ぼっちの俺、居候の彼女
act.1/初めての挨拶
――ゾォォォォォォオオオオオ!!!
ガチャンッ!!
重たい体を起こすや否や、俺はおぞましい音を立てて起こしにくる、黒くて血の垂れたデザインの目覚ましを止める。
そうして気持ち悪い朝が始まると、真っ黒なカーテンを開けて窓を開けた。
時は6月、体育祭が終わって平和な高校2年の夏――鎌を持った死神がきったねぇ赤い物を斬るポスターと、それを囲うように貼り散らかされたお札に目を向ける。
「おはざーっす……今日こそあのクソババァを殺してくれますように」
両手を合わせて祈ると、俺は机の上にある水晶――その横にあった耳密閉型のヘッドホンを取り、頭に付けて端子をmp3プレーヤーに繋ぐ。
黒と白で骸骨をイメージされたパジャマを脱ぎながら、音楽プレーヤーを付けて朝飯と弁当を作り出した。
明星利明という、明けるという漢字が2つも入った、めでたいんだか不憫なんだかわからない名前を貰って、17年の時が過ぎた。
高校に入ってから一人暮らしを始め、実家からは有って無いような仕送りをもらいながら生活をする高校生だ。
朝飯と弁当を自炊して節約し、日々を乗り越えて生きている。
「……平和だな〜」
耳に入ってくる穏やかな機械音を聞きながら俺はポツリと呟く。
1人になると寂しいのか、自分で自分に語りかけることもありけり。
そんなこんなでメシを作り終え、パジャマを洗濯機にプチ込んで回し、制服に着替えてから朝食を食う。
高校生が作るメシは豪勢なものじゃなく、白米に味噌汁、焼き魚と野菜の酢漬けとか。
あとは朝にヨーグルトを食べて1日の活力を得る。
すると大体8時ぐらいで、洗濯物を出して干して、歩いて5分の高校には自転車でなんとか登校が間に合う。
今日も晴天のおかげで遅刻もなく、朝のHRに間に合った。
開きっぱなしの扉をくぐり、2-5と書かれた教室に入ると、クラスメイト達が騒いで喧騒を立てていた――と思う。
俺はヘッドホンからの音しか聴いて居ないのでわからなかったが、多分タノシクオシャベリしているだろう。
俺、明星利明には、雑談をする相手が居なかった。
だから自分の席に座るとテコでも動かず、持ってきたノートPCの電源だけ付けて、すぐに始まるHRに渋々耳を傾けるのだった。
教師は今日もどうでもいいことをツラツラ喋り、俺は「もういいや」と諦めて目線を横に流した。
ボンヤリと俺は考える。
俺はぼっちだ。
なりたくてなったし、なる理由もあったから他人と壁を作った。
人と人が接する理由って、なんだろう。
そういう事をよく考える。
原点でいう親子っていうのは元々親が生んだから子に接し、子は親に対して無邪気に接する。
それは避けられない事だし、仕方のない事だ。
でも、この同世代の人間達はどうだろう。
わざわざ学校という狭い場所に机を整然と並べられ、無くても困らない知識を詰めこめられる。
そこにコミュニケーションは必要なんだろうか。
たわいのない会話を続けて、友達だという泊を手に入れて優越感に浸って、俺はリア充だ、なんて誇張する奴だって現れる。
豚が豚小屋でブゥブゥ喚いているのと変わらないのに、彼等はきっと気付かないのだろう。
会話なんて何処ででもできるし、大人と子供で会話だってする。
大人は子供扱いするから嫌いだ、なんていう人種は、自分が子供だから子供扱いされるのであって、子供でも大人の振る舞いをすれば対等に接してくれる。
それなのに、なんだかなぁ、と……。
義務教育や世間体からは逃げられない、だから俺は高校にも通う。
今日も渋々ノートを開き、教師の授業を右耳から左耳へ流すのだった。
△
キーンコーンカーンコーン。
古ぼけた時計の鐘の音が放送用スピーカーから響き、昼休みを告げた。
俺は机からはテコでも動かず、弁当と水筒、そしてノートPC、MIDIキーボードを机に並べる。
弁当の中身は知っているので開けても大して気にせず、俺は箸を片手に鍵盤とマウスを交互に扱っていった。
俺の趣味は、音楽を作る事だった。
今の世の中、パソコン1台で曲が作れてしまう。
キーボードはあれば便利だが、無くても手間がかかる程度の事。
音は全てヘッドホンに流れてくるので迷惑にもならず、ぼっちらしい作業をしている為、俺はPCを開くだけで一仕事終えた気になっていた。
気付けば弁当箱は空になり、フゥッと息を吐いて腹に手を当てる。
満腹――そう呟くのもぼっちには許されない。
満足したところで、俺は弁当箱を仕舞い、PCの画面に目を落とした。
トントンッ
だが、肩を小さく叩かれ、俺の行動を阻止された。
条件反射で振り向くと、そこには髪の長い女子が立っていた。
黒髪で、何処か目が死んでいる――しかし、顔立ちは整っており、陽の光を知らないような白い肌をしている。
夏服だから見える透き通った白い腕は華奢で、なんか、こう――
弱そうな女の子だった。
「なに?」
俺はヘッドホンを外し、毒づくように睨みながら訊いた。
これはぼっちの嗜みだ、1人の世界を邪魔されて怒ってますアピールをすると、大抵は反感を買ってくれる。
しかし、彼女は俺の顔を見てニコリと笑う。
「明星さん、初めまして。邪魔をしてごめんなさい」
綺麗な声だった。
冷静で殺伐としたような乾いた、とてもクールな声。
「……なに、って訊いたんだけど?」
オマエウザイと言わんばかりの態度を取る。
だが、少女は表情を崩さずにこう言った。
「明星さん、一人暮らしなんだよね? 私のこと、暫く泊めてくれないかしら?」
その言葉を全て聞き、俺は少し放心してしまった。
この女、なんて言った?
俺の家に、泊まる?
「……何が目的?」
とりあえず、ぼっちである俺に何かしら嫌がらせをしようと考えてるのは間違いなさそうだった。
俺は笑顔で言葉を返すと、彼女も薄く笑う。
「単なる家出です。私、お父さんが嫌いなので、ね……」
「それで他人の脛をかじろうってわけ? 自分の家で親の脛が不味いから他人の家? 笑わせんなよクソガキ、俺は名前も知らない女の尻拭いなんてゴメンだ」
「……同棲してくれるなら、私に何してもいいけど?」
「それはお前、自分は肉体しか取り柄がないって事? なおさらいらねーよ。お前みたいな何もできそうにない女を月数万円掛けて養うわけないじゃん。俺、そんな金ねーし」
「お金は出します……。だから、いいでしょ?」
「…………」
なんだろう、この女は。
俺は何故、教室でこんな暗鬱な女とこんな会話をしなきゃいけないのだろうか。
しかし、まぁ――同棲か。
音楽で生きる俺は盗聴器を仕掛けたりメインPCのHDDを壊されたりしなければ困る事はない。
金も無いって言ったけど、あるしな。
それに、そろそろ良い時期だ。
またアイツに嫌われる要因を増やしても良いだろう。
「――わかった。さっきのは無し、お前を家に入れてやるよ」
「……そう。ありがとう」
「俺が意見を翻した理由、聞かないんだな」
「別に……私はもう、どうだって良いの」
「はーん……」
どうやら、彼女は家庭の事情で相当キテいるらしかった。
そもそも、ヤバい奴じゃなければこんな話にはならないしな。
「で、アンタ名前は?」
「……え? クラスメイトだし、去年も同じクラスだったし、知ってるかと思ったのに……」
「ぼっちは一々クラスメイト達の名前覚えねーよ。で、名前は? 何?」
「……浜川戸、水姫」
「明星利明だ。暫くの間、よろしく頼む」
俺が握手を求めて右手を差し出すと、彼女はゆっくりと俺の手を握り返した。
冷たい手――それは彼女の表情みたいで、何処となく俺と似ているように思えた。
こうして契約は成立し、俺たちの奇妙な同棲生活が始まる――。
ガチャンッ!!
重たい体を起こすや否や、俺はおぞましい音を立てて起こしにくる、黒くて血の垂れたデザインの目覚ましを止める。
そうして気持ち悪い朝が始まると、真っ黒なカーテンを開けて窓を開けた。
時は6月、体育祭が終わって平和な高校2年の夏――鎌を持った死神がきったねぇ赤い物を斬るポスターと、それを囲うように貼り散らかされたお札に目を向ける。
「おはざーっす……今日こそあのクソババァを殺してくれますように」
両手を合わせて祈ると、俺は机の上にある水晶――その横にあった耳密閉型のヘッドホンを取り、頭に付けて端子をmp3プレーヤーに繋ぐ。
黒と白で骸骨をイメージされたパジャマを脱ぎながら、音楽プレーヤーを付けて朝飯と弁当を作り出した。
明星利明という、明けるという漢字が2つも入った、めでたいんだか不憫なんだかわからない名前を貰って、17年の時が過ぎた。
高校に入ってから一人暮らしを始め、実家からは有って無いような仕送りをもらいながら生活をする高校生だ。
朝飯と弁当を自炊して節約し、日々を乗り越えて生きている。
「……平和だな〜」
耳に入ってくる穏やかな機械音を聞きながら俺はポツリと呟く。
1人になると寂しいのか、自分で自分に語りかけることもありけり。
そんなこんなでメシを作り終え、パジャマを洗濯機にプチ込んで回し、制服に着替えてから朝食を食う。
高校生が作るメシは豪勢なものじゃなく、白米に味噌汁、焼き魚と野菜の酢漬けとか。
あとは朝にヨーグルトを食べて1日の活力を得る。
すると大体8時ぐらいで、洗濯物を出して干して、歩いて5分の高校には自転車でなんとか登校が間に合う。
今日も晴天のおかげで遅刻もなく、朝のHRに間に合った。
開きっぱなしの扉をくぐり、2-5と書かれた教室に入ると、クラスメイト達が騒いで喧騒を立てていた――と思う。
俺はヘッドホンからの音しか聴いて居ないのでわからなかったが、多分タノシクオシャベリしているだろう。
俺、明星利明には、雑談をする相手が居なかった。
だから自分の席に座るとテコでも動かず、持ってきたノートPCの電源だけ付けて、すぐに始まるHRに渋々耳を傾けるのだった。
教師は今日もどうでもいいことをツラツラ喋り、俺は「もういいや」と諦めて目線を横に流した。
ボンヤリと俺は考える。
俺はぼっちだ。
なりたくてなったし、なる理由もあったから他人と壁を作った。
人と人が接する理由って、なんだろう。
そういう事をよく考える。
原点でいう親子っていうのは元々親が生んだから子に接し、子は親に対して無邪気に接する。
それは避けられない事だし、仕方のない事だ。
でも、この同世代の人間達はどうだろう。
わざわざ学校という狭い場所に机を整然と並べられ、無くても困らない知識を詰めこめられる。
そこにコミュニケーションは必要なんだろうか。
たわいのない会話を続けて、友達だという泊を手に入れて優越感に浸って、俺はリア充だ、なんて誇張する奴だって現れる。
豚が豚小屋でブゥブゥ喚いているのと変わらないのに、彼等はきっと気付かないのだろう。
会話なんて何処ででもできるし、大人と子供で会話だってする。
大人は子供扱いするから嫌いだ、なんていう人種は、自分が子供だから子供扱いされるのであって、子供でも大人の振る舞いをすれば対等に接してくれる。
それなのに、なんだかなぁ、と……。
義務教育や世間体からは逃げられない、だから俺は高校にも通う。
今日も渋々ノートを開き、教師の授業を右耳から左耳へ流すのだった。
△
キーンコーンカーンコーン。
古ぼけた時計の鐘の音が放送用スピーカーから響き、昼休みを告げた。
俺は机からはテコでも動かず、弁当と水筒、そしてノートPC、MIDIキーボードを机に並べる。
弁当の中身は知っているので開けても大して気にせず、俺は箸を片手に鍵盤とマウスを交互に扱っていった。
俺の趣味は、音楽を作る事だった。
今の世の中、パソコン1台で曲が作れてしまう。
キーボードはあれば便利だが、無くても手間がかかる程度の事。
音は全てヘッドホンに流れてくるので迷惑にもならず、ぼっちらしい作業をしている為、俺はPCを開くだけで一仕事終えた気になっていた。
気付けば弁当箱は空になり、フゥッと息を吐いて腹に手を当てる。
満腹――そう呟くのもぼっちには許されない。
満足したところで、俺は弁当箱を仕舞い、PCの画面に目を落とした。
トントンッ
だが、肩を小さく叩かれ、俺の行動を阻止された。
条件反射で振り向くと、そこには髪の長い女子が立っていた。
黒髪で、何処か目が死んでいる――しかし、顔立ちは整っており、陽の光を知らないような白い肌をしている。
夏服だから見える透き通った白い腕は華奢で、なんか、こう――
弱そうな女の子だった。
「なに?」
俺はヘッドホンを外し、毒づくように睨みながら訊いた。
これはぼっちの嗜みだ、1人の世界を邪魔されて怒ってますアピールをすると、大抵は反感を買ってくれる。
しかし、彼女は俺の顔を見てニコリと笑う。
「明星さん、初めまして。邪魔をしてごめんなさい」
綺麗な声だった。
冷静で殺伐としたような乾いた、とてもクールな声。
「……なに、って訊いたんだけど?」
オマエウザイと言わんばかりの態度を取る。
だが、少女は表情を崩さずにこう言った。
「明星さん、一人暮らしなんだよね? 私のこと、暫く泊めてくれないかしら?」
その言葉を全て聞き、俺は少し放心してしまった。
この女、なんて言った?
俺の家に、泊まる?
「……何が目的?」
とりあえず、ぼっちである俺に何かしら嫌がらせをしようと考えてるのは間違いなさそうだった。
俺は笑顔で言葉を返すと、彼女も薄く笑う。
「単なる家出です。私、お父さんが嫌いなので、ね……」
「それで他人の脛をかじろうってわけ? 自分の家で親の脛が不味いから他人の家? 笑わせんなよクソガキ、俺は名前も知らない女の尻拭いなんてゴメンだ」
「……同棲してくれるなら、私に何してもいいけど?」
「それはお前、自分は肉体しか取り柄がないって事? なおさらいらねーよ。お前みたいな何もできそうにない女を月数万円掛けて養うわけないじゃん。俺、そんな金ねーし」
「お金は出します……。だから、いいでしょ?」
「…………」
なんだろう、この女は。
俺は何故、教室でこんな暗鬱な女とこんな会話をしなきゃいけないのだろうか。
しかし、まぁ――同棲か。
音楽で生きる俺は盗聴器を仕掛けたりメインPCのHDDを壊されたりしなければ困る事はない。
金も無いって言ったけど、あるしな。
それに、そろそろ良い時期だ。
またアイツに嫌われる要因を増やしても良いだろう。
「――わかった。さっきのは無し、お前を家に入れてやるよ」
「……そう。ありがとう」
「俺が意見を翻した理由、聞かないんだな」
「別に……私はもう、どうだって良いの」
「はーん……」
どうやら、彼女は家庭の事情で相当キテいるらしかった。
そもそも、ヤバい奴じゃなければこんな話にはならないしな。
「で、アンタ名前は?」
「……え? クラスメイトだし、去年も同じクラスだったし、知ってるかと思ったのに……」
「ぼっちは一々クラスメイト達の名前覚えねーよ。で、名前は? 何?」
「……浜川戸、水姫」
「明星利明だ。暫くの間、よろしく頼む」
俺が握手を求めて右手を差し出すと、彼女はゆっくりと俺の手を握り返した。
冷たい手――それは彼女の表情みたいで、何処となく俺と似ているように思えた。
こうして契約は成立し、俺たちの奇妙な同棲生活が始まる――。
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