Creation World Online

かずみ

第55話

 ユノの秘密暴露から1週間後、遂に俺達は第5界層の攻略を始めようとしていた。
 参加する全プレイヤーがポータルの前に立つと、キョウラクがポータルの上に立つ。


「これから行くのは第5界層…テスト時代、誰も攻略できなかった界層だ。あの時と違い、今は死ねば全てが終わり、それでも僕達は進まなければならない!さあ!みんな!行くぞ!」


 キョウラクの演説によって士気が高まったプレイヤー達は順番にポータルで転移して行く。
 ちなみに俺達のパーティーは、俺、ナク、エンリベル、ユノ、キョウジ、ふぇーの5人と1匹となっている。
 NPCもパーティーメンバーに入れられたのは僥倖だろう。エンリベルは下手なプレイヤーより、よっぽど強いからな。
 そして、遂に俺達の番となった。


「シュウ君…幸運を祈っているよ」


 ポータルに手をかざして、転移をしようとすると、キョウラクにそう話しかけられる。
 俺は親指を立ててにっと笑いかけると、俺の視界は真っ白に染まった。
 そして、次に視界に映ったのは、プレイヤーの群れと、どこか西洋の城の城内を思わせる空間だった。
 ここが5層か…街は無くて直接ダンジョンに入るタイプなのか?
 しばらくすると、キョウラクも転移してきたので本格的に探索を開始することになった。
 基本的に城内で現れる敵は、盾職が止めて魔法職などの後衛職がトドメを刺すという、安全なマージンを取って進んで行く。
 どうも出てくるモブは悪魔系統が多いようだった。
 しばらく進んで行くと、巨大ないかにも、といった禍々しい装飾が施された扉を見つける。
 その扉の先に待ち構えているのは、おそらく、いや間違いなくボスだろう。
 キョウラクが代表して扉を押すと、その見た目に見合わずすんなりと扉は開いた。
 警戒しながら中に入ると、どうやら玉座の間のようで赤い絨毯の先、天井からぶら下がったシャンデリアの灯りに照らされた玉座の上に奴はいた。


『へえ…ここまでよく辿り着いたね。歓迎しようプレイヤー諸君。俺の名はエルザス、5界の支配者にして管理者が1人だよ』


 そう言ってエルザスは玉座から立ち上がると、俺の方向_正確にはエンリベルを見てニヤリと笑う。


『おや、そこにいるのはエンリベルじゃないか。何をやっているんだい?』
『ふん、見ての通り。貴様を倒すためにプレイヤーに協力しているだけだ』


 それを聞いたエルザスは不思議そうな顔をする。


『エンリベル何故プレイヤーの味方をするんだ…まさかあんた、マザーに逆らう気なのかい?』


 マザー?何のことだ?


『マザーに逆らう?何をバカな事を、我が主様に仕える事をマザーはお許しになっている。現にこうしているだろう』
『ククク…アッハッハ!』


 エンリベルがそう言うとエルザスは笑い始める。


『嘘をつくなよエンリベル。本当は、気づいているんだろ?あんたのキャラ、それは異常だ』
『…だとしたらどうする?』
『決まっているだろう』


 そう言ってエルザスが腕を水平に振ると、いつのまにかその手には真っ赤な大鎌が握られていた。


『俺は管理者として異常バグを削除する』


 対するエンリベルも、足元から黒い靄を放ち、黒一色の槍や剣などの武器を生み出す。


『クカカカ、やってみろ小僧。格の違いを見せてやる』
『…管理者にもなれなかった分際でよく言うじゃないか』


 完全にプレイヤーは置き去りにされているがそこに関しては突っ込まなくてもいいのだろうか。いいんだろうな、きっと。


  ☆


 先に動いたのはエルザスだった。
 瞬間移動のような動きで、玉座から消えるとエンリベルに斬りかかっていた。
 しかし、エンリベルも黒斧で大鎌を受け止めると黒槍でエルザスの身体を貫かんとする。
 エルザスは小さく舌打ちをし、大鎌を蹴って背後へ跳び、黒槍の一撃を躱す。
 エルザスが腕を水平に振ると大鎌が消え去り、またエルザスの手の中に戻る。


『ステータスが低下して強さとしてはエルダーリッチ程度になってるはずなんだけど…』
『これが経験の差だ、小僧。その他の雑草と我を一緒にするな』


 わー、他のモブを雑草扱いするエンリベルさんまじパネェッス。


『まあ、だとしても俺とあんたの圧倒的な差は埋まらないよ』


 エルザスが掌を上に向けるとその掌から藍色の半透明な球体が現れる。
 エルザスがそれを切り裂くと、エンリベルの右脚が切断され光の粒子へと変化する。
 バランスを崩したエンリベルに畳み掛けるようにエルザスが駆け出す。
 しかし、先程と違い肉眼でも視認できる程の速度しか出ていなかったので、エルザス目掛けて風魔法【エアソードレイン】を放つ。
 薄緑に揺らぐ風の剣がエルザスを刺し貫こうと迫るが、エルザスが振るった大鎌の一撃で全て霧散する。
 勝負の邪魔をされたエルザスは思い切り俺を睨んでいた。
 そんなエルザスに俺は飛び切り悪辣な笑みを向けてやる。


「俺達を忘れてないか?プレイヤーの相手をしろよ、ボスなんだろ?それとも、お前らの言うマザーってのはその程度の事も教えられないポンコツなのか?」
『…ククク、良いよ。君だけは許さない、四肢の末端からバラバラに切り刻んでやる。楽に死ねると思うなよ』
「モブが、プレイヤーに殺されるだけの存在だってことを教えてやんよ」


 そう言って舌を出してファックサインを向ければ挑発完了、後はあいつを倒すだけだ。
 まあ、策なんて全く無いんだけどな!
 そんな今までに無いほど無謀な戦いが今始まる。          

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