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かずみ

第23話

 闘技場を後にした俺たちはそのままの足で北の山脈エリアを目指していた。
 観測者部隊の情報によれば北の山脈エリアの中腹に空いた洞穴ほらあなの中に第1界層のボスである【ゴブリンキング】が居るらしい。
 しばらく歩いているとキョウラクが立ち止まってこう言う。


「あ、見えてきたよ。あれがゴブリンキングの住んでいる【小鬼の地下王国】だ」
「見えたって言っても結構遠いしそろそろ日が暮れそうだよ〜。あそこの村に寄って一晩過ごすべきだと私は思うな〜」


 リンネは近くにある村を指差しながらそう言った。
 確かに辺りが暗くなって来ているしここまでの移動でそれなりに疲労も溜まっているので休むべきだと思う。他のメンバーを見ても賛成みたいだしな。
 キョウラクは俺たちを見渡すと頷いて「それもそうだね」と言うと村に向けて歩き出すのであった。


  ☆


 村につくと村の入り口の近くにある切り株の上に座ってぼんやりしている老人がいたのでキョウラクが話しかける。


「こんにちは、おじいさん。宿屋はどこにありますか?」
『ん?おお、旅人さんかい?ここは【レゾンの村】見ての通り何もない村じゃよ』


 そう言って爺さんはフォッフォッフォと笑う。
 いや、質問に答えてほしいんだが…


「なあ、爺さん。この村には宿はないのか?」
『フォッフォッフォ、あるぞ。こっちじゃ、ついてきなされ』


 俺の質問に答えた爺さんはスタスタと歳を感じさせない軽やかな足取りで村の奥へと向かう。
 俺たちは爺さんについていきながら村の中を見渡す。
 おそらく農村なのだろう様々な作物が植えてあり、遠くから牛の鳴き声などが聴こえる。
 しばらく歩くと爺さんは木造の一軒家の前に立ち止まりその中に入っていく。
 俺たちもその建物に入るとなぜか爺さんがカウンターにいる。


『いらっしゃいませ。1人当たり30Gじゃがよろしいかの?』


 おそらくボスに挑む前に村に立ち寄ったプレイヤーたちを自分の宿に誘導するために村の入り口で待っていたのだろうか。プレイヤーが来ない日はどうしていたんだろうか。やっぱりNPCだからそのまま待機なのだろうか。
 俺は爺さんに一晩分の料金を支払いながら疑問に思った。


『まいどありがとう。部屋は2人部屋を3部屋でよいかの?』
「はい、みんな大丈夫だよね?」


 キョウラクがメンバーに問いかけると「おー、問題ないぜー」とキョウジ。「大丈夫ですよ〜」とリンネ。
「なんでもいいや〜」とサイカ。
「別にいいわよ」とシラクモ。
 当然俺も問題はない。
 メンバーが特に反対しなかったため今度は部屋割りを決めることとなった。


 結果、201号室にサイカとキョウラク。
 202号室に俺とキョウジ。
 203号室にシラクモとリンネとなった。
 それぞれの部屋でくつろいでいると不意に部屋の戸をノックされる。


「こんな時間に誰だろうな?」
「シュウ、起き上がるの面倒だから出てくれ」


 ベッドの上でぐたーっとしているキョウジを見て俺はため息を吐くと、夜中の来訪者の正体を確かめるために扉を開く。
 するとそこには俺とキョウジを除いたパーティーメンバーが立っていた。こんな時間にどうしたのだろうか。
 とりあえず立ち話もなんなので中に入ってもらう。


「まあ、中に入れよ」
「あ、ごめんね。お邪魔するよ」


 キョウラクがそう言って部屋の中に入ると残りのメンバーも部屋の中に入ってくる。流石に6人も集まると圧迫感が凄いな。


「それで、どうしたんだ?」


 俺は部屋に備え付けの椅子に座ってそう聞いた。
 俺の問いかけに対してキョウラクはニコッと爽やかに笑ってアイテムボックスから1枚の紙を取り出す。


「一応自分たちのできることを書き出しておこうと思ってね」
「ああ、なるほどな」


 確かにそれぞれのできることを知っておくことは大切だ。それを元に作戦を立てるのだから。
 俺たちは軽食を取りながら、あれができる、これができる、と話し合いをした結果こうなった。


キョウラク
・剣での攻撃や盾による守備、光魔法の攻撃と回復が可能。
キョウジ
・剣と闇魔法による攻撃と束縛バインドが可能。
サイカ
・魔法の多重展開による絨毯爆撃が可能。
リンネ
・歌によって味方の強化や敵の弱体化、状態異常を与えることが可能。
シラクモ
・戦鎚での近接戦や龍になって熱線で遠距離攻撃することが可能。
シュウ
・罠による足止め、壁による防御、魔法での攻撃などを行える。


 前衛がキョウラクとキョウジ。
 後衛がサイカとリンネ。
 俺とシラクモは戦況によって前衛にも後衛にもなる。
 だいたいこんな作戦でいいだろう。


「これでどうだ?」
「うん、いいと思うよシュウ君」


 他のパーティーメンバーも賛成のようで首肯する。


「決まったの?それじゃ早く寝るわよ。明日も早いんだから…」
「そうだな、いい加減俺も眠いぜ」


 シラクモとキョウジは欠伸あくびをしながらそう言う。
 時間を見てみると確かにもう深夜と言っても過言ではない時間だった。


「そっか、それじゃ各自部屋に戻ろうか」
「ああ、そうだな。おやすみ」


 みんな口々に「おやすみ」と言うと自分の部屋へと帰って行く。あ、キョウジがベッドに倒れた。
 早くも寝息を立て始めたキョウジに苦笑いしつつ俺は部屋の電気を消すと自分のベッドに入った。
 目を瞑って明日のボス戦のことを考えているといつの間にか俺の意識は暗転していたのであった。


  ☆


 目を覚ますと目の前に広がるのはキョウジの顔だった。
 寝起きでぼーっとしていた頭が一瞬で覚醒するのと同時に俺は風魔法【ウインドシールド】を発動する。
 俺の身体を風の膜が覆うと同時にキョウジの身体が部屋の壁に叩きつけられる。
 その衝撃で目が覚めたのだろうか、ぼーっとした寝起きの眼差しで俺を見ながらキョウジは欠伸をする。


「ふぁああ…おはよう、シュウ」
「ああ、おはよう。キョウジ」
「…なんで俺こんなとこで寝てんだ?」
「寝相が悪かったんだろう。ほら、早く用意しろよ」


 そう言いながら俺は装備のマイセットから寝巻き用装備から普段着に着替える。
 丁度キョウジが着替え終わった時に部屋の戸をノックされる。
 扉を開くとリンネが立っていた。


「おはよ〜、シュウ。朝ごはんだってさ〜」
「そうか、すぐ行く。ありがとな」
「早く来てね〜」


 そう言ってリンネはスタスタと歩いて行く。


「おい、キョウジ。飯だってよ」
「そうみたいだなー、行くかー」


 キョウジは眠そうに頭を掻くとベッドから立ち上がった。


  ☆


 食堂に行くと俺とキョウジ以外のメンバーは全員席についていた。
 爽やかな笑顔を浮かべて挨拶をするキョウラク。
 眠そうに欠伸を繰り返しているサイカ。
 そんなサイカにもたれかかって眠っているシラクモ。
 いつも通りの微笑みを浮かべながらメニューを眺めているリンネ。
 俺とキョウジもメニューを眺めモーニングというメニューを頼むことにした。


  ☆


「ところでシラクモは起こさなくていいのか?」


 俺がモーニングのパンを食べながらサイカに尋ねると、サイカは苦笑いをする。


「いや、起こしたいんだけど、起こすと消し炭にされかねないから」
「何それこわい」


 寝起きが凶暴なんだな、起きてる時も凶暴だけど。
 結局シラクモが起きたのは俺たちが朝食を終えた時だった。朝食はいらないというシラクモに食べさせようとするサイカが母親みたいだなと、思った。


  ☆


 朝食を終えた俺たちは北の山脈を登っていた。
 すると目の前の岩場からゾロゾロと犬の頭をした人間の子供のようなモンスター、コボルトが8匹現れた。
 俺たちは昨夜話し合った通りの陣形を取ると、キョウジとキョウラクがコボルトの群れに突っ込むとそれぞれ属性を纏わせた剣でコボルトを切り裂いていく。
 これだけでコボルトの半数が血の海に沈み、光の粒子に変わる。
 キョウラクたちをすり抜けて2匹のコボルトがシラクモに襲いかかるがシラクモが無造作に振るった戦鎚によって肉と骨が潰れる音と共に血を撒き散らしながら吹き飛んで光の粒子に変わる。
 勝てないと悟ったのか残りのコボルトが後ろを振り向いた瞬間リンネの歌によって動きを封じられる。
 そこにサイカの土魔法が叩きつけられ2匹は圧殺される。
 俺は一切動くことはなかった。
 あれ?俺いらないんじゃない?
 疑問に思いつつも俺たちは先に進んでいくのであった。


  ☆


 何度か敵の襲撃しゅうげきいながらも俺たちはゴブリンキングの住む洞窟【小鬼の地下王国】の前にたどり着いた。


「遍く光よ【ライト】」


 キョウラクがそう唱えるとキョウラクの右手にテニスボール大の光球が現れる。


「さ、行こうか」


 キョウラクの言葉と共に俺たちは暗闇の中へと歩を進めるのであった。          

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