ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第7話ー選択ー

「何が目的だ? 俺に恨みがあるのなら俺を直接狙え」

「恨みぃ? あるわけねぇ、あるわけねぇよそんなもん。俺はただただお前の存在を勘定に入れてなかった、それで負けた。そんだけだ。この顔の火傷も自業自得さ。お前さんと真正面からやりあって生き残れただけでも御の字じゃん?」

 あそこで生き残れたからこそ、今こうしてこの海上都市と対峙できると。
 そして言う。

 お前はそれでいいのかと。

「俺にそこまで言わせるお前が、なんだ随分腑抜けてるじゃねェの。俺にはそれが我慢ならねぇのよ、わかる?」

「……」

「しどぉ?」

 ほんの少しだ。ほんの少しの動揺を、雛樹は隠せなかった。
 毅然とした態度で居続けることが、この男に対する最善の対応だったはずなのに。

 その動揺を目ざとく感じ取ったガーネットが声をかけたが、それに反応することなく、雛樹は次の言葉を探していた。

「前に言ったな。金を稼げればそれでいいとかなんとかよ。そんな男が、本土で孤児の面倒見たりすっかなぁ?」

「……それを、なんで知ってる」

「知ってるぜ。なんならどこの孤児院か、孤児の名前まで言ってやろうか。どうだ、懐かしくないか? お前が忘れかけていた子供らの名前は」

 海上都市での生活は、心地いい。
 食料に困ることはなく、水に困ることはなく。
 野盗や……チンピラよりよっぽどタチが悪い軍属の末端に絡まれることもない。

 娯楽に溢れ、進歩した技術により生活が格段に楽になった。

 だからなのか、本土でのことを無意識に忘れようとし、ここでの生活に甘んじているのは。

 子供達のことも、風音のこともその祖父のことも気にかけることなく。

 かつて、CTF201として守りきれなかった本土。
 任務を全うできなかったことに対しての悔しさと己の無力さを感じつつも、なんとか小さいながらも守っていた孤児院。

「考えることをやめて、ただただ怠惰に過ごす生活はどうだ。幸せだろうよ、なあ」

「しどぉは……!!」

 ちゃんとお仕事してるわよぉ。ガーネットは飛燕の物言いに憤り、そう言ってやろうとしたのだが……それを雛樹が止めた。

 図星だったからだ。図星を突かれて、その反論をガーネットに言わせるなど情けないにもほどがあった。

「俺……いや、本土がお前を雇いたがっているのさ。祠堂雛樹、目を覚ますチャンスだとは思わねぇか」

「……!!」

「しどぉ、こいつの言うこと聞いちゃだめよぉ」

「断ってもいいがその代わり、夜刀神葉月は死ぬだろうぜ。さあ、どうする。アラームが鳴る前に目を覚ましたほうが、後々尾を引くこともねぇだろうが」

「しどぉ……?」

 手が震えていた。おそらく、これは大きな選択になる。
 この選択を誤れば、取り返しのつかないことになるはずだ。
 そして文字通り、目が覚めることになるかもしれない。


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