ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第3節8部ー上陸直前ー

 侵食が進んだ浮島の場合、その島の海抜は不自然に高くなる。グレアノイド鉱には反重力作用があり、陸地に巨大なグレアノイド層ができると浮き始めてしまうのだ。
 その反重力作用はすでに技術転用されており、ウィンバックアブソリューターはそれを利用した反重力炉を搭載し、飛行を可能としていた。

 雛樹はそれから、手短に注意事項を述べていった。タイプΓ(ガンマ)以上のドミネーターを確認した場合の対処方法、グレアノイド侵食を受けた土地へ踏み入る際の警戒事項など。
 たどたどしい説明ではあったのだが、それでも若葉マーク付き兵士たちにはいいアドバイスにはなっただろう。

「悪くないアドバイスだった。ありがとう、祠堂」
「いえ、これでいいのならよかったです」

 真剣に聞き入っている者も多かったのだが、やはりまだ嫌な視線は感じていた。まあしかし山場は越えたようだ。
 隣から感じる視線がどことなく柔らかなものになっていたからだ。

 一応は、ステイシスの期待には答えられたようで、一安心した。

「っへ、えっらそうによ。201の肩書きってのはそんなに目立つもんか?」
「少なくとも、言ってるこたァ間違っちゃいねェ。俺もうんざりするほど聞かされてたこともあったが……まぁ、昔のことだしな。改めて聞くのも悪かねェ」

 あくまでも雛樹と反目している伊庭少尉は、終始ふてぶてしい態度を向けていたみたいだが、RB軍曹はそうでもなかったようだ。ただ、RBの反応には少しばかり影があった。
 これは、この任務が始まる朝からのことだ。伊庭も少しばかり違和感を感じてはいるが、まあ、“今回の任務の内容が内容”だ。わからないでもないと伊庭は肩をすくめていた。

 ブリーフィングが何事もなく進み、護衛部隊、輸送部隊共に意思疎通を図り目的とその過程をはっきりさせたところで、間近に迫る上陸のときに備えることとなった。

 雛樹はオペレーターとして参加している葉月と合流し、軽く話し合いを進めていたのだが……。

「しどぉ、何言ってるかよくわかんなかったけどぉ。ヘタレっぽくなかったからよかったわよぅ?」
「そりゃどうも……。それよりお前、よく食べるな」
「お腹減ってたぁ」
「よく食べることはいいことだけど、腹いっぱいにすると動きづらくなるから……」
「あー! 取るぅ! しどぉがアルマの取るぅ!」

 左腕で抱えるほどのハンバーガーやホットドックなどのジャンクフードの数々。その一つを雛樹が取り上げて口にしたために、ステイシスがぴょんぴょんと跳ねながら騒ぎ立てた。
 左腕に抱えているものと、右袖に挟んで持っているハンバーガーのせいで取り返すことができないでいるのだ。
 これらは艦内にあるフードコートで、お腹が減ったと言ったステイシスに買い与えたものだった。

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