ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第4話ー面会要求ー

 自分で持ってこられるものといえば、仕事よりも厄介ごとだ。
 金になりもしない上に、ただただややこしいことになるだけの骨折り損。
 やけに最近、どこに行っても監視の目が一つや二つはある。

 おそらくは企業連の連中だろうが、時たま別の雰囲気をまとった尾行者が現れることもあった。

「しどぉにぶたれるのやだぁ……」

 ガーネットは頭を両手で押さえ、珍しく涙目である。
 一緒に住み始めた頃なら10倍返しと言わんばかりにビンタを繰り出していただろうが、頭を撫でられるようになってから少し変わったらしい。

 心境が、というよりは自分に触れられることに対する意味合いがだ。

 頭を撫でられるとものすごく嬉しいし心地いい反面、打たれるとめちゃくちゃ怒られている、嫌いになられるかもしれないという心持ちになる。
 それだけガーネットにとって唯一無二、自分に直接触れられる人間というのは特別なのだ。

「俺たちの給料も減らしてくれて構わないんだぞ。毎回本来の報酬分律儀にくれなくともだな……ほら、俺もパンの耳で食いつなぐことくらいできるさ」

「しどぉが無視するぅ!」

「うぐ」

 ガーネットの拘束衣を利用した羽交い締めに遭いながらも、雛樹は儲けが出なかったら給料を減らしてくれてもいいと言ったのだが……。

「何言ってるの。借金してでも報酬に見合ったあなたたちの給料はしっかり払うわ。いくら雇い主と雇われの関係とはいえ、信用にかかわるもの。その辺はきっちりしておかないと」

 危険な任務に就かせている以上、馴れ合いで半端な事は出来ない。
 雇い主としての責任はしっかり果たす、それが夜刀神葉月のやり方であるのだ。

「それよりガーネットにかまってあげて。うちの切り札中の切り札なんだから、あんまり機嫌損ねるような事はだめよ」

「あんまり好きにさせると際限がないからな……っと」

 羽交い締めから抜けてから、ガーネットの頭をぽんぽんと叩くと落ち着いた様子を見せたのだが……。

「ぽんぽんより撫でなさいよぅ」

「無茶してうちの機体壊さなくなったらな」

 ぼそりと不満を漏らしたガーネットに対し、雛樹はそう言って諦めさせた。

 もうそろそろ退社するかと帰宅準備を始めた雛樹だったのだが、そのタイミングで事務所に電話がかかってきた。
 だれからだと相手を見てみると、企業連合本部からだった。企業連合本部から直接連絡など、あまりいい予感はしない。
 夜刀神葉月はその連絡相手に困惑しながらも、無視するわけにもいかず……。

「はい、夜刀神PMC、夜刀神葉月です。はい、お世話になっております」

すでに帰宅準備を整えていた雛樹とガーネットは葉月が連絡を取っている間、神妙な面持ちでじっと突っ立っていたのだが……。

「面会……ですか? 今から? ……はい、わかりました。では」

 通話を切って、葉月は大きく息を吸って吐き出した。大して大きな案件ではなく安心したのだろうが……面会とはなんのことか。

「祠堂君、今から企業連本部に向かってくれる?」

「構わないが……なんでだ?」

「パレード襲撃の首謀者が貴方に会いたいと言っているそうよ」

「……あまりいい気はしないな」

 数週間前に開催されたセントラルストリートパレード。
 その際、ガンドックファクトリーの粒子砲をハッキングし、大騒動を巻き起こした本土の人間、飛燕という男が面会を求めているというのだ。



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