュール──」


 ガシッ、熱く手を握り合う二人。


「次、三万七千六百九番の方どうぞー」


「あっ、俺だ。じゃあテップ必ずお互い受かろうぜ?」


「あぁ、もちろんだ。テュール。気合入れてな!」


 そう言って、握りあった手のひらを拳に換えてコツンとぶつけ合う二人。


 ──めちゃくちゃ仲良くなってた。


 そしてテュールが試験会場の中に入ると、試験官が複数人座っており、一人が試験内容の説明を始める。


 要約すると、的に対して魔法を放ち、その魔法陣の大きさ、コントロール、威力をみるとのこと。


 この三ヶ月で冒険者や街の人の平均的な強さ、魔法のレベルは分かったが、ここの受験生のレベルはよくわからなかった。テップが詳しいようでどのくらいまでが合格ラインで安全圏でトップクラスかということを教えてくれた。


 ハルモニアは一学年が三十人の十クラスからなる。そのクラス分けは成績順に編成されるため、テュールはトップクラスであるSクラスの真ん中あたり十五位あたりを狙いたかった。そこで具体的な目安を教えてくれたテップには感謝だ。


 そしてテップ曰く・・・・・トップクラスに入るには直径五m以上の魔法陣を完璧にコントロールし、かつ七枚ある的を全て完全に消滅させるレベルらしい。流石ハルモニア校、十五歳にして幻想級魔法を使える者がゴロゴロしているとは……とテュールは感心したものである。


「では、どうぞ」


「はいっ! よろしくお願いします!」


 テュールは的を睨みながら考える。五mでギリギリトップクラスなのだから、保険として八mくらいにしておこう、と。そして、距離、枚数、威力を瞬時に計算し、魔法陣を両手に連ねはじめる。


 最短の的まではおよそ三十m。そこから奥へと三次元的に不規則に並べられた七枚の的。


 テュールの両手にあった魔法陣が一枚へと収束され、八mもの魔法陣となる。


 それを見た試験官達がざわついている。


(む、どこか陣に間違いでもあったのだろうか? いや、完璧だよなぁ。魔力を通した感じも違和感はないし)


 何万回も魔法を使ってきたテュールは、魔法陣に流した魔力の流れでそれが正しいか、間違っているかくらいすぐに分かる。そして、今回の魔法陣が計算通りの動きをするであろうことを確信し、目の前の的に意識を切り替えて放つ──。

 
 「ちょ、待っ──!」


 試験官の声が聞こえた気がするが、その声と同時に現れた七匹の龍によりその声はかき消されてしまう。テュールの魔法陣から現れた炎で、氷で、雷で、水で、土で、風で、闇で創られた龍が吠えたのだ。


 そして、距離がバラバラであるにも関わらず、速度を調整し、龍は同時に的を喰らい尽くす。


 的が消滅したのを確認し、テュールが指をパチンと鳴らし、龍を霧散させる。コントロールも威力も申し分ないはずだ。


(ん? そう言えば放つ直前何か声を掛けられた気が……)


「えと、何か言いましたか?」


「い、いや、大丈夫だ……。次は体術の試験だ……。あぁ……隣へ」


 はい、と返事をして体術試験場こちらと書かれたプレートに沿って歩く。


 歩いている最中に考えたのは、試験中やけに試験官がこちらの様子を窺うようにチラチラと見てきたこと、コソコソと話をしていたことだ。もしかしたらあまり評価がよくないのかも知れないと不安になりはじめたテュールは体術試験こそは文句なしの成績を取ろうと気を引き締め直したのであった。

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