Creation World Online
98話
「はぁあああ!?」
屋敷にアンリの絶叫が響き渡る。
「耳痛いから叫ぶな!」
「な、ななな…なんで縮んでるんですか!?」
「まあ、仕方ないじゃありませんか」
キョウジを抱き抱えて撫でていたユノがそう言う。その頬は心なしか少し緩んでいた。
「兄さんがこんなにかわい…小さくなってしまったのはクエストの効果によるものでしょう。そのチェーンクエストをクリアすれば元に戻ると思います」
今完全に心の声漏れてたな。
すると、俺の体がヒョイっと持ち上げられる。
首を曲げて上を見上げると、そこには少し頬を膨らませたアンリがいた。
「可愛いのはシュウくんです!」
「はあ?何言ってるんですか?兄さんが1番に決まっているでしょう」
「何言ってやがるんですか!この腹黒女!」
「ああん!?何言ってんだはこっちのセリフですから!このど貧乳!」
「はあ!?」
「ああ!?」
バチバチと火花を散らして睨み合うアンリとユノ。
すると、突然2人の頭の上に雪が出現する。その主はナクである。
「2人とも喧嘩やめて。子供の教育に悪い」
「おい待て、子供扱いするな」
「そうだぞ!ナクちゃん!俺は立派な大人だ!」
俺もキョウジも実年齢に換算するともう成人を超えてるんだよな。
しかし、俺達の必死の抵抗も虚しくナクは俺とキョウジの頭を撫で続けている。
☆
チェーンクエストの情報収集のために俺達は、情報屋ギルド『信用会』に行くことにした。
「すいませーん!」
「お、アンリちゃんにナクちゃん!鬼畜が居ないなんて珍し…ハァアアン!?」
受付で作業を行なっていた1人の男性プレイヤーが俺を見てそんな叫び声をあげる。
そんな受付の叫び声を聞いて、奥から数人の職員達が現れては同じ反応をしていく。
「なんだあの目付きの悪い子供」
「もしかして…鬼畜の子供?」
「な、なんだって!だとしたら一大事だ!どっちの子供なんだ!?」
「抱っこしてるのはアンリちゃんだし、アンリちゃんじゃね?」
「いやいや、あの無気力な眼差しはナクちゃんだ!間違いない!」
アンリの子供だとか、ナクの子供だとか、カウンターの向こうで職員達が議論しているのを見て、他の受付NPC達が眉間を抑えながら溜息をついていた。普段からかなり苦労しているんだろうな。
すると、議論をしていたはずの職員達が俺を見つめ、その内の1人がこう言った。
「ボクのお母さんは誰かな?お兄さんに教えてもらえるかな?あ、お父さんのお名前はシュウで間違いないかな?」
「シュウは俺なんだが?」
俺がそう言った瞬間、目の前の職員達の笑顔が固まった。
「おい!なんかとんでもねえこと言われたぞ!」
「あの子供が鬼畜?なんでまたそんな事に?」
「まさか…幼児プレイ?」
「…ああ!なるほど!これは、大スクープだ!」
「ん?何か言ったか?」
出現させた巨大な火球を両の手に出現させながらそう問いかけると、職員達は涙目で首を横に振った。
ため息を吐いた俺は、火球を解除する。
すると、奥から眼鏡をかけた1人の青年が姿を現した。
「なんの騒ぎですか…おや、シュウさん中々愉快な格好をしてらっしゃいますね」
「あのなあ…俺だって好きでこんな格好してるわけじゃないんだよ」
「わかってますよ。それで、今日はどうされたんですか?」
そう言って眼鏡の青年、エンライは柔和な笑みを浮かべる。
「ああ、今回頼みたいのは今俺が受けているクエストについての情報だ」
「なるほど、わかりました。それでは手を貸してもらえますか?」
エンライが俺の差し出した手を握ると、勝手にエアディスプレイが展開され、緑の光が俺の腕を介してエンライの中に入っていく。
「…さて、それでは始めましょう【観測者】」
エンライがスキルを発動した瞬間、エアディスプレイがいくつも展開され、様々な景色やグラフなどが現れる。
これはエンライの固有技能【観測者】の力である。
CWO内における、ほとんどの情報を一瞬で収集できるという完全に情報集めに特化したスキル。そのため、初期の段階では彼を巡ってプレイヤー同士の争いが絶えなかったのだが、ある1人の男、信用会のギルドマスターである『コクゲン』によってその争いは沈静化され、以降エンライは信用会のサブマスターとしてギルドの運営を行っているのであった。
「ふむ…なるほどね。わかったよ。チェーンクエストの発生場所は…ここだ」
「86界層しかも、プレイヤー未踏のエリアだな」
86界層、それはつまり現状最高難易度の敵が出現し、さらにプレイヤー未踏の地となれば何が待ち受けているのかわからない。そして、現在の俺にはある問題があった。
時を奪う、あの女性が言っていた言葉の意味、それは俺のステータスにあった。
俺のレベルは483。しかし、幼児化した現在、俺のステータスは、レベル100相当しかないのだ。当然スキルも制限されており、ある程度ゲームに干渉できる【世界介入】も使用制限されていた。
そのため、86界層の敵に対して火力が足りず、さらに耐久力も足りない。完全なお荷物というやつだ。
ひとまず、キョウジ達と話し合いをするために一旦俺達は屋敷に帰ることにした。
☆
「【ラピッド・フレア】」
アンリの放った火魔法が、カクカクと妙な動きをする氷のゴーレムにヒットすると、ゴーレムの胸に巨大な穴が開く。
「…チッ、足りませんか。ナクさん!」
「用意できてる。【アンリミテッド・ハイネス・グラビティ】」
ナクの振るった杖の先から8つの黒い球が出現すると1つに合体し、ゴーレム目掛けて進んでいく。
球体がゴーレムと接触した瞬間、ゴーレムが渦を巻くように吸い込まれると、戦闘終了を宣言するリザルト画面が表示され、経験値や素材などが俺達のアイテムボックス内に収納されていく。
「流石、最新界層。アンリと私含めて中位魔法1発と超魔法を1発使わされた」
「でも、もう少しで目的地ですからね。少し休憩したら行きましょう」
アンリの掛け声で俺達は近くの岩などに積もった雪を払い、その上に腰掛けた。
第86界層、そこは雪と氷に閉ざされた絶対零度の世界で、出てくるモブもほとんどが氷属性、特徴として打撃以外の物理攻撃は完全に無効だという点だろう。
あの後、屋敷に帰った俺達はキョウジに情報を話し、チェーンクエストは片方がクリアすれば攻略扱いになる、というシステムを考慮して話し合った結果、俺達のパーティーが行くことになったのだ。
「にしても、魔力の消費がバカになりませんねえ…」
「そのために俺とナクは徹夜でマジックポーションを量産したんだぞ?」
白い息を吐き出しながらアンリが飲んでいる浅葱色の液体の正体は、俺とナクが量産したマジックポーションなのだ。そのおかげか、ここ数ヶ月レベルが上がっていなかった【錬金術】スキルが1レベル上がったんだよな。
「まあ、そうなんですけどね…。なんていうか、原材料を聞くと飲みたくないんですよね…」
「それは…うん、わからなくもない」
マジックポーションの原料ってゴブリンの…いや、やめておこう。これは深く考えちゃいけない。
「さて、それじゃ行きましょうか。寒冷耐性のポーションの効果が切れる前にキチンと飲んでおいてくださいね」
瓶に入った真っ赤な液体をアンリから受け取る。
しかし、1つだけ問題があるのだ。
「あれ?シュウくん飲まないんです?」
「飲まないと寒いよ?」
「ああ、いや。味覚が子供に戻ってるから、刺激が強すぎて、な…」
ぽかんとする2人。
恥ずかしい!死にたい!
「もう!それならそうと早く言ってくださいよ!」
「ん、水臭い。私達は仲間」
「2人とも…」
そう言った2人の表情は、恥ずかしいのか少し赤らんでいた。
そんな2人の言葉に感動してしまった。まったく、最高の仲間を持ったものだ。
「だから…せめてその手をどうにかしろ!おい!どこ触ってる!やめろ!服の下をまさぐるな!」
「…少し大人しくしてて」
ナクの顔が近づくと、柔らかいものが口に押し付けられる。どうやらナクの唇のようだ。
その瞬間、強い眠気に襲われる。
「な、何を…」
「最近作った睡眠薬。ボスモンスターもイチコロ」
「なんてもん使ってんだ!」
状態異常の効きにくいボスモンスターもイチコロって、明らかにレアアイテム使ってるだろう!
「クソ…無駄遣いしやがって…」
「羊を数えてたら終わる。おやすみなさい」
ちろりと妖艶に真っ赤な舌を出すナクと、息遣いが荒く、今にも飛びかかって来そうなアンリを最後に俺の意識は暗闇へと落ちていく。
俺は、目覚めたら2人を殴るとその心に決意を固めるのであった。
屋敷にアンリの絶叫が響き渡る。
「耳痛いから叫ぶな!」
「な、ななな…なんで縮んでるんですか!?」
「まあ、仕方ないじゃありませんか」
キョウジを抱き抱えて撫でていたユノがそう言う。その頬は心なしか少し緩んでいた。
「兄さんがこんなにかわい…小さくなってしまったのはクエストの効果によるものでしょう。そのチェーンクエストをクリアすれば元に戻ると思います」
今完全に心の声漏れてたな。
すると、俺の体がヒョイっと持ち上げられる。
首を曲げて上を見上げると、そこには少し頬を膨らませたアンリがいた。
「可愛いのはシュウくんです!」
「はあ?何言ってるんですか?兄さんが1番に決まっているでしょう」
「何言ってやがるんですか!この腹黒女!」
「ああん!?何言ってんだはこっちのセリフですから!このど貧乳!」
「はあ!?」
「ああ!?」
バチバチと火花を散らして睨み合うアンリとユノ。
すると、突然2人の頭の上に雪が出現する。その主はナクである。
「2人とも喧嘩やめて。子供の教育に悪い」
「おい待て、子供扱いするな」
「そうだぞ!ナクちゃん!俺は立派な大人だ!」
俺もキョウジも実年齢に換算するともう成人を超えてるんだよな。
しかし、俺達の必死の抵抗も虚しくナクは俺とキョウジの頭を撫で続けている。
☆
チェーンクエストの情報収集のために俺達は、情報屋ギルド『信用会』に行くことにした。
「すいませーん!」
「お、アンリちゃんにナクちゃん!鬼畜が居ないなんて珍し…ハァアアン!?」
受付で作業を行なっていた1人の男性プレイヤーが俺を見てそんな叫び声をあげる。
そんな受付の叫び声を聞いて、奥から数人の職員達が現れては同じ反応をしていく。
「なんだあの目付きの悪い子供」
「もしかして…鬼畜の子供?」
「な、なんだって!だとしたら一大事だ!どっちの子供なんだ!?」
「抱っこしてるのはアンリちゃんだし、アンリちゃんじゃね?」
「いやいや、あの無気力な眼差しはナクちゃんだ!間違いない!」
アンリの子供だとか、ナクの子供だとか、カウンターの向こうで職員達が議論しているのを見て、他の受付NPC達が眉間を抑えながら溜息をついていた。普段からかなり苦労しているんだろうな。
すると、議論をしていたはずの職員達が俺を見つめ、その内の1人がこう言った。
「ボクのお母さんは誰かな?お兄さんに教えてもらえるかな?あ、お父さんのお名前はシュウで間違いないかな?」
「シュウは俺なんだが?」
俺がそう言った瞬間、目の前の職員達の笑顔が固まった。
「おい!なんかとんでもねえこと言われたぞ!」
「あの子供が鬼畜?なんでまたそんな事に?」
「まさか…幼児プレイ?」
「…ああ!なるほど!これは、大スクープだ!」
「ん?何か言ったか?」
出現させた巨大な火球を両の手に出現させながらそう問いかけると、職員達は涙目で首を横に振った。
ため息を吐いた俺は、火球を解除する。
すると、奥から眼鏡をかけた1人の青年が姿を現した。
「なんの騒ぎですか…おや、シュウさん中々愉快な格好をしてらっしゃいますね」
「あのなあ…俺だって好きでこんな格好してるわけじゃないんだよ」
「わかってますよ。それで、今日はどうされたんですか?」
そう言って眼鏡の青年、エンライは柔和な笑みを浮かべる。
「ああ、今回頼みたいのは今俺が受けているクエストについての情報だ」
「なるほど、わかりました。それでは手を貸してもらえますか?」
エンライが俺の差し出した手を握ると、勝手にエアディスプレイが展開され、緑の光が俺の腕を介してエンライの中に入っていく。
「…さて、それでは始めましょう【観測者】」
エンライがスキルを発動した瞬間、エアディスプレイがいくつも展開され、様々な景色やグラフなどが現れる。
これはエンライの固有技能【観測者】の力である。
CWO内における、ほとんどの情報を一瞬で収集できるという完全に情報集めに特化したスキル。そのため、初期の段階では彼を巡ってプレイヤー同士の争いが絶えなかったのだが、ある1人の男、信用会のギルドマスターである『コクゲン』によってその争いは沈静化され、以降エンライは信用会のサブマスターとしてギルドの運営を行っているのであった。
「ふむ…なるほどね。わかったよ。チェーンクエストの発生場所は…ここだ」
「86界層しかも、プレイヤー未踏のエリアだな」
86界層、それはつまり現状最高難易度の敵が出現し、さらにプレイヤー未踏の地となれば何が待ち受けているのかわからない。そして、現在の俺にはある問題があった。
時を奪う、あの女性が言っていた言葉の意味、それは俺のステータスにあった。
俺のレベルは483。しかし、幼児化した現在、俺のステータスは、レベル100相当しかないのだ。当然スキルも制限されており、ある程度ゲームに干渉できる【世界介入】も使用制限されていた。
そのため、86界層の敵に対して火力が足りず、さらに耐久力も足りない。完全なお荷物というやつだ。
ひとまず、キョウジ達と話し合いをするために一旦俺達は屋敷に帰ることにした。
☆
「【ラピッド・フレア】」
アンリの放った火魔法が、カクカクと妙な動きをする氷のゴーレムにヒットすると、ゴーレムの胸に巨大な穴が開く。
「…チッ、足りませんか。ナクさん!」
「用意できてる。【アンリミテッド・ハイネス・グラビティ】」
ナクの振るった杖の先から8つの黒い球が出現すると1つに合体し、ゴーレム目掛けて進んでいく。
球体がゴーレムと接触した瞬間、ゴーレムが渦を巻くように吸い込まれると、戦闘終了を宣言するリザルト画面が表示され、経験値や素材などが俺達のアイテムボックス内に収納されていく。
「流石、最新界層。アンリと私含めて中位魔法1発と超魔法を1発使わされた」
「でも、もう少しで目的地ですからね。少し休憩したら行きましょう」
アンリの掛け声で俺達は近くの岩などに積もった雪を払い、その上に腰掛けた。
第86界層、そこは雪と氷に閉ざされた絶対零度の世界で、出てくるモブもほとんどが氷属性、特徴として打撃以外の物理攻撃は完全に無効だという点だろう。
あの後、屋敷に帰った俺達はキョウジに情報を話し、チェーンクエストは片方がクリアすれば攻略扱いになる、というシステムを考慮して話し合った結果、俺達のパーティーが行くことになったのだ。
「にしても、魔力の消費がバカになりませんねえ…」
「そのために俺とナクは徹夜でマジックポーションを量産したんだぞ?」
白い息を吐き出しながらアンリが飲んでいる浅葱色の液体の正体は、俺とナクが量産したマジックポーションなのだ。そのおかげか、ここ数ヶ月レベルが上がっていなかった【錬金術】スキルが1レベル上がったんだよな。
「まあ、そうなんですけどね…。なんていうか、原材料を聞くと飲みたくないんですよね…」
「それは…うん、わからなくもない」
マジックポーションの原料ってゴブリンの…いや、やめておこう。これは深く考えちゃいけない。
「さて、それじゃ行きましょうか。寒冷耐性のポーションの効果が切れる前にキチンと飲んでおいてくださいね」
瓶に入った真っ赤な液体をアンリから受け取る。
しかし、1つだけ問題があるのだ。
「あれ?シュウくん飲まないんです?」
「飲まないと寒いよ?」
「ああ、いや。味覚が子供に戻ってるから、刺激が強すぎて、な…」
ぽかんとする2人。
恥ずかしい!死にたい!
「もう!それならそうと早く言ってくださいよ!」
「ん、水臭い。私達は仲間」
「2人とも…」
そう言った2人の表情は、恥ずかしいのか少し赤らんでいた。
そんな2人の言葉に感動してしまった。まったく、最高の仲間を持ったものだ。
「だから…せめてその手をどうにかしろ!おい!どこ触ってる!やめろ!服の下をまさぐるな!」
「…少し大人しくしてて」
ナクの顔が近づくと、柔らかいものが口に押し付けられる。どうやらナクの唇のようだ。
その瞬間、強い眠気に襲われる。
「な、何を…」
「最近作った睡眠薬。ボスモンスターもイチコロ」
「なんてもん使ってんだ!」
状態異常の効きにくいボスモンスターもイチコロって、明らかにレアアイテム使ってるだろう!
「クソ…無駄遣いしやがって…」
「羊を数えてたら終わる。おやすみなさい」
ちろりと妖艶に真っ赤な舌を出すナクと、息遣いが荒く、今にも飛びかかって来そうなアンリを最後に俺の意識は暗闇へと落ちていく。
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