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かずみ

第68話

 3日後、第20界層・中立国家『アルゼル』
 その城の円卓の間に4人の男女が座っていた。
 彼等はそれぞれ『天和之國』『聖リジェアッタ皇国』『ダスク連合国』『イグニクス』の4国の代表だった。


「さて、では会議を始めたいと思う」
「待てや、なんお前が仕切っちょるんか」


 ギロリと糸目を開いて会議の始まりを宣言した『天和之國』代表である【皇帝】レノンを睨むのは20代前半の男性プレイヤーで『ダスク連合国』の代表【闇商人】クリック=クリップだった。


「ああ、全く煩い。これだから金に集るしか能が無い蝿は…」


 蔑むようなセリフと表情をクリックに向けるのは『聖リジェアッタ皇国』代表【神癒の枢機卿】シオリだった。


「おうおうおうおう、言ってくれるやんけ。言っとくけどな、ウチらはお前んとこよりはマシやからな?」
「どの辺りがマシなのかしら?私には理解できないわ」
「なんやったっけ?『このツボを買えば神の加護に守られて生き残れる』やったか?鑑定の結果効果なしって出ちょったぞ?」


 鬼の首を取ったようにクリックがニヤニヤと笑う。
 そんなクリックを一瞥するとシオリは溜息を吐く。


「これだから馬鹿は…『信じる者は救われる。何れこの世界は神【ジェガル】様によって終焉を迎えるだろう』これが我々のジェガル教の教えです」
「はいはい、信じる者は救われると嘯いて金を得る、そんな嘘で生まれた詐欺国家の崇める詐欺の神様ねー」
「…私を貶めるのは許すけど、ジェガル様までも貶めるのは我慢ならないわ。今すぐ死になさい」
「上等、ウチもそろそろ暗殺者雇ってテメーらを殺そうと思っちょったわ」


 一触即発、そんな空気をぶち壊すように爆音と共に円卓にヒビが入る。
 音の発生源は先程から黙っていた男、軍事国家『イグニクス』の代表【剣帝】グラックだった。


「そのような小さな事で喚くな、雑魚共」
「しゃーしか、脳筋は黙っちょけ」
「力しか能が無い野蛮人は黙ってなさい」


 その言葉で堪忍袋の緒が切れたグラックがスキルを放とうとしたその時_


「【黙れ】」


 まるで空間が止まったようだった。
 3人のプレイヤーから戦闘の意思が消え去り、あたりに静寂が訪れた。
 レノンの目から怪しげな紫の光が消えると、3人は息を吐く。


「ったく…それは心臓に悪いからやめろっちいいよるに」
「このままでは会議に支障をきたすと判断したまでだ。それでは始めるぞ、今回の議題は…コレだ」


 ゴトリと音を立てて、円卓の上に黒の無骨な首輪が置かれる。


「コレはアレやろ?モンスターテイマーの『従魔の首輪』ウチの店でも扱っとるやつや。でもなんで今コレ取り出したん?」


 繁々とクリックが首輪を眺めると、ヒョイっとグラックがその首輪を取り上げる。


「コレは我が国の管理する街、牢獄の街『アルカトラ』からの脱獄を行なった者がつけていた首輪なのだ」
「それの何が問題なわけ?確かに脱獄は問題だけど、別にアイテム持ち込み自体は大した縛りはないんでしょ?」


 シオリが不思議そうに尋ねると、グラックは渋い顔をする。


「持ち込み自体はどうでもいい。ただ、問題なのはこの首輪をつけていた囚人は脱獄した事を全く覚えていないのだ。さらに言えば入手経路も謎だ」
「そしてこれが脱獄を成功させた者のリストだ」


 バサリと置かれたリストの中には、シュウ達が捕縛した仮面の女_ココの名前もあった。


  ☆


 仮面の女を捕縛してから3日後、俺達は62界層のダンジョン『宵闇の残夢』でレベルを上げていた。
 奥まで狩り続けたところで、俺達は妙な違和感を感じる。


「なあ、わかるか?」
「ええ、今日の晩御飯のことでしょう?焼肉ですよ」
「おっ、やったぜ…ってそうじゃない」


 晩飯が焼肉というのは嬉しいのだが、そうじゃない。
 するとナクが何かを閃いたように手を打つ。


「モブの数が少ない」
「そう…おかしくないか?」


 基本的にダンジョンは、奥に行けば行くほどモブとのエンカウント率が上がる。
 その理由として、プレイヤー達は死なないために基本的にダンジョンの表層でしか狩りを行わないというのが理由だ。
 なのでかなり奥まで来たにもかかわらず、モブに殆どエンカウントしないのはおかしいのだ。


「あぁああああああ!」
『ゴァアアアアアアア!』


 俺達が警戒しながら進んでいると女性の声とモブの声が聞こえてきた。
 コッソリと覗き見ると、そこには3mはゆうにあるだろうゴリラ型のモブと俺達が捕縛して、現在牢獄の街『アルカトラ』に収容されているはずの仮面女の姿だった。
 違う点と言えば女の首に嵌っている黒の無骨な首輪と胡乱な目だろう。
 ゴリラ型のモブが、仮面女目掛けて棍棒を振り下ろす。
 仮面女は、それを強引に身体を捻って回避すると、ゴリラの首筋に飛びついて頚動脈を噛みちぎるとゴリラの胸を蹴り飛ばして、距離を取る。
 ゴリラは首筋を抑えて、背後に後ずさる。
 仮面女はその隙を見逃さずに、ゴリラの首に纏わりつくと流れるような動きでその首をへし折った。


「あぁああああああ!あぁ…?」
「やべっ、見つかった」


 ゴリラの死亡エフェクトの真ん中で叫んでいた仮面女だったが、俺達に気がついたようで爆発的な速度で迫ってくると、拳を振るう。
 バックステップでそれを回避すると、仮面女の拳が地面に着くと同時に地面が爆散する。
 なんだあの威力!避けなかったら間違いなく死んでたぞ!


「あぁ…あぁああああ!」
「どうなってやがんだよ!コレでも食らってろ!」


 アイテムボックスから麻痺煙幕を取り出して、仮面女の足元に叩きつける。
 仮面女の周囲が黄色の煙に包まれ、その姿が煙の向こうに消える。
 しかし、次の瞬間。


「あぁっ!」
「ぐっ…!なんで麻痺が効かねえんだよ!」


 煙の中から飛び出してきた仮面女が俺の首を絞めてくる。


「シュウ君!このっ、離れやがれです!『マナランス』!」
「シュウに抱きつくのは私だけ『アイスランス』」


 魔力と氷の槍が仮面女に突き刺さる、そう思われたが残念ながら半透明な白結界によって全て弾かれてしまう。


「るぁああ!」
「きゃっ!」
「うわっ」


 仮面女が叫ぶと、白色の槌によってアンリとナクが吹き飛ばされ、壁に激突する。
 2人ともぐったりとしているが、ライフは尽きていないので大丈夫だろう。


「ああああああああああ!」
「ゲホッ!くっ、そ。人の心配してる、場合じ、ゃねえ…」


 徐々に首を絞める力が強くなっていく、それに比例するように俺のライフもガリガリと削られていく。
 クソっ!こんなとこで終われるかよ…!
 苦し紛れに伸ばした手が仮面女の首輪に触れた、その時。


『システムエラーを発見しました。修正しますか?Y/N』


 もう俺に迷っている暇などなかった、ライフは残り6割を切っていた。
 迷うことなくYを選択すると、また画面が表示される。


『了承しました。システムエラーを検索…発見。プログラムの破壊と再構成を始めます。スキル【分離】及びスキル【再構成】のコードを引用…成功しました。システムは正常です』


 次々と俺にそう告げる機械音声。
 気がつけば仮面女の動きは停止しており、ふらりと倒れかかってきた。
 ゴトッと首輪が地面に落ちる。
 それを拾い上げてアイテムボックスにしまい込む。


「大丈夫ですか!」
「ああ、平気だ。そんなことよりコイツを運ぶのを手伝ってくれ」


 俺がそう言うと、ナクとアンリが仮面女を肩に手を回して運ぶ。
 俺はそれを見ながら自身のライフを回復させるのだった。          

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