暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが

赤井まつり

第97話 〜増援〜



リアに群がっていた魔物はあらかた片付けた。
あとはアウルムと、アウルムが乗り物替わりにしている魔物だけだ。


「……ひとつ、いいことを教えてあげるよ」


形成が逆転し、見るからに俺たちの優勢になってもアウルムの態度は全く変わらなかった。
いや、先程よりも余裕がある気がする。
先程まではなにも反応していなかった『危機察知』がガンガン警報を鳴らしていた。


「さっきの笛ね、あれがなくても僕らは魔物を操ることが出来るんだよ。多分そこの右腕サマも知らないはずだけど、あの笛には二つの機能がある。ひとつは魔物に細かい命令を伝えること」


アウルムは怪しく笑って、俺たちの後ろをちらりと見た。


「……ふたつめは遠く離れていても魔族に今の状況を伝えること」


聞き覚えのない声が後から放たれる。
俺たちが振り向くのと、リアの結界が何らかの方法でそいつに破られるのが同時だった。
ガラスが割れるような音がして俺たちの体を覆っていた光が消え失せる。


「お前が救援を求めるのは珍しいと思ったけど、その傷はどうしたんだ?」


黒髪黒目の童顔で眼鏡をかけている青年がいた。
アホ毛がふよふよと動き、眼鏡を押し上げる手は青白い。
ニコニコと笑っているが目は全く笑っていなかった。

例によって、魔族の無駄に多い魔力がその体から溢れ出ていて、俺でも背中に冷や汗が流れている。
リアはすでに失神していた。


「あ、マヒロ遅いよー!今回はさすがの僕でもやばかったから呼んだんだー」


酷い怪我を負っているというのにテンションは会ったときと変わらない。
同じ怪我をすればエルフ族でも倒れているだろうくらい酷いのに、平気な顔をしている。
魔族は生命力もおかしいらしい。


「遅いと思ったらこんなところで足止めを食らっていたか。ほら、帰るぞ」


いつの間にかそいつは俺たちの後ろに現れた。


「なっ!?」


神経を尖らせて、一つ一つの動作を見ていたはずなのに、反応するどころか見ることもできなかった。
魔法の兆候すらなかったというのに。

間違いなく、アウルムよりも実力は上だ。


「マヒロ……魔族の二番手って言っていた」


アメリアがそう言って突然現れた青年を見る。
二番手ということはアウルムの一つ上ということだ。

アウルムにマヒロと呼ばれた青年は、アウルムの傷を見てやれやれと首を振って、俺を見た。


「お前とは相性が悪かったかもなぁ。なぁ、織田晶」


フルネームを呼ばれて俺は顔をしかめる。
名前を呼ばれたことと、その容姿で気づいてしまった。


「お前、もしかして日本人か?」


こちらの世界では外国のように名が前で姓を後に名乗る。
そして、言語が違うために仕方がないが、日本語とは少しイントネーションが違う。
だがこいつは完璧に日本語のように発音した。
そして何よりマヒロという名前。
日本人っぽい名だ。


「ああ、まぁそうなるのか?お前たちとは少々違うが、日本人だ。名前は阿部真尋あべまひろ。よろしくしたくないけど、よろしくなー」


少々違うとはどういうことだろうか。
そしてなぜ魔族なのか。


「おっと、こんな時間ないんだった。そこのお姫さん貰っていくぞ」


その言葉に俺はアメリアを庇うように前に出た。
夜も戦闘態勢に入る。
悪いが倒れているリアは後回しだ。
こいつらの狙いはアメリアなのだから。


「いやぁ、お姫さん一人攫うのに魔族の三番手が出る必要もないと思っていたけど、まさか俺まで駆り出されるとはね」


人生何があるか分からないもんだ、と誰にいうでもなく呟いて、マヒロは手を合わせた。

パァンッ

澄んだ音が響く。
そして開いた手の間からなにか文字が飛び出してきた。

膨大な量の文字は円形に並び、魔法陣を形作る。
見たこともないような文字や文字とは言えないような模様まで、様々な記号が一寸の狂いもなく並んでいく。
文字たちはキラキラと光り、とても美しい。
僅か数秒で恐ろしく細かい魔法陣を完成させたマヒロは、すぐにそれを起動させた。


「『体傀儡』」


魔力を注がれて赤く光る魔法陣は俺たちの方に飛んでくる。


「避けろっ!アメリア!!!」

「きゃっ!!」


俺が狙いかと身構えていると、魔法陣が向かったのはアメリア。
気づいて声をかけたが間に合わなかった。
魔法陣に触れたアメリアは吹っ飛ばされ、壁に激突。
そのまま動かなくなった。


「くそっ!アメリア!!!」


アメリアに駆け寄って抱き起こす。
頭から血を流しているが、意識を失っただけで死んではいない。
が、人族なら間違いなく即死するくらいの衝撃だった。
打ち付けたのが後頭部というのもあり、一度医者に見せた方がいいだろう。


「てめぇ!!」

「あーあー、お前さん目つき悪いの自覚ある?今にも俺を殺しそうな目をしてるけど」


茶化したようなセリフに、自分の頭に血が上っているのが分かる。


『主殿、挑発に乗るな』


いつの間にかリアを回収した夜が俺を宥める。
俺は拳を握った。
一発殴ってやりたいが、俺ではこいつに勝てないことは分かっている。
どうにかして逃げなければならない。
そもそもアウルムもアメリアを回収したらすぐに逃げるつもりだったのだ。
逃がしてくれなかったが。


「そこのブラックキャットはもう完全にそっちの陣営だって数えてもいいのかな?違ったら俺が怒られる」


夜はいつもの黒猫の姿に戻った。
金色の双眸がマヒロを睥睨する。


『俺はもう魔王様の元には戻らん。俺はもうブラックキャットではなく夜だからな』

「そっか。じゃあお前の毛皮を使って服を作ってももう怒られないってわけだ」


ニヤリと笑うマヒロに、夜は歯をむきだした。


『やってみろ』


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コメント

  • 白兎

    主人公は大抵一度は負けイベントあるからそんな感じ

    0
  • ノベルバユーザー312895

    なぜここまで苦戦してるんだ?
    スキルレベルとか実戦経験 相性か?
    相性悪いとか言ってるし

    まあ、ステータスだけ見たら世界最強ってだけみたいだし 破綻はしてないかな?

    1
  • ストレスマッハ

    世界最強じゃなかったの?
    それともジョブの相性が悪いとか単に本人の戦闘経験の浅さから出る敗北的な?

    3
  • Kまる

    こ…こいつら夜をなんだと思ってるんだ!コートなんかよりぬいぐるみの方がいいだろ!

    5
  • さすらいの名無しA

    毛皮欲しい同士がいたようだな。

    0
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