ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

ー初めてのお買いものー

 ガーネットが操る機体性能は雛樹の現行機より一回りもふた回りも劣る。
 雛樹は最近の静流の特訓の甲斐もあって、並程度には二脚機甲を操れるようになってきている。
 そんな条件の中で、なぜ雛樹の操る機体が開始2分で大破するのか。

 単純な反応速度と練度の違いといえばそれまでなのだが。
 雛樹が汎用装備を使用するに対して、ガーネットは規格外の大型装備を用い、凄まじい速さで一発限りの必殺を当ててくるのだ。

 もちろんその装備のほとんどが機体スペックに合わず、エラーが発生し各部性能は落ち、エネルギーが枯渇するのだが、当ててしまえば問題ない。

 遊んでやっていたつもりが、いつのまにかこちらが遊ばれていた。
 まあ、ずいぶんとガーネットが楽しんだようだったため、別段文句も言わずシミュレーションを終えて店を出た。

「だからぁ。もう少し感覚に頼らないとぉ」
「脊髄反射並みの速度で操縦するお前に感覚だけでどうにかなるとも思えないんだけどな……」

 大通りを歩き、いつぞや静流と行った公園の方に歩いていた雛樹はガーネットに二脚機甲の操縦についてくどくどと言われていた。
 だが、ガーネットの言う操縦法はあまりに基礎からかけ離れていて、丁寧な静流の教え方とは天と地ほどの差。

 しかし、静流とガーネットが同じ機体、同じ条件で二脚機甲を操った場合ガーネットの方が二枚も三枚も上手である。
 操縦のうまさが教えのうまさとはならない、いい例だ。

 あれやこれやと身につかない教えを聞きながら公園に着いた二人は、噴水近くのベンチで座り込んだ。

 休日というだけあり、公園には家族連れやカップルが多く見られる。そんな中でも、ガーネットが目をつけたのは移動式の屋台だった。

「ねぇしどぉ、あれ食べたぁい」
「んん」

 それは甘ったるくも香ばしいにおいを漂わせてくる、生クリームなどを薄い生地に巻いた洋菓子、クレープだった。
 食べるのはいいのだが、雛樹はそこでちょうどいいとばかりにとあるものを出してきた。
 そのあるものとは、薄手の手袋だ。それをガーネットにつけさせて……。

「この財布にお前の金が入ってる。食べたいんなら自分で買ってきてみな」

 そう言いながら、小さな小銭入れをお椀型に差し出されたガーネットの両手のひらにポンと乗せてやった。

「なぁにぃ? さっきいじめられたお返しぃ?」
「そんなみっともないことするか。金をちゃんと自分で使えるようにならないとってわけだ。貨幣価値の説明からしようか?」
「ふん、いいわよぉ。見てなさぁい」

 むすりとしたガーネットは、手のひらに小銭入れを置いたまま小走りで屋台の方に走って行った。
 近くまで来ると、店員からいらっしゃいませと声をかけられ少しばかり体を硬直させた。

「なにか決まってるかな?」
「……んぅと、一番高いのぉ」
「それじゃあこれになるけど、いいかな?」
「よろしいわよぉ」
「それじゃあ、1250円だよ」
「せんにひゃ……」

 ガーネットが幼く見えたのか、子供に対する話し言葉の店員である。
 背の低いガーネットは背伸びして屋台のカウンターからちょんと顔を出していたのだが、それを止めて小銭を漁りだした。

「んー……」

 と、漁るのを止めて再び背伸びしてカウンターから顔を出すと、小銭入れをポンとカウンターの上に置いてしまったのだ。

「……たりるぅ?」
「あ、はい! 大丈夫だよ!」

 面倒臭くなったガーネットは、店員に小銭入れからお金を出してもらうことにしたのだ。
 結局、微笑ましい笑顔を店員に向けらながらゴージャスなクレープと小銭入れを受け取って雛樹の元へ帰って行った。




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