ダーティ・スー ~物語(せかい)を股にかける敵役~

冬塚おんぜ

Task8 デカブツをできるだけ多く解体しろ


 壁の外に到着だ。
 紀絵に念話で確認してみよう。

『俺が王城であれこれしていた間に、白い四足のデカブツは何匹片付けたかな?』

『まだ一匹も! 絶賛苦戦中でしてよ……わたくしもさり気なく混ざって戦っておりますけれど、これは……!
 この量と耐久性は、初めから街の中まで来させる事を前提としているように思えますわ』

『いかにもあの依頼主サマが考えそうな事だ』

 どうやら、随分と手こずっているらしい。
 デカブツは目から赤いビームを出してくる。
 対する迎撃部隊の連中のうち、魔法を使える奴はバリアを展開することでそれを防いでいる。

 ……よく見りゃ、数十ほど黒焦げになった人間が転がっていた。

「……おいおい、頼むぜ」

 まったく、手加減を知らんケダモノ共はこれだから嫌なのさ。
 相手の負けて悔しがるツラを拝もうともしない。

「史上最悪のゲストが華麗にお出ましだ。お前さん達のもてなしに期待しているぜ」

 無粋なデカブツで存分に遊んだ挙句、ご退場願おうじゃないか。
 撃墜スコアを競い合うのもいいかもしれん。

「黄衣のガンマン……! 俺達を監視するつもりか!」

「監視? ふはは! 俺一人にビビって何もできなかった腰抜け共に、今更何を監視する意味がある?」

 ズドン!
 俺も対抗して、青白いビームを一閃。

 先頭にいた一匹のデカブツが、牛の鳴き声をアンプに繋いだみたいな大音声で喚きやがる。
 顔面にかましてやったのが効いたらしい。

「その銃に頼っているだけじゃないか」

 なんて横合いから声が聞こえてきたが、俺は無視する。
 論理的まともな反論を精一杯考える時間と同じくらいの時間で、デカブツに近寄ることができる。
 ……双眼鏡で動きを見よう。

「おい無視かよ感じ悪ィーな!」

 などとぼやくお子様。
 そんなお子様の肩をつかんだのが、チパッケヤくんだ。

「イチャモン付けてる場合か! お前も戦え!」

「チッ……!」

 ふはは!
 いい気味だぜ!
 そうさ、お前さん達もさっさと手を動かすこった。
 或いはケツまくって逃げな。

 くたばった奴もいるんだ。
 コンティニューできるかも解らんなら、おとなしくしているのも悪くない選択だぜ。

 ……もっとも、お前さん達を檻から出した奴はそれを望んじゃいないだろうがね。

「皆さん! よく来てくれましたぁ~」

 などと、いけしゃあしゃあと抜かすこの女――ゆぅいは、敵前逃亡なんざ許しちゃくれんだろう。
 親衛隊と一緒に戦っているからか、余所見までしやがる余裕ぶりだ。

「あの怪物は、アルタステラ。
 この世界からの脱出を阻む奴らがぁ、秘密裏に石版を集めてぇ呼び出したみたいですぅ!
 ……このまま街への侵入を許せば、沢山の犠牲が出ますぅ」

 計画書によれば、それこそが目的だったよなあ?
 邪魔者を合法的に殺す。
 捌ききれない程、大量のデカブツをけしかけてな。

「降り人、現地人……――世界を守る人に、生まれの違いは関係ありません。
 今こそ、力を合わせて戦うべきです! ゆぅいも……私も、戦います!
 迷い、立ち止まる人達に、道を示す為に!」

 戦いながら演説までするとは、ただただ感服させられるね。
 そんなにヴァルハラで酒盛りがしたいのかい。

 お。
 ゆぅいの奴、杖から緑色に光る蝶の群れを放ってやがるな。
 あれが、あいつの得意技かね。

「あの技は……ランダムで複数のデバフを掛ける“マリシャス・バタフライ”!」
「地獄の初期イベント“8つの時計塔”クリア報酬じゃないか……あいつ、相当な手練てだれだぞ」
「四ツ足の動きが鈍った! 行けるぞ!」
「最大までスタンを重ね掛けしたら、どんくらい止められたっけ?」
「三分! この世界でも同じく三分だ!」
「――よし、急げェ! 近場の奴から片付けるぞ!」
「「「おうッ!!」」」
「他のデカブツに撃たれないように、陰に隠れろ!」
「「「おうッ!!」」」
「ったく、聖女ってのも捨てたもんじゃないよな、実際……!」
「ああ、今回ばかりは評価を改めねばなるまい」

 賑やかで何よりだ。
 せいぜい頑張るといい。

「ダーティ・スー」

 おっと、依頼主サマゆぅいからの呼び出しだ。
 招き猫みたいに手を動かさなくたって、近くで話を聞いてやるよ。

「追加のオーダーでもするかい」

 おっと、脇腹を掴むんじゃない。
 服がシワになっちまうだろう。

「会議室の奴らぁ、どうでしたぁ?」

 ……ここ数日の揺さぶりが効いたのかね。
 真っ先に訊く事がそれとは。

「真っ黒だったよ、炭も可愛く見えるくらいだ」

「まぁいいですぅ……アレは追って沙汰を伝えますぅ。お前はぁ、怪物を奥から手前に倒すように」

 などと抜かしやがる。
 俺の返事を聞こうともしないで、ゆぅいの奴はまたデカブツの所へ駆け出した。

 視線を戻す途中、遠くで車が走っているのが見えた。
 随分と年代物のようだが、流石はアメ車だな。
 遠くて乗客までは見えなかったが、後で追いかけてみるとしよう。


『あ! スー先生、後ろ――』

「――おい、お前あの時のガンマンだろ」

 紀絵が念話で何かを言い切る前に、俺の肩に手が置かれる。
 仕方ない、振り向くか。
 ……誰かと思えば、元カレくんじゃあないか。
 ロナの偽者までご一緒とは、仲良しですこと。

「スイートルームは快適だったかい、坊や」

 もっとも、愛しの恋人はお前さんが部屋で休んでいる間に、家族と感動の再会ごっこをしていたようだが。
 ほら、何か言ってみろよ。

「なあ。これは……何の茶番だ」

 おいおい、そう睨むなよ。
 武器を向ける相手は俺じゃあなくて、あの化け物さ。
 ……俺は、肩に乗っかっていた元カレくんの手を払い除ける。

「お前さんはオフィーリアの溺れた河に生えているヤナギの木にまで文句を言うつもりかい。ガートルードでもあるまいし」

「……どういう、意味だ?」

 なんて眉をひそめるナインくん。
 反対にロナもどきは、ピンときたようだ。

「多分、黄衣のガンマンは自分を舞台装置になぞらえているから、茶番の是非を問うのは野暮って事じゃないかな?」

「なるほど。わかりづらいなぁ……」

「察しの良さはオリジナル譲りだが、本物のお前さんなら、今ここで是非を論じるべきは復讐という凶行に至る原因を作ったクローディアス・・・・・・・という所まで答えられる筈だぜ」

 ……よし、反応は上々だ。
 てめぇの存在意義を見失いそうな、そういうツラをしてやがる。

「今のうちに悩み続けるといい。だがデカブツの処理はサボるなよ!」

 指輪の収納ケースから、紙切れを一枚取り出す。
 それを手に、元カレくんの背中を叩いてやろう。

「存分に頑張れよ! ふはは!」

いたッ……言われなくたって!」

 だったら俺にちょっかいを出すのはやめておくべきだったと思うがね。
 俺はお前さんの何倍も、やることがあるんだ。

 煙の槍を展開だ!
 ダーティ速達便で、一番遠いデカブツの所へ直送ひとっとびと決め込もうじゃないか。

「あれ? あきら、この紙って……」

「……これは」

 サプライズ演出だ。
 そいつで対抗馬・・・を今のうちに呼び出すがいい。



『ヒヤヒヤさせられましたわ』

『俺がデカブツ掃除をサボってあいつらと遊び始めないかどうかかい』

『あ、いえ……どちらかと言えば、あの怪物もろとも彼らを始末してしまわないかどうかが心配でした。
 たとえ偽者だったとしても、ロナさんと同じ顔の子が死んでしまうのは心が痛みますから……』

『その優しさが、あいつらに伝わる事を祈るよ。さて、間もなく通信圏外だ』


 悪いね、紀絵。
 ……お前さんの気持ちはよく解るが、俺はあいつを本物と認めない。
 俺は、俺自身のスタンスを明確にしなくちゃいけない。
 所持品俺の女を冒涜するなら容赦はしない――たとえ同じ姿でも。
 もしも冒涜した張本人ゆぅいが関わっているなら、尚更だ。

 さて、行くかね。

 デカブツ共の足の間をすり抜ければ、ビームに焼かれる心配もいらない。
 ついでに、真下から煙の槍で足の関節を狙おう。
 何本も、何本も!



 最後尾のデカブツに辿り着いた。
 よし、ぶっ潰そうぜ!

 針山みたいにしてやったら、今度はダルマ落としの要領だ。
 関節が曲がる方向の逆側から・・・・衝撃を与える。

 ズドン!

 骨が弱っているから、すぐにバランスを崩す。
 だから、弱そうな部位を狙いやすくなる。

 サーマルセンサーグラスを装着!
 こいつとプラズマカートリッジは、舞踏会に履いていく靴みたいなもんだ。
 とびきり上等だから、いいステップが踏める。
(しかも足に優しいから疲れない)
 いやはや、惚れ惚れしちまうね、ステイン教授!

「あまりサクサクとジビエ料理の具にしちまうのも面白みは無いが、あいにく今回は納期が迫っていてね」

 デカブツの口を押し開けるようにして、煙の壁を上下二枚に配置する。
 開けゴマ、ってな!
 それじゃあ、俺様光線ぶっかけタイムだ。

「これでもう喉風邪で医者に掛かることも無いぜ」

 よし!

「次の患者さんどうぞ」



 ―― ―― ――



 20匹目のデカブツを片付けた所だった。
 迎撃部隊の連中の奮闘ぶりも大したもので、デカブツは残り僅かだ。

 ……雨が、降ってきやがった。

 次に行こうか。
 と、そんな時に依頼主サマ――ゆぅいから声がかかる。

「この後は護衛をお願いしますぅ。ゆぅいの命を狙いに来る奴は――」

 ――言いかけたところで、物陰から青白い塊がゆぅいを掴み上げた。
 ドスン、とひときわ重たい銃声が響く。
 親衛隊の何人かが、肉片を撒き散らしてブッ倒れた。

 柱の残骸が一瞬で崩れ落ちて、そこから出てきたのは見知ったツラだった。

「――アハーハハハハハ! 百万回ブチ殺して差し上げるぞ、クソアマぁ!」

 ロナは背中から生えている青白くてデカい腕で、ゆぅいを締め上げた。
 元々の腕が、煙を燻らせたショットガンの銃口をゆぅいに向ける。

「あたしの目の前で見え透いた茶番ぶっこきやがってよォ!」

 実に凄まじい形相で、まるで悪霊か何かだ。
 よくお似合いじゃないか。

 ならば俺がやるべきことは簡単だ。
 煙の槍を展開、そいつでロナの幽霊触手を突付く。
 横合いからロナの腹を蹴飛ばす。

「ぐぇェ゛!」

 ロナは赤土に轍を作りながら吹き飛んだ。

「感動の再会っていうのは、きっとこういうのを言うに違いない。そうだろう、ロナ」

「スー……さん……!」

「ごきげんよう、俺だ」

 悪いね、ロナ。
 お前さんのスタンスは既にある程度、見当がついた。


 検証させてもらうぜ。
 お前さんの正義を。



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