引きこもりLv.999の国づくり! ―最強ステータスで世界統一します―

魔法少女どま子

尻尾があるだけでこんなにも変わる

「お、おいしい……」

 ロニンはコッペパンを頬張りながら、惚けたように呟いた。
 そのまま物も言わず、速攻で丸ごと平らげてしまう。 

 この光景には、さしもシュンでも穏やかな気分にならざるをえなかった。

 いい歳をした女の子が、パンなんかにいちいち喜んでいるのだから。

「ほれ。ジャムついてっぞ」

 言いながら、シュンはロニンの口元を拭ってあげる。

「あ……。ありがと」

「せめて行儀はよくしてくれよ。これ以上は目立ちたくない」

「う、うん」

 ロニンは虚ろな返事をした後、二つ目のコッペパンを見つめながら呟いた。

「人間の世界って、いいね……」

「は?」

「お父さんは言ってた。人間の世界は汚いって。モンスターを問答無用で殺してくるって。だから絶対に滅ぼさなきゃいけないって……」

「…………」

「だけどそうは思えない。最初、お兄ちゃんに会ったときからそんな気がして……」

 シュンはなにも答えなかった。

 自身もパンを食しつつ、ロニンにコッペパンを差し出した。

「ほれ、食え」

「……うん」

 そのまま、ロニンはちびちびとコッペパンをかじり始める。その表情はどこか寂しそうだ。

 ーーこの空気。めんどくせぇ。
 バツの悪さを感じながら、シュンは言った。

「俺もさ。おまえとまったく同意見だよ」

「……へ?」

「おまえと会うまで、モンスターなんてただの乱暴な獣だと思ってた。だがおまえを見てる限り、そうでもないらしい」

 そもそもシュンは外の世界をほとんど知らない。
 だからモンスターと接触したことなんてほとんどないし、ただ親の言うままに、モンスターを近寄ってはいけない存在だと決めつけていた。

 けれど。
 いま目の前にいるロニンは、人間とどこも変わらない。

 それこそ尻尾の存在にさえ気づけなければ、彼とてモンスターだとは思いもしなかったろう。

 だからシュンにとっても、一週間前の自身の行動が不思議でならなかった。

 なぜ魔王の娘を助けたのか。
 なぜ憎むべきモンスターを救い、勇者なぞと敵対してしまったのか。

 ーーちっ、こんなこと考えたくもねえよ。

 久々に真剣なことを考えながら、シュンはパンをかじり続けた。

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