Creation World Online

かずみ

第70話

 無くなったと言ったが、正確に言えば無くなったのではないそこにあるべきはずの【法則介入】その代わりにその場にあったのは…


「【世界介入】?」
「そうだ、まあシュウ君が耐えられるのはそこが限度だろう」


 おっさんは何処からか取り出したタバコに火をつけながらそう言う。


「つか、名称変わっても関係ないんじゃないのか?」
「関係大有りだ。そうだな…1の権能を使ってみるといい」


 そう言われ、渋々ながらにスキルを発動した瞬間俺の脳に僅かに電流が走ったような気がした。
 その次の瞬間、途端に穏やかな平原は枯れ果てた不毛の地へ、青い空は曇天へと塗り替えられた。いや、塗り替えたのだ。


「なんだよ…これ…!」
「これがスキル【世界介入】だ。私は前にも言ったはずだ“君のそれは私達側のそれだ”と。このスキルの本質はプレイヤーに管理者と同等の権利を与えるというものだよ」


 まあ、当初の予定よりも多く与えているがね。とおっさんは煙を吐きながら言った。
 しかし、俺は先程から感じていた疑問を口に出す。


「なあ、おっさん。俺はさっきスキルを発動させただけだったはずだ。なんで効果が出てるんだよ」


 俺のスキル【法則介入】は発動すると目の前に入力バーが現れ、そこに使用したい権能のコードを打ち込むことで使用できる、という極めて面倒なものだ。
 しかし、どうにかならないかと色々試した結果、裏機能のように隠されていたコピペ機能で速攻発動をさせていた。
 それが今回は、一瞬で発動された。
 バーは確かに表示されていた。しかし、その中に俺が打ち込む間も無く勝手に今まで見たことが無いような量のコードが打ち込まれて、自動的に発動されたのだ。
 そしてそんな俺の質問に対して、おっさんは慌てることなく_笑っていた。


「それがこのスキルだよ。前回のものより数段パワーアップしている。ただ…脳の強化がまだまだみたいでね。現段階だとここまでって事になる。そして…この風景に変化した理由だが、それは君がキチンとどんな風景にするか決めていなかったからだよ」
「違う!俺が聞きたいのは_」
「脳だよ」


 そう言ったおっさんの顔からは表情が消え去っていた。


「脳だ、君のこのスキルのレベルは何が基準だと思う?使用回数?それとも使用時間か?否、これは君の脳の強化がどの程度まで終わったかを指し示している数値だよ。そして君の脳の覚醒、これがこの世界を終わらせる一つにして唯一の手段だ」
「なんだよ…それ…」


 意味がわからない、確かメガネはゲームクリアすれば助かると言っていた。
 すると、おっさんは煙を吐き出すと持っていたタバコを握り潰す。


「悪い知らせだ、シュウ君。このゲームはクリア不可能だ」
「なっ…!確かに現状だと不可能だっておっさんは昔言ってた、だがその問題は解決したはずだろ!?」
「ああ、だがこれを見ろ」


 そう言っておっさんがエアディスプレイを操作すると、1枚の画像データが送られてくる。


「これは?」
「最終界『神界』の守護者にしてこのゲームの全管理者にして絶対の支配者『ティル=グレイプ=フィアンニ』そして、神内じんない浩一こういち…室長の生み出した世界一の人工知能【Ri】君達も知ってるだろう『マザー』と呼ばれるものだ」
「こいつが…マザー…」


 聖女のような清らかな顔に牛の頭と羊の頭を持ち、無数にある触手には怨嗟の顔が浮かんでいた。
 その背部からは、神々しいまでに禍々しい巨大な手がまるで翼のように開かれていた。
 横に書いてある字の通りというならこれは80m程の巨体らしい。


「だけど、問題ないんじゃ?」


 そう、俺達プレイヤーも今のままだと勝てないかもしれないが、これから先強化を続ければいずれは倒せるかもしれない。
 だが、そんな希望はアッサリと打ち砕かれた。


「無理だ。そもそもコイツを倒すパターンは2つしかない、そのうち1つはシュウ君、君の覚醒。もう1つは…プレイヤーの死とイコールだろうな」
「は…?」
「コイツを消す、つまりマザーを無力化するにはある特定のAIをぶつけるしかない、AI_No.2【Di】それがもう1つの道だ。だが、これは不可能だ」


 新しく取り出したタバコに火を点けて一服すると、おっさんは徐に立ち上がる。


「元々この案は没だったんだ。なんでも、全プレイヤーを殺すもしくは、主人公を生み出すってことになるからね。どちらも許容されないよ、特に後者はね。MMOは全員が主人公でなくてはならない、それなのにたった1人が世界を救う勇者だなんて…それは良くないだろ?その結果、この案は没、生み出されたAI_No.2【Di】も『ティル=グレイプ=フィアンニ』も実装されなかったのさ」
「なるほどな、だがそれならなぜ『ティル=グレイプ=フィアンニ』がボスになるんだ?そんな訳はないんだろ?」
「ああ、それなんだが…今朝橘のやつからメッセージが飛んできたんだ。ご丁寧に煽り文付きでな…メガネを叩き割ろうと心に誓ったよ」


 おっさんは本気でイラついているのだろう、マジの貧乏ゆすりしてるもんな。
 何度か咳払いをして落ち着いたのか、おっさんは元々用意していた自分の席に座ると俺を指差す。


「てことでシュウ君、君以外いないんだよ。君が世界を蝕む最高で最悪のウイルスになって貰わなければならない」
「おっさん…」


 真剣な表情をするおっさんに俺はにっこりと微笑みかける。


「そのセリフ恥ずかしくないか?」
「やめろ!言うんじゃない!」


 机を叩きながら顔を真っ赤にするおっさんを見て俺は笑う。


「ま、やってやろうかな」


 アンリやナク、その他この世界で出会った仲間の顔を思い浮かべながら、俺はおっさんに聞こえない声でそう呟くのだった。          

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