ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

18話ータイムゲートシステムー


「すぐにわかったわぁ。あの子がしどぉだって……。何もかも同じなんだものぉ」

「俺にはわからなかった。あれがなんなのか……。多少の違和感は覚えていたが、それでも」

 膝の上に頭を乗せたガーネットは、頭を撫でてとねだってはこなかった。
 ほぼ初めて感じているであろう自責の念がそうさせているのだろうが……それでも雛樹は頭を撫でてやった。

 くすぐったそうに身じろぎすると、顔を雛樹の腹の方に向け、すんすんと鼻を鳴らす。

「しどぉの血の匂い……。ひどい怪我ぁ」

「油断した。あいつの体表にこいつが埋もれててな……」

 雛樹は胸板あたりに下がっているタグを握りしめ、どうしよもないやるせなさを抑え込む。

「あいつらはあれを呼び込んで何かしでかすつもりだ。……その前に探し出して潰すしかない」

「自分をぉ?」

「ああ……ああなったのなら自分であっても……いや、自分だからこそ……」

「しどぉ」

「ん?」

「あのしどぉ、アルマが本気出しても多分、勝てるかどうかよぅ?」

 嘘だろ。そう言いかけた自分の口を閉め、代わりにため息をついた。
 己のことをアルマと言ったのだから、ステイシス=アルマ、つまり方舟の最高戦力たる自分が全力で戦っても分が悪い相手だということだ。

「お前はあれとやり合いたくないんだろ?」

「しどぉと殺し合いたくない……」

「……あれがまだ俺だと言えるのか? あれはもう化け物だ。俺じゃない」

 あのドミネーターの右腕は特に変異が進んでいた。
 結月恭弥が言うには、自分の右腕がドミネーター因子に侵食されつつあるということだったが……恐らくは、因子を使用した戦闘方法が限界を超え、ああなったと見るほかないだろう。

 そしてその限界が6年以内に訪れるということも、現れたいつかの自分が示していた。

「あのしどぉも……こうしてあたしの頭を撫でてくれてたんでしょお」

「それは……どうだかな。未だに俺はあれが未来から来ただなんて信じられないんだ」

「タイムゲートシステムの情報はステイシスサーバーにも登録されてたわよぉ。理論とかそのあたりいろいろ3時間くらいあれば話せるけどぉ?」

「長いわ。どんだけ膨大な情報なんだよ……」

 とりあえずは、把握しやすい情報からだとテレビを付け、ニュースを確認するが話題になっているのは企業連研究所に侵入した何者かのことばかりであり、ドミネーター化した自分のことを報道する機関はない。

 その中に混じって頭の痛くなる報道があった。

《センチュリオンテクノロジー、結月少尉が対応するも逃し——……》

 その侵入者を発見し、捕える役目は結月少尉がおこなっていたと報道されていた。

 ドミネーターの存在が隠されている以上、その侵入者を逃したのは結月少尉だということになっていたのだ。
 そんなバカなことがあるか。あの後、自分を追ってきていたのは確実に企業連の部隊だったはずだ。


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