ダーティ・スー ~物語(せかい)を股にかける敵役~

冬塚おんぜ

Task1 拾い物と流れ者を対面させろ


 ごきげんよう、俺だ。
 気が付いたら、めでたくランクCに昇格していた。
 それから、俺達のビヨンド活動は二人組コンビから三人組トリオに変わった。

 ちなみにステイン教授は勝手に動いてくれるから、はなっから頭数に入れない。
 是非ともそのままよろしくやっといてくれ。

 今回の依頼主は魔王軍の幹部らしいが……左胸に手形みたいな焼き印が入ってやがった。
 青白い肌に長い銀髪の、やたら細長い野郎だった。
 名前が長ったらしくて思い出せないから“手形付き”とでも呼んでおく。
 魔王軍に与しない野良の魔物を配下に引き入れて、神童とやらの進軍を妨害するよう言われた。

 方法について言及が無いなら、俺の好きなようにやらせてもらおうじゃないか。
 ……という事で、昔は人が住んでいただろう廃村にたむろする緑んぼ共を、俺がこの手で調教してやったのさ。
 その後、何処の馬の骨とも解らん地球出身と思しき高校一年生のガキ共が二人ほど流れ着いてきやがったがね。

 そこに今日連れて帰ってきたマッチョ君を鉢合わせさせれば、とどのつまり……



「――そら、到着だぜ」

「痛ぇ!」

 馬車から放り投げれば、こうなる。
 そして、門番をやらせているガキ二人組はその様子に飛び上がってやがる。

「「新しい犠牲者来たァーッ!?」」

 あばら家の立ち並ぶ荒涼とした景色をバックに、二人は互いに抱き合って青いツラで叫んだ。
 仲がよろしい事で。

「くそッ……とんでもない場所に迷い込んじまったぞ……」

 などとぼやく、少しばかり肩幅の大きいガキは、剣崎一真けんざき かずまという。
 サッカー部所属、運動はもちろん勉強もそこそこ成績がいいらしい。

「なぁ、カズ、やっべぇよな……せっかく追手バックレたのに、これじゃ意味ないじゃんな……あぁ、マジどうしよ……」

 もう一人のほう、茶色いロングヘアーで鎖ジャラジャラのヒョロっちいガキは、字見猛英あざみ たけひで
 ちょっとした思いつきで漢字とローマ字で紙に書いてもらったから、育ちの良し悪しまでよく解る。
 きっとタケヒデ少年の裏のアダ名は“もえ”だろうって事も。

 この二人は、ゴブリン共が投げナイフの的にしようとしていたから、俺が口利きして・・・・・引き取ってやったのさ。
 愛の逃避行の最中に立ち寄った場所が、よりにもよって此処とはね。
 連中は不幸に愛されてやがる。


「いつつつ……おい、アンタ! マジでオレをどうするつもりだ!?」

 そしてケツをしたたかに打ち付けた、これまた不幸なマッチョ君。
 奴は、不満げなツラを隠そうともせずに起き上がった。

「さっきも言った筈だぜ。用心棒が必要だ。ガキ二人にやらすのは不安でね」

「マジだったのかよ……」

「俺が冗談を言う奴に見えるのかい」

「見える」

 言ってくれやがるぜ、このベイビーちゃんは!
 朝のニュース番組のコメンテーター共がするような下らない問答は、お前さんのケツを蹴っ飛ばして即・終了だ。

「痛ぇ!」

「「ひぃ!?」」

 ガキ二人は揃って飛び上がる。
 そんなにいい角度でキックが入ったのだろうかね。

「ヤベェ、ここマジでヤベェって……」

「タケ、大丈夫だ。何かあったら俺がお前を守ってみせる。この命に代えてでも!」

 ささっとヒョロっちいタケ君の前に出る、男前のカズ君。
 丸腰でどうやって俺達から守るって?
 できない約束はするもんじゃないぜ、坊や。

「……いや、カズも一緒に逃げないと駄目だし! やだよ? 俺だって、触媒さえあれば魔法使えっから、お姫様じゃねーからな?」

 手を取り合う二人。
 目尻に涙を浮かばせるカズ君。

「タケ……」

 お熱い事で。
 どっちがマカヴォイでどっちがファスベンダーなのかね。

 筋肉ベイビーちゃんも、すっかり見入っちまってやがる。
 まるで他所の家の赤ん坊がクソを漏らしたのを目撃したみたいなツラをしやがって。
 お前さんには仕事があるだろう。

「ほら、マッチョ君。いつまでぼさっとしてやがる」

「マッチョ君って……いやいや、もうお金はいいんで、早いところ返してくれませんかね。
 オレ、その……帰りを待ってる人がいるんでさぁ。きっと今頃、心配してる」

 ふはは!
 笑わせるなよ。
 どこの夢の話かね。

「お前さんが助けを呼んだギルドの受付嬢の事を言っているなら、あいつはお前さんを、よく吠える犬くらいにしか見ていなかったようだがね」

「……えッ!!」

 なんで解った&そんな筈はない!
 ってツラだ。
 それまでの暮らしぶりが手に取るように解っちまうね。
 まったく、可哀想に。
 まるで誰かの踏み台になる為だけ・・に生まれてきたみたいじゃないか。

 なるべくそうならないように手配はしてやるが、果たしてどこまで期待通りに動いてくれるかね。
 このマッチョ君は。

「諦めて別の女を探すか、てめぇの身の振り方を考えるこった」

「ちくしょう、今日は厄日だ……」

「それ、俺らも同じ事思ってますから」

 一真君がマッチョ君の背中を軽く叩く。
 対するマッチョ君は、物憂げなツラをいっそう悲しげにした。

「ホモに同情された……死にたい」

 そしてマッチョ君のその一言が、どうやら茶髪の坊やの癇に障ったらしい。
 奴は舌打ち混じりに、ぼそっと呟く。

「チッ……うっざ。ホモじゃねーし。ゲイだし」

 そして筋肉ベイビーちゃんも、ガキに悪態をつかれるのは癪に障るのかね。
 髪の毛が無いから青筋が綺麗に浮き出てよく見えやがる!

「あ゛ァッ!!?」

「あ、やめ、睨まないで怖い……」

 どうして“男色”じゃなくて“ホモ”って呼び方が広まっているかはさておこう。
 どうせ、誰かが広めたりでもしたんだろう。
 少なくとも、ロナは他人事だから冷静だ。

「よせよ、タケ。知らなきゃどっちも一緒だよ……俺達だって、最初は……」

「そりゃそうだけどさァ!」

「付け加えて言えば、この世界に虹色のリストバンドなんてもんは無いぜ。
 女同士なら条件付きで・・・・・赦されるかもしれんが、男同士ならもれなくリストアップ・・・・・・だ。それが“男の理屈”だろ?」

 そこらの切り株に座り込んだ茶髪の坊やが、つばを吐く。
 さっきまでビビっていたのが嘘みたいじゃないか。
 それとも、吹っ切れたのかい。

「……やっぱこの世界クソだわ。マジでありえねー……ダーティ・スーさんも、俺らの事キモいとか思ってるんスよね?」

 俺はまだ、“ダーティ・スー”とは名乗っていない筈だ。
 が、この転移者連中はステータスがどうのと抜かすくらいだ。
 そういうスキル・・・・・・・を持っていると仮定すれば何もおかしくない。

「俺個人の見解なんざ、世間様からすりゃあ対岸で羽音を鳴らす蜂にも劣る」

「はい? いやいやいやいや、意味わかんねーッスけど?」

 諦めるのが早い上に随分とご立腹だ。
 お前さんは、他人が少しでも賢しげな言葉を使えば、学をひけらかす行為に繋がるとでもお考えかね。

「……なんにせよ、てめぇの道はてめぇで掃除するこった。俺は、足手まといは見殺しにする主義でね」

 二人組の坊やは、俺の言葉に血の気が引いたらしい。
 まあ、せいぜい頑張れよ。
 神童とやらの正義を検証するのに、お前さん達が必要だ。


 そしてマッチョ君はまたしてもぼんやり決め込んでやがる。
 図体に見合わず繊細らしい。

「失恋ごっこなんざとっとと切り上げて、仕事を始めるんだよ、ベイビーちゃん」

「失恋って! だがよォ、実際に訊いてみないと――」

 ――ズドン。
 銃弾は奴の頬をかすめて、赤い一本線がその頬に入った。

「遅漏は女を疲れさせるぜ。それとも、お仕事前にもう一発いっとくかい」

 もっとも、出すのはバスタード・マグナムだし、ブチ込まれるのはお前さんのケツだがね。

「あ、いや――へ、へい……喜んでお引き受けしやす……」

 ふん。
 図体の割にチャチな心臓をしてやがるぜ、筋肉ベイビーちゃん。
 従うなら従う。
 背くなら背く。
 半端にうろつく奴は、白黒ハッキリ野郎・・・・・・・・共に噛み付かれるぜ。
 ……まあそれは俺の知ったことじゃないか。


 パチンッ!
 俺は緑んぼ共を指の合図で呼び寄せ、一箇所に集めた。
 奴らは調教済みだから、言う事を聞くのは早い。
 どこぞの筋肉ベイビーちゃんとは大違いだな、ええ?

「そら、聞けよ。お前さん達は、今からこのベイビーちゃんに教えてもらって、トレーニングという奴をやる。トレーニングだ。解るかい」

「「「やるゥ!」」」

「よし、いい返事だ」

 その返事の内容が何を指し示しているかはさておいて、だが。
 そこは別にいい。

 別に反乱の二つや三つ起こしてくれても構わんが、せめて戦力を手軽に増強しておかないと。
 攻め入られた時にトンズラぶっこく余裕も無くなっちまうのは、流石に不本意だ。
 為す術もなく蹂躙されるのは、俺の側じゃない・・・・・・・



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