引きこもりLv.999の国づくり! ―最強ステータスで世界統一します―

魔法少女どま子

勇者アルス

 シュンとロニンはさすがの《俊敏性》を誇っていた。
 天使たちの間を、目にも止まらぬ速度で駆け抜け、一瞬にして神殿の内部に消えていく。

 そんな二人を邪魔しようとする天使は、残らずアルスが斬り伏せた。おかげで数体の天使はすでに倒れたが、それでも絶望的なほどに、敵は残っている。

 ――これが償いだ。あの夫婦に指一本触れさせるものか――
 気合いと根性でアルスが剣を振るっていると、ふいに、一体の天使が苦々しげに叫び声を発した。

「くっ……玩具風情がんぐふぜいが! 生意気な真似をしてくれるものだ!」
「がん、ぐ……」

 そう、たしかにアルスは玩具と呼ばれていた。
 考えるまでもない。
 言いようにディストに記憶を操作され、勇者としてあるまじき行為――村の殲滅、そして残虐的な暴力をさせられてきた。その無惨なさまを指しているのだ。

 なぜそうさせられたか。
 ディスト自身が楽しむためだ。
 ディストに娯楽を提供するためだけに、アルスは多くの人々を傷つけてしまった。シュンの両親をも殺してしまった。その罪は生涯アルスに重くのしかかることになる。償うことなど、できはしない。シュンには本当に申し訳のないことをした。

 こうしてアルスが悔やんでいる様子さえ、ディストは楽しんでいるのだろう。まさに玩具だ。自身が壊れるまで、主人を楽しませるための奴隷……

 そんなどうしようもない玩具に、シュンは手を差し伸べてくれた。一緒にシュロン国に住もうと言ってくれた。両親の敵に対して、なんと優しすぎることか。

 アルスは乱れた呼吸を整えながら、静かに言い放った。

「そうだ。たしかに俺は玩具であり、咎人とがびとでもある。だがな。そんなどうしようもない俺にも、背負ってるものがあるんだよ」

 長いこと使い込んできた、自慢の剣。
 つばから切っ先にかけて、アルスは魔力のこもった手をすべらせていく。

 ――師匠、みんな、もう一度、俺に力を……!
 その願いが通じたのかはわからない。
 次の瞬間、アルスの剣が、新緑の火炎に包まれた。暗闇の空に反して、眩く輝く勇者の剣。

 必殺技、ユグドラシル・デュアル。

 いまは亡き師匠に授けられた、アルスの奥の手だ。

「な、なんだ、この力は……!」

 天使たちがぴくりと動きを止める。全員、突然輝きだしたアルスの剣に面食らっているようだ。
 それもそのはず。
 アルス自身、沸き起こる力の奔流ほんりゅうに、驚愕せざるをえなかった。

《 ★物理攻撃力 99999
  ★物理防御力 99999
  ★魔法攻撃力 99999
  ★魔法防御力 99999 》

 さきほどユグドラシル・デュアルを使用したときより、さらに力が増している。しかも防御力まで伸びているから驚きだ。

「玩具、と言ったな……」
 アルスは新緑の剣を振り払いながら、決然と言葉を発した。
「だが、そんな愚かな過去があったからこそ、俺は自分を見つめ直し、この力を手に入れるに至った。思い知るがいい。これが勇者の力だ!」

 世界消滅まで ――0:46――

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