とある英雄達の最終兵器

世界るい

第03話 バカなの? ねぇバカなの? はい、バカです!

「るちあー、まほーがつかいたい」


「おやまぁ、テュールは魔法が使いたいのかね? う~む、一歳から魔法を使うのは流石に聞いたことがないさねぇ……」


「ガハハハ、いいじゃねぇか! テュールは賢い、きちんと言えば聞く子だ。それに一歳から魔法を覚えていけば将来も有望だ」


「そうだね~ボクも賛成~。ボクも色々とテュールに教えてあげたいしぃ~」


「そうじゃな、ワシもテュールと身体を動かしたいしのぅ……」


「ふむ、男連中は乗り気かい……、まったくいくつになっても男ってのはガキみたいに目を輝かせやがって……。まぁいいだろう。テュール魔法を教えてやってもいい。だが魔法は強い力だ。簡単に命ある者を傷つける。力に溺れるんじゃないよ?」


「わかったー!」


「よし、偉いねぇ。じゃあまず魔法の説明をしよう。魔法ってのはね、この世界の空気中に漂っている魔素を使う。世界にいる五種族はどの種族も全て呼吸とともにこの魔素を取り込み、体内にプールできる。そしてそれを放出し魔法が発動する。ここまではいいかい?」


 当然、いいわけがない。一歳児がこれを理解するのは不可能である。が──。


「うん、だいじょーぶ」


 テュールは本当に理解した上でそう返事をする。腐っても中身はおっさんである。そんなテュールを怪しむこともなくルチアは言葉を続ける。


「そうかい、そうかい。それじゃ続きだ。ただ単に体内の魔素を放出するだけじゃ魔法は発動しない。その魔素を魔法陣に変えるのさ。これが難しい。魔法陣の意味を理解し、緻密な図を頭のなかで完璧にイメージしなきゃできない。一般人の多くは直径五cm程の魔法陣が限界さね」


 そう言ってルチアは手の平サイズの魔法陣を書いてみせる。その魔法陣は完成すると淡く光り、テュールの前髪を少し浮かす程度の風を起こす。


「直径五cm未満の魔方陣による魔法を下級魔法、生活魔法と呼ぶさね。直径五cmを越えればもう中級魔法だ。直径十五cmともなれば上級魔法、直径五十cm以上なんてのは超級魔法、直径二mを越えれば幻想級魔法、そして二十m以上の魔法は神代級魔法と呼ばれている」


「へー! るちあは、どこまで使えるのー?」


「そうさねぇ、あたしゃ幻想級までは使えるさねぇ」


(え? 幻想級ってスゴイんじゃないのか? それとも案外普通なのか? いや、けどルチアが一般人は下級魔法が精一杯って言ってたしなぁ……)


「もよもととりおんとてぺすは?」


「あー、ワシらも幻想級までは使えるのぅ。まぁじゃが幻想級の魔法なんて使わないに越したことはないのぅ……。生きていくには本来生活魔法だけで十分じゃからのぅ……」


 モヨモトがそう言うと他の三人もなんとも言えない苦い顔をする。


「みんな、すごいんだねぇー」


 場の空気の読み合いを強要され続けた元日本人のテュールは、その微妙な空気を察知するが、あえて何も言わず感心した体を見せる。四人とも幻想級が使えるということは幻想級まではある程度の人間が使えるのかも知れないと考えながら。


「ホホホ、そうじゃろ! そうじゃろ! テュール見ておるんじゃ、ワシが幻想級魔法を見せてやろう!」


 そして、そんな空気をリセットするようにモヨモトが腕まくりをし、ズズズイと前に出てくる。が──。


「こぉらっ、ボケジジィ!! こんなとこで幻想級ぶっ放すバカがどこにいるんだいっ!!」


 あくまでツッコミのつもりだろうが、ルチアの右手は音速を越え、モヨモトの腹部を貫いていた。モヨモトはちょっと逝っちゃった目をしながら吹き飛んでいく。吹き飛んだ先には玄関の扉があるが、吹き飛ぶ速度に先んじるようリオンとツェペシュが家のドアへと駆け寄り、開けておく辺り、このやりとりも慣れたものだと分かる。


 そして開いたドアから数十m程バウンドして、転がり続けたモヨモトはピクピクして──。


(あ、止まった)


「まったく、ボケジジィが……。テュールに少しおだてられたくらいで木に昇っちまって。さ、気を取り直してテュール、まずは生活魔法から魔法陣を覚えていくさね。書斎に魔法陣辞典があるからそれを写す練習さ。地味でつまらない練習だけどできるさね?」


「うん! やるよ!」


「フフ、いい子さね。まずは水魔法を覚えるといい。水魔法ができるようになったら畑で水やりを手伝ってやんな。ボケジジィがそりゃ喜ぶさね」


「うん、まかせて!」


 そして、この日から暇さえあれば魔法陣を写す日々が始まる。


(早速、写しに──)


「待て、テュール」


 行こうとした所で、リオンに待ったをかけられる。テュールは何事かと首を傾げる。


「いいか、魔法を使うには強靭な精神力、体力、集中力が必要だ。それも同時に鍛えていかなければイッパシの男にはなれない。よって、今日から訓練を始める!」


 よほどテュールと遊びたかっ──ゲフンゲフン。そして、付いてこいとそう言うとリオンはズカズカと大きな足取りでドアの外に広がる庭と呼ぶには少し広すぎる草原へと歩みを進める。


 その後姿は朝日に照らされ後光が射しているようにも見え、強者のソレであったが如何せん歩く度に尻尾が左右にウキウキするように揺れており、締まらなかった。


「フフ、リオンもあんなにゴツゴツしてイカついのに可愛いところあるよねぇ~、さ、テュール一緒に行こ?」


 そう言って、ツェペシュは小さなテュールの手を握り、歩きだす。この世界最強の一角達の自重を知らない修行への第一歩を……。


「んじゃー、まずはどうすっか。走るかー。基本だよな? 体力ってやつは」


「そうだねー。あとは重力魔法で少しずつ負荷を増やしていこうかー。時間は有限なんだから質を重視しなきゃね」


「ワシは剣術を教えたいのぅ……。ワシの唯一の自慢じゃし……」


 いつの間にか庭の隅っこからムクリと起き上がり合流してきたモヨモトもそう続く。


「んじゃ重力魔法で体を重くしつつ、走る。その後は剣術の型訓練。んで、俺の格闘術の訓練。ツェペシュはどうする?」


「んー、ボクは魔法の方で訓練に付き合うから体作りはモヨモトとリオンに任せるよー」


「ん、分かった。んじゃテュール、重力魔法かけるぞ。二倍くらいから始めるか。ほい」


 そう言うとリオンの指先にキラキラとした二m程の魔法陣が現れ、消えたと思うと急に身体が重くなる。


「おも、い」


 ペシャン。


 テュールは自重に耐えきれず這いつくばることとなる。


「ガハハハハ!! なんだテュール情けないな! まぁ初日だ、少しくらいサービスするか」


 そう言うとリオンはもう一度魔法陣を書き直す。するとテュールの体は先程より軽くなり、プルプル震えながらも立つことができた。


「ホホ、がんばるんじゃ、テュール気合じゃよ、気合。さ、ワシと一緒に走ろう」


「だな、気合だ、気合! テュール俺も一緒に走るぞ! さ、いくぞ!」


 なんとか一歩を踏み出し、ゆっくりと走り出す一歳児とそれに付き添う大男と老人。一歳児は苦しそうな顔をしているが、大男と老人はそれはそれは優しい顔で楽しそうに走っていました。めでたしめでたし。


(いや、なんもめでたくねぇ! 一歳児に重力増やして走らせるとか正気じゃねぇだろ!? つか普通一歳児走れねぇからな!? 前世で走り方知ってて身体の動かし方理解しているからできてるけどギリギリだからな! この身体バランス悪いんだからな!? 頭重てぇよ!)


 だが、幸せそうな二人の顔を見ていると泣き言は言えないテュールであった。


 そして一時間程走る。というのは語弊があるかも知れない。なぜなら後半はもはや這いつくばるという表現が正しいからだ。


「そうだ、テュール限界を迎えて人は初めて強くなれる! お前は今限界を迎えながらもやりきったんだ!! 偉いぞ!!」


「そうじゃ、そうじゃ、偉いのぅ、テュールは」


 そう言って二人してテュールの頭を撫でる。


「さ、次は剣術の時間じゃな!」


(バカなの? ねぇバカなの? 今限界迎えたっておっしゃったじゃない? ねぇ?)


「そうだな! その次は格闘術だな! 楽しみだ! ガハハハ!!」


(あ。ダメ。無理。限界。おやすみ……)


 意識をギリギリで保っていたテュールは、モヨモトとリオンの言葉に最後の精神力を削られブラックアウトする。


「はいはい、お二人さん初日から飛ばしすぎだよ~。今日のところはここでおしまいー。また、明日ね?」


「む、むぅ、まぁ確かに……」


「そ、そうじゃな……」


「カカッ、男ってのは本当にバカでガキで手に負えないさねぇ」


 そして、そんな男性陣を遠巻きに眺めながらルチアは今日も呆れながら笑うのであった。

コメント

  • 世界るい

    以下で合っているんですけど、表現の仕方が分かりにくいかなということで修正しました!応援ありがとうございます(*≧∀≦*)

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