ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第4節14部ー歯が立たないー

この施設から脱出しようとしていた二人は、途中で来栖川順位と合流した。複数の生存者を連れているところを見て荒木は安堵の表情を浮かべ……。

「准尉、無事助け出せたんですね」
「ああ、だがみな衰弱している。急いで医師に見せなければ……」

 そんなやりとりを見て、心底どうでもいいと思っている者が一人。彼女は声を大にして来栖川に言う。

「しどぉはぁ!?」
「彼は途中で進路を変えてさらに奥へ行ってしまったんだ。まだ戻っていないのか……」
「……しどぉ」

 葉月とも話ができず、どんどん不安が募っていく。
 そもそも、ガーネットが雛樹と共にいるのは、ガーネット自身が安定を得られるからだ。精神面でも身体面でも。
 雛樹がいない今、誰が彼女のバランサーになるのか……。

 だが、その雛樹は今。

「ッ……が……あ……」
「ハハ、ハハハハッ!! おい、いいざまだぜ祠堂よォ!!」

 右足が折れている。立ち上がることができない。ただ血を流し、息も絶え絶えに激痛に耐えていた。

 確実に自分を殺そうとしてくる伊庭に対し、こちらも殺す気で反撃したはずだった。しかし、繰り出す攻撃のことごとくが届かず、逆に伊庭の攻撃は全てこの身に受けてしまった。

「ハハハ!! オイ……オイ見ろよ、なぁ!! あの祠堂雛樹がこのザマだぜ!!」

 カツン、と。伊庭の後ろから足音が聞こえた。閉じかけた右目で視認する。伊庭と所属を同じくする、RBがこちらへ向かって歩いてきている。
 伊庭が自分を殺せと任務を受けているならば……もちろん彼も。

「へェ派手にやったじゃねェか。伊庭少尉」
「ったりめェだろうが! ほらみろこいつのザマをよ! 清々しいったらねーぜ!!」

 雛樹の髪を鷲掴みにし、持ち上げてRBへ見せつけた。
 雛樹の顎の先から滴る血の雫が血だまりを広げていく……。

「これが方舟で俺が得た力だよ……なぁ祠堂。経験と技術だけじゃどうにもならねぇもんを俺は手に入れお前を圧倒した。よォくわかったろ?」
「ゲホッ……。……!!」
「へ、獣みてェな目ェしやがる。やっぱこいつぁだめだ。おかみもいい判断したもんだぜ、こいつは厄介者だ。厄介者は邪魔にならないうちに掃除するのが一番だ。そうだろRB!?」
「あァ……そうだな」

 重い金属音。RBが持つ大型リボルバーの撃鉄が起こされた音だ。
 その音を聞きながら、雛樹は目を閉じた。
 RB軍曹の腕は間近で確認した。今自分が残る全ての力を使っても……たとえ、ドミネーター化しようとも勝てない相手だと本能が告げていた。

「待てよRB、トドメも俺がやる。俺がやるんだよ……よこせその銃」
「ハン……」

 RBは、銃をくるりと手のひらで回し、握りを伊庭の方へ向けた。伊庭は未だ収まらぬ凄惨な笑みを浮かべながら、その銃に手を伸ばした。

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品