ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第4節3部ー集落へー

 茂みに隠れ、膝をついてしゃがみ、すぐに走り出せるように各自待機する。
 来栖川准尉は撤退部隊に通信で集落に向かう事情を話していた。撤退する者たちも、その連絡を聞いて納得し、とにかく負傷者を連れて逃げ切ることだけを考えているようだ。
 だが、侵食体と第三輸送部隊の撤退戦は続いている。銃声もまだ近い。コンテナに入っていた食料をむさぼりつくした触腕は撤退する兵士に向かっていた。
 直撃する光学兵器の一撃に触腕を捥ぎ落とされながらも。どこか頼りない様子で、しかし必死に逃げる兵士たちを追っていた。

「クソ、こっちに来るぞ! 撃ちまくれ!!」
エネルギーカートリッジが切れた! カバーしてくれ!」
「近寄らせるな! 捕まればグレアノイド侵食を受けるぞ!」

 圧縮された高エネルギーのレーザーが無数に放たれる。だが、異様に増殖し
、枝分かれした触腕は迫る速度を増し……。
 弾幕が薄く、迎撃が不十分だった場所にいた兵士が数人捕らえられた。

 不意に聞こえてきた数人の兵士の叫び声に、茂みに隠れていた来栖川准尉が顔を上げ、レーザーライフルを構えた。

「来栖川准尉、まだ撃たないでください」
「祠堂君……部隊の兵士が触腕に捕らえられている。いますぐ助けないとだめだろう!」
「救援部隊がまだ遠い。それに、侵食体の知覚範囲内だ。今攻撃すればみんな仲良く撤退することになる。第三輸送部隊は襲撃をさけるために後退し、集落に向かえる状態じゃない。今火器管制室に迎えるのは俺たちしかいないんですよ」
「なら彼らを諦めろと言うのか!?」
「まだ待ってくれって言ってるんだ。彼らは侵食抑制剤を持っているんでしょう。うまくいけば捕らえられた部位を切断するだけで事は済む」

 あまりに非情な雛樹の物言いに、不快感を覚えた来栖川准尉だったが……大きく深呼吸し息を吐き出した。
 確かに雛樹の言う通りではある。この状況を潰すためには二脚機甲の力が必要だ。自分たちが島の防衛兵器である旧型粒子砲をオフラインにしなければ、ここまで二脚機甲が入ってこれないのだ。

「来栖川准尉」
「……なんだ、祠堂君」
「あまり見ないほうがいい。あれを見るのが初めてならなおさら」

 引きずられ、どんどん侵食体に近づいていく捕らえられた数人の兵士は、触腕が巻き付いた部位から腐り、ぐずぐずになっていく感覚を覚え恐怖した。
 グレアノイドによる侵食が始まっている。すぐさま、常備している薬品の入った針のない注射器、ジェットインジェクターを首筋に向けて刺し、薬品を投与する。
 これはグレアノイドによる侵食速度を抑制するものであるが、進行そのものを止め、改善するものではない。あくまでも遅らせるだけのものだ。たすかるには、すでに侵食された場所を切り落とさなければならない。

 だが、己の体を蝕む事が、頭から飛んでしまうほどの衝撃が目に飛び込んできた。
 地面を割って姿を現した侵食体、その姿を視界に収めてしまったのだ。

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