引きこもりLv.999の国づくり! ―最強ステータスで世界統一します―

魔法少女どま子

決戦へ

「ゲス? その言い方は看過できないわね」

 と言ったのはセルス。

 金髪を肩のあたりで短くまとめ、凛とした青い瞳が強く攻撃的だ。

 魔王と同じくかなりの美貌の持ち主であるが、セルスはプロポーションも抜群だ。同性ならば誰もが羨み、妬むであろう。

 セルスは乱れたドレスを整えると、魔王の隣に立ち上がった。

「誘ったのは私。魔王様はそれに応じてくださっただけよ」

 そんなのはどうでもいい。どっちだって同じだ。
 ロニンはなにも言わず、セルスに厳しい目を向け続ける。

「納得いかないって顔してるわね? でもこれは当然ではなくて?」

「…………」

 ロニンは心中でなにもかもを悟った。

 おそらく、セルスは時期魔王の就任を確実とするために、自分の身体を売ったのだろう。

 世論はセルスに大きく傾いている。

 だがロニンとて魔王の子。最終的にどちらが就任するかわからない。時期魔王を決定するのは結局、現在の魔王だからである。

 だからセルスは次の手段に出た。なんとしてでも自分が次の魔王となるために。

 汚い世界だ、とロニンは思った。
 城下町では多くのモンスターが傷ついているのに、上の連中は自分のことしか考えていない。

 一般のモンスターのことなぞ、これっぽちも考えていないのだ。

 ロニンは思い出した。
 人間世界での朗らかな暮らしを。
 美味しかった食物を。

 モンスターだって人間と同じだ。
 私たちだって美しい世界に住みたい。こんな荒れ果てた土地など望んでいない。

 なのに、上の連中がこれでは、モンスターたちの幸せは一向に訪れない。
 こんな二人に、将来のモンスターの行く末なんて任せられない。

 ならばこそ。

 ロニンは決意を瞳に称えながら、セルスを見据えた。

「残念だけれど、時期の魔王は私。セルス、あんたには任せられない」

 セルスはたっぷり数秒間目を瞬かせていたが、やがて堪えきれなくなったように大笑いした。

「あっはっはっは! これは驚いたわ! ロニン、まさかあんたがそんなことを言うようになるとはね!」

「大口を叩けるのもいまのうちよ。もう私は、昔とは違う」

 そう、私にはお兄ちゃんとともに過ごした日々がある。
《引きこもり》という、最強の力が。





「ーーだってよ。おいオッサン、俺たちはどうする?」

 シュンは薄ら笑いを浮かべながら魔王に問いかけた。
 脇では、ロニンとセルスがいまにも爆発しそうなほどに対峙している。

 ーーロニン。
 すこし心配だが、もうおまえならひとりでやっていけるだろう。セルスはおまえに任せる。

 その思いが伝わったのか、ロニンもシュンを一瞬だけ見つめ、こくりと頷いた。

 ーーいいよ、お兄ちゃん、お父さんを倒して。

 シュンも同じく頷き返すと、再び魔王を見据えた。

「娘さんから許可が下りたんでな。魔王よ、おまえの命も今日までだ」

「なんだと……?」

 魔王がぴくりと眉を動かす。

「こいつは芸術だな。まさかこの私に大ボラを吹く者がいようとは」

「その台詞。小物臭プンプンだぜ、おっさん?」

 言うなり、シュンは右手を突き出した。

「こんなとこで戦うのもなんだ。紳士は潔く場所を移そうぜ」

「ふん。ずいぶんと余裕なんーー」

「ハッ!」

 魔王が言い終わらないうちに、シュンは右手に気合いを込めた。

 ズドッ! という轟音についで、すさまじい衝撃波が室内を駆けていく。

「ぐおっ!」

 避ける間もなく、魔王が勢いよく後方に吹き飛んでいく。窓をも突き破り、はるか彼方へと遠ざかっていく。

「じゃあロニン。死ぬなよ」

 それだけ言い捨ててから、シュンも窓から飛び降り、魔王を追っていくのだった。

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