引きこもりLv.999の国づくり! ―最強ステータスで世界統一します―

魔法少女どま子

村人 VS 魔王 2

 シュンは勢いよく地を蹴った。
 彼が全力で駆けるだけで、周囲に突風が舞う。
 砂埃が激しく舞い上がる。

 だが魔王とて、モンスター中で最強の男。
 シュンから放たれた剣撃を、抜きざまの刀身で防ぐ。
 このまま剣の押し合いが続くが、両者の物理攻撃力は拮抗状態。
 キリキリキリキリと、不快な金属音が世界中に響きわたる。

 シュンはもう一方の剣を突き出すも、魔王はそれを予期していた。魔王の片眼が真紅に染まる。

 炎の攻撃魔法。インフェルノ。
 死の業火が、突如として荒野全体を覆い尽くした。
 それは万物を燃やし尽くす凶悪な火炎地獄。摂氏一億度を超え、触れた者を瞬時にして溶かしてしまう悪魔の一撃。それがシュンを呑み込まんとばかりに襲いかかってくる。

 シュンは悟った。
 もうどこにも逃げ場はないと。天空にすら魔王の火炎に満ちていると。
 舌打ちをし、両腕で顔面を守る。
 魔王は甲高い笑い声をあげ、攻撃魔法の出力を最大にまで高めた。その顔には勝ち誇ったような笑みが刻まれていた。

 紅の閃光がほとばしり、そして消えた。

 次の瞬間には、無人の荒野が広がっていた。あらゆる箇所で黒煙が昇っている。この地でかろうじて生き延びていた植物は、残らず燃やし尽くされた。

 魔王は狂ったように笑い続けた。
 村人は死んだ。自分に適う者など、勇者も含めいるはずがないのだと。

 ふいに。
 魔王の肩を、背後から叩く者がいた。
 ぎょっとして振り返った魔王は、心臓が飛び出るほどの驚愕に見舞われた。
 ただの村人。引きこもり。
 なのに、魔王の渾身の一撃を受けてなお、彼はへらへら笑っていた。

 いや。
 上半身の服が焼けただれ、毛髪も激しく乱れている。頬の一部も焦げてしまっている。決して無事というわけではない。

 だが、魔王は恐怖を覚えた。
 村人の底知れない力に。 
 全力の魔法を身に受け、それでも笑っていられる男に。
 いつしか魔王は叫んでいた。
 無我夢中で振り払った刀身を、村人は息をするように弾いてみせた。

 魔王になすすべはなかった。あっけなく後方に仰け反り、致命的な硬直時間を課せられる。そしてこの村人がそれを見逃すはずもなかった。

 漆黒の剣が、空を裂いて突き出されてくる。魔王はそれを、どこか他人事のように眺めていた。
 一撃。そしてまた一撃。
 神速のごとき打ちだれてくる攻撃に、魔王は避けることも防ぐこともできなかった。
 しかも喰らうごとに命を吸い取られているような感覚がある。それに反比例して、村人に与えたはずの傷も回復していく。

 魔王は理解した。
 この村人には勝てない。最初から戦うべき相手ではなかったのだと。
 次の瞬間、魔王の心臓部を、闇の剣が深々と突き刺した。

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