とある英雄達の最終兵器

世界るい

第15話 ヨモマツさん達

 ざわざわ……ヒソヒソ……。


(あら、あんな若いのに犯罪を……)


(ママー、あの人達なんでおててに縄──。シッ見ちゃいけませんっ)


(世知辛い世の中だねぇ~。身なりはいいのに……あれも盗んだのかねぇ)


 連行されている四人は非常に注目を浴びていた。もちろん悪い意味で。


(ック、騒ぎを起こさないはずが……、この街で目立たたないようにするという目標が……!)


 悔しい顔で下を向くテュール。縄を手にかけられているのが気に入らないのかアンフィスもやや不機嫌そうだ。だがヴァナルとベリトはいつもと変わらずニコニコしている。


(なんでお前らそんな堂々と笑いながら連行されることができんだよ……)


 一瞬自分がおかしいのかとも思ったが、やはり笑いながら連行されるヴァナルとベリトの方がおかしいと気付き、呆れるテュール。


「着いたぞ、入れ」


 市門から十分程歩き、羞恥地獄を堪能したテュールはようやく到着したことにホッと息をつく。衛兵が着いたという建物は実に堅牢そうな建物でその入り口にはやはり同じ制服を着た衛兵が立っていた。


 テュール達を連行してきた市門での衛兵──門兵は、中の人達に軽く挨拶をし、事情を説明する。その内の一人が門兵の代わりに市門へと駆り出されたようだ。


 そして門兵は椅子に座り、背もたれによりかがりながら問い始める。当然四人は縄で繋がれ立たされたままで。


「で? 正直に言ってみぃ? 次アホなこと言ったら二度とこの街の土は踏ませないからな?」


「あ、はい、すみませんでした。私のど田舎集落は自給自足が基本で、交易と言っても物々交換が基本でした。つまり貨幣の流通がほとんどなくですねぇ、私達もいざリバティへ出立したはいいもののお金の存在をすっかり忘れていまして、ハハ、無一文でここまでやってきしてしまった次第でございます」


 テュールが真剣な表情でやや早口にそう答える。


「ハァ……、まぁそんな田舎もあるだろう。で、なんで嘘ついたんだ?」


 門兵はギィと背もたれから体を起こし、机に肘をついて下から睨むように問い詰める。


「すみません。とっさのことでつい焦ってしまいまして……、そのぉー……あ、怪しまれるのをですねぇ……避けようかなぁ? ……と」


 その視線に怖気づいたのか、言葉を続ける内に徐々に尻すぼみになっていくテュール。そんなテュールをジト目で見つめる三人。


(ック、門兵さんは分かるが、お前らまでなんだ! 確かに今回の失敗、あぁそうだ失敗と言ってもいいだろう。だがその失敗を認め、許し、支えるのが家族だろう! なぁ!)


 身内には強気なテュールが睨み返す。三人はやれやれと言った様子で肩をすくめ首を横に振る。


(あ、しかも笑いやがった)


「あぁ、分かった分かった。お前らが仲良しこよしで、まぁ悪いヤツでもなさそうなことは分かった。今回は多目に見てやる」


「門兵さん、ありがとう!!」


 そんな様子を見ていた門兵は自分だけ真剣に取り調べをしていたのがアホらしくなったのか、肩の力を抜きそう言う。現金なものでそうなったらテュールは目を急にキラキラさせて感謝の言葉を向ける。


「ったく、調子がいいな。まぁいい。で、だ。この街では仮入場パスってもんがある。一回限り、一ヶ月の間有効だ。この期間に金をなんとかして正式な入場手続きをとれ」


 ほれ、これが仮入場パスだ。と言ってカード状の入場券を四枚渡される。


「金をなんとかしたいなら冒険者ギルドに行け。仮入場パスを持っていけばギルドでも仮登録してもらえる。そこに雑用やらなんやらの依頼が転がってるから必死にこなせ。宿はギルドの隣に安宿がある。うちにも冷たくてジメジメして鉄格子のついた部屋ならあるがあいにくお前らをタダで泊めてやるほどお人好しじゃない。世話させんなよ? わかったな?」


 そう言って説明した後、丁寧にギルドへの道順まで教えてくれる門兵。


(ック、ぶっきらぼうだけど意外に面倒見がいい。ツンデレ門兵さんとかキュンと来ちゃう。いや、来ないけど)


 そして四人は名前を教え、門兵の名前も教えてもらう。ウェッジというらしい。


「ウェッジさん迷惑かけてごめんね? あとありがとう」


 そう言うとテュール達の事務手続きをしているのかウェッジは顔は上げず手をひらひらと振る。


 そして詰め所での手続きを終えた四人は外へと出る。


「やはりシャバの空気は美味い──」


 ゴンッ。喋るや否や、アンフィスに頭を殴られるテュール。


「ったく、今回のはヒヤヒヤしたぞ! お前これでリバティへ入れず、島に戻ってみろ。……ルチアに確実に消されるぞ?」


(た……、確かに……!!)


 何をするんだと言い返そうとしたテュールであるが、アンフィスの的確すぎる指摘に青ざめ納得してしまったのであった。


 そして、そのフラグの先には──。


「へっくちっ」


「ホホ、ルチア珍しいのー、風邪かの?」


「ガハハハ!! ババア歳じゃねクロノミコンッッッ!!」


 ……フシュ~。……ピクッピクッ。


「ふん、どこぞのガキ共が悪口でも言ってるんだろうよ。次会った時はキツイ修行でも据えてやらなきゃさね」


「フフ、案外入場料払えないで門前払いされてたりしているかもね~。それでココに戻ってきてルチアお金頂戴~、なんて相談しているのかもね。フフフ」


 ──まっさかー、アハハハ──。


 あながち笑い飛ばせない状況になっていることを知る由もないイルデパン島の面々達であった。


 そして、こちらではヴァナルが青ざめたテュールをフォローする。


「まーまー、こうやって入場もできたんだし、あんまり怒らないであげよーよ。それに面白かったしぃー。ゴルドウマイか? ゴルド食ウか? ププ」


 失礼。正しくはこちらではヴァナルが青ざめたテュールを煽っているであった。


「ブフッ! ん、コホン……失礼しました。そうですね、今回は私も失念していました。申し訳ありませんでした。反省はここまでにしておいて次の事を考えましょう。入試まで三ヶ月程、それまでに正規入場パス料、日々の生活費、入試費用、一年分の学費を稼がなければなりません。遊んでいる時間はありませんね」


「まぁ、それもそうだな」


 だが結果としてアンフィスもこれで納得し、拳をテュールの前に突き出す。


「あぁ、今回は俺のせいですまなかった」


 とは言え、やはり一歩間違えれば出入り禁止になりかねない事態を引き起こしたことに対し、謝るテュール。そしてアンフィスの拳に自分の拳をコツンと合わせる。


「よーし、目指すはギルドだ! 稼ぐぞ! 野郎どもー!」


「おう!」


「おー!」


「畏まりました」


 そして詰め所からギルドを目指し歩き始める四人。


「ウェッジさんから教えてもらった道だとこっちへ入ってぇ──」


 テュールがウェッジから貰った簡易的な地図を見ながら歩いていると、日当たりの良くない路地裏に差し掛かる。──トントン。


 不意にベリトに肩を叩かれるテュール。振り返ると一点を見つめているベリト。テュールがそれを追うと──。


 路地裏の陰でムキムキなタンクトップのモヒカン男三人とゆるふわカールの美少女エルフがお話しをしていた。


「やれやれ……世も末だねぇ」


 テュールはそう零して、会話に混ぜてもらいに行こうとするのであった。

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