引きこもりLv.999の国づくり! ―最強ステータスで世界統一します―

魔法少女どま子

ピュアすぎて心が痛い

 片やシュロン国の王子。
 片や騎士長の娘。

 このコンビが注目されないわけがなかった。
 トルフィンがリュアと手を取り合って歩いているさまを、多くの国民がぽかんと見つめている。

 ときおり、「王子様ー」と手を振られるので、トルフィンは笑顔で応える。これくらいはシュンと何度も練習したことだ。

 何分そうしていただろう。ふいに、背後のリュアが話しかけてきた。
「ね、ねえ……」
「ん? どした」
「こ、怖いよ。女の子の目線が……」
「女の子の目線……?」

 確かにそうだった。
 気づけば、トルフィンたちに黄色い声を投げかけているのは、男児か大人たちだけ。幼女たちは決まって厳しい目線を向けている――リュアに。

 彼女はそれが怖いと言っているのだ。
 ――やれやれ、嫉妬か? モテる男は困るぜ……
 と一瞬思ったが、そうではないことはトルフィンにもわかっていた。

 トルフィンは王子である。もし結婚できれば、玉の輿どころの話ではない。娘一族も莫大な権力を手にすることができるわけで、だから幼女たちは親から吹き込まれているに違いなかった。王子トルフィンとは絶対に仲良くしておきなさい――と。

 彼女たちはトルフィンが好きなのではない。トルフィンの権力が好きなのだ。

 落ち着け、キョドるな……
 そう意識しながら、トルフィンはあくまで平静を装った。
「なに気にしてんだ。あんなの放ってこうぜ」
「え、でも……」

 そこでリュアは歩みを止める。トルフィンも足を止め、彼女に向き直った。

「私、怖い……。また友達なくしたくない……」
「…………」
 また友達をなくしたくない……ということは、過去に友人から見放された経験があるのだろう。その理由まではわからないが。

 トルフィンはなんとなく理解した。リュアの性格を。彼女がなぜこうまで臆病なのかを。

「俺はいなくならないよ」
「えっ……?」
「約束しよう。今後なにがあっても、俺は君を嫌わない。ずっと友達だ」

 我ながら臭いセリフだ――とトルフィンは思った。前世の自分ならひっくり返っても言えなかったことだ。
 けれど。
 相手は汚れを知らない幼女である。
 こんな垢まみれのセリフすら、嬉しそうに顔をあげる。

「……ほんと?」
「ああ。ほんとだ」
「……じゃ、やくそく」
 そう言って、リュアは小指を差し出してくる。

 トルフィンは苦笑して、同じく小指を突き出した。そのまま指を絡め合わせ、約束を破らないことを誓ってから、手を離す。

「……なんか、トルフィンくんってお兄ちゃんみたい……」
「えっ?」
「話し方とか、なんだか同じ歳の人とは思えなくて……」
「あ、あーそれはだな……」

 ――もっと子どもっぽい口調にしたほうが良かったか。
 でも無理だ。いまさら変えられないし、ほら、年上のほうがモテるっていうじゃないか。

「あのな、俺、実は六歳じゃねえんだよ」
「えっ……どういうこと?」
「んーすまん、うまく言えない」

 言ったところで理解してもらえるとは思えない。

「黙っててくれよこのことは。二人だけの秘密だ」
「ひ、秘密……私たちだけの……」
 リュアは嬉しそうに頬を緩ませた。

 これまで見たことのない、まさに天使のごとき笑顔。思わず見取れてしまい、トルフィンはごくりと息を呑んだ。

「わかった。秘密。やくそくね!」

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