TSカリスマライフ! ―カリスマスキルを貰ったので、新しい私は好きに生きることにする。―

夕月かなで

ファンクラブは校内放送で悶える

 校内放送が始まるジングルが流れた瞬間、全校生徒は箸を置き、口を閉じた。
 我らが千佳ちゃんがゲスト登場するという校内放送、男子さえも暗黙の了解で会話を止めている。

『皆さんこんにちは! 水曜日恒例の、お昼休み校内放送ラジオのお時間です!』

 ある者は千佳ちゃんファンクラブの五百千佳ポイントで交換できるオリジナル法被を羽織り、ある者は自らの姉の勇姿を寝顔プロマイドを胸に抱いて願い、またある者は三百千佳ポイントで貰える千佳ちゃんペンライトのスイッチを入れ、放送室に無言のエールを送り始めた。

『今日のゲストは学校中が認めるアイドル、三年生の諸弓千佳ちゃんが来ています! それではどうぞ!』
『えっと、も、諸弓千佳でしゅ』
『……』

 全員が無言のガッツポーズを上げる。
 喋る事は許されない、皆は同じ気持ちなのだから。
 声を上げて千佳ちゃんを応援したいけど、千佳ちゃんの声が聞こえなくなってはいけない。

『……よ、よろしくお願いします。……ぐすん』

 千佳ちゃんの照れて泣く声に、ファンクラブメンバー全員が机の下で足をジタバタさせる。
 あ、愛ちゃんが膝を机で打ちました。
 千佳ちゃんだけでなく、愛ちゃんも涙目になっています。

『か、可愛いですね! 流石千佳ちゃん、天然な所が実に可愛いですね!』
『や、やめて』
『おおおおお、真っ赤な顔を両手で隠す千佳ちゃんも可愛い!!』

 ここでファンクラブの様子が二つに分かれました。
 一つは千佳ちゃんが照れている様子を想像して、悶える組。
 もう一つは、その様子を見ることができずパーソナリティの円ちゃんを羨ましい! とハンカチを噛む組です。

『さて、それでは時間もあまりないので、全校生徒からいただいた千佳ちゃんへの質問を行いたいと思います』
『うん、もう大丈夫。どうぞ進めてください』
『それでは早速、ペンネーム千佳ちゃん親衛隊員さんからのご質問です』
『ペンネームの主張がすごい』
『円まどかちゃん、千佳ちゃん、こんちゃっちゃ! はい、こんちゃっちゃー』
『何それ!? こんちゃっちゃって何!?』
『我らが千佳ちゃんに質問なのですが』
『スルーなの!?』

 千佳ちゃんの華麗なツッコミに、湖月ちゃんがうんうんと頷いています。
 小声で千佳は私が育てたと言っているようです。

『千佳ちゃんの妹になるにはどうすればいいですか?』
『私が認めれば、人類皆妹だよ』
『それでは次の質問いきます!』
『何かコメントしてよぉ!!』

 ここでファンクラブの一年生、二年生たちがワーッと盛り上がります。
 妹宣言に堪えられなかったのでしょう。
 しかしどのクラスにもリーダー的存在はいます。
 メグちゃんたちのクラスでは桃ちゃんの鶴の一声によって、全員が静まりました。

『ペンネームまどーかさん、おお! これはかなり突っ込んだ内容ですね! いい質問です!』
『まどーかさんって、それ絶対円ちゃんだよね!? 自分の質問だよね!?』

 ファンクラブ全員に伝達されていた質問がやってきました。
 千佳ちゃんには一切伝えず、ファンクラブメンバーだけが絶対に質問される内容として教えてもらっていたのです。

『そそそそそんなことないよ! さて! 千佳ちゃんこんちゃっちゃー!』
『もう円ちゃんって言ってないもんね、確信犯だもんね』
『千佳ちゃんに質問です、今好きな人はいますか? きゃっ、聞いちゃった!』
『乙女か! いや乙女だったか……』

 ファンクラブメンバーの全員が胸の前で両手を握り、アイドルの選挙のような光景が広がります。
 あわよくばと同じポーズを取った男子が、クラス内の女子全員の鋭い視線を浴びて泣き崩れました。

『さぁ千佳ちゃん! お答えは?』
『えっと、そうだ! 一番好きなのはお母さんかな?』
『それは禁じ手だよ千佳ちゃん! リスナーも冷めちゃうよ!』
『えぇぇ……』

 千佳ちゃんには見えもしないのに、ファンクラブメンバーはメタルバンドのような高速の頷きを披露しています。
 あまりの光景に、お爺さんの先生は口から入れ歯が飛び出してしまいました。

『えっと、その』
『さぁさぁ!』
『好きな人は』
『おおおおおおおおお!?』

「おおおおおおおおおおおおおお!?」

 この時ばかりはファンクラブメンバーも叫び声を上げます。
 その答えを聞くために、すぐに収まるのですが。


『お、女の子が大好きです!!』

 ファンクラブメンバーは回線が悪いのか固まってしまいました。
 しかし一人一人と、読み込みが終わった子が出てきます。

「お、おおお」
「おおおお、おおおお!」
「きたあああああああああああああ!!!」

「千佳姉さま……これならわたくしも!!」
「千佳ちゃん、諦めないからね!」

「ねぇねは私の魅力でメロメロにしてみせるもん!」
「お姉ちゃん、妹の私でも可能性はあるよね?」
「千佳先輩ぃ……。私も頑張ります」

「千佳ちゃん、愛ももっとアピールしなきゃ!」
「流石千佳ちゃんやでぇ。うちも譲る気は無いけど、千佳ちゃんは今頃顔真っ赤やろなぁ」
「ち、千佳ちゃん。私も、が、頑張る」

「……負けない」
「千佳ちゃんはー、私が甘えさせてあげるからねー」

「千佳ちゃん。先生でも、チャンスはありますよね!」



『えっと、その、ちょっと間違いと言うか、訂正というか』
『きたあああああああああ!! ファンクラブの皆、聞きましたか!?』
『待ってえ!』
『千佳ちゃんは、女の子が大好きらしいぞー!! 私たちにも可能性はあるぞー!』
『そうだけど、そうだけど! ここで言うつもりじゃなかったよ!!』

 ここに千佳ちゃんを争奪する戦争、千佳ちゃん戦争の開幕の音が鳴り響くのだった。



『響かないよ! 私のファンクラブで喧嘩なんてさせないからね!!』

 千佳ちゃん戦争は、始まることもなく終戦を迎えた。

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