ダーティ・スー ~物語(せかい)を股にかける敵役~

冬塚おんぜ

Result 04 報復の手段、その一つの解答


 その日、反逆者ヒイロ・アカシは今度こそ死んだ。
 反逆者としての最期を看取られながら、関わる者達の記憶以外の何もかもを消した。

 ダーティ・スーの業務を引き継いだロナ・ロルクというビヨンドが、ヒイロの頭脳を破壊したのだ。
 そして、可燃性水銀と呼ばれる儀礼用の液体によって燃やされた。

 ――ヒイロはもう、二度と起き上がる事は無い。

 その報せに、王国は大いに沸いた。
 大衆は、呪いの根源が消えたという事実に対して。
 国王を含めた王国首脳陣は、ひとまず自分達の罪が明るみに出なくなったという事実に対して。

 だが、それは同時に、敵が潜在化したという事に他ならない。
 誰もがその事実を見過ごしていた。
 だからこそ、惨劇は引き起こされた。



 数日後、王宮にて。
 国王の亡骸が、玉座の真上に吊るされていた。
 犯人はクラサス・リヴェンメルロン。

 国王の呼び出したビヨンドであるダーティ・スーは、反逆者ヒイロに依頼書を与えた。
 そしてクラサスは、ヒイロの依頼書によって呼び出されたビヨンドだった。

 だが、ダーティ・スーはロナを利用して依頼を達成し、報酬を受け取っている。
 その上で、この状況になるよう仕向けたというのが、同業者達の出した見解だ。

 本来ならあってはならない、重篤な裏切り行為だった。
 しかし当時のやり取りを正確に記録している者は、誰一人としていなかったのだ。

 当事者のロナは、クラサスの提案によってこの件を黙秘。
 また王国側より派遣されていた騎士達は意識不明の重体であった。
 残る村民達だが、彼らは読み書きもできず、ビヨンドのシステムに対する知識が無かった為に、証言しようがなかった。

 そして、ダーティ・スーの「王国の看板として相手になる」という発言は、どのようにでも取れる曖昧なものだ。
 結局、証拠不十分である為に誰も介入できないまま終わった。
 彼の恐るべき状況コントロール能力だけが、同業者達の心に刻まれる。


 だがその一方でヒイロを陥れた者達は、次々と悪行の証拠が明るみに出ていた。
 アイリーン、オズワルド、スピカの三名は、怒れる民衆の手によって倒された。

 亡者と狂人を生み出した呪わしい魔石は、体制を改めた教会の手によって葬られていった。

 そして、その魔石の犠牲者達は……。



 ―― ―― ――



 数ヶ月後、王国は混乱の日々の中、懸命に立て直しを図っていた。

 狂人……教会で言う所の悪魔憑きは、神官達がクラサスの密かな助言を受けて編み出した浄化の術によって、その殆どが正気を取り戻しつつある。

 一方で亡者達は、或る者は安息を望んだ。
 また或る者は転生を望んだ。
 それ以外は答えを見つけるまで、王都より遠く離れた村落にて静かに暮らしている。


 有志によって結成された議会の長、ヘイズは二度目の視察を終えて嘆息する。

「古傷というにはまだ新しいが、一向に胃の休まる気配が無いな。妻も、娘も無事だったのは何よりもの行幸だったが……」

「ぼやくなよ。“クソッタレ陛下”が草葉の陰でほくそ笑んでいるぞ」

 その側近が、隣に立って微笑む。

「ぞっとしない話だ。マリッジ・デュラハンの件も片付けなきゃならねえってのに」

「案外、和解に持ち込めば話が通じそうだぞ。被害者に死者はいないって話だ」

 復興に勤しむ彼らの、もう一つの悩みの種。
 それは、今まことしやかに囁かれている噂話だ。

 古い鐘を片手に現れるデュラハンがカップルの前に現れ、その片割れをさらっていく。
 彼は決まって、最初にこう言うのだ。

『汝に試練を与える』

 そして彼に打ち勝った者達は、意中の者と結ばれるという。
 眉唾ものの話だが、平穏を脅かす存在には違いない。



 しかし、ヘイズ達は知る由もなかった。
 かつてはヘイズの友人だった、そのデュラハンに隠された使命を。

 彼は時折、ビヨンドとなったヒイロ・アカシと連絡をとっている。
 世界の動向を定期的に報告する為だ。

 彼は決まって、最後にこう言うのだ。

『今日も友人の奥様とご息女が、あの場所にダリアの花をお供えしてくれましたよ』



 ―― 次回予告 ――

「ごきげんよう、俺だ。

 突如、俺達の前に現れたのは、白馬の王子様だった。
 誰もが振り返るハンサムなツラだが、こいつが大層な曲者と来たもんだ。

 こっちの仕事は奴隷の奪還。
 あいつの趣味は奴隷の解放。

 利害がぶつかりゃ仕方ない。
 きっちりとルールを教えてやろうじゃないか。
 カラスが鳴く頃には、ケリが付いてるだろうよ。

 次回――
 MISSION05: 繋がれた解放者

 さて、お次も眠れない夜になりそうだぜ」



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