ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第3節—異変感知。単独作戦行動開始—

 そして、再会後一番ゆっくりと語らい、楽しむことができたこの休息時間も終わりが来た。

「では、警備任務後半も頑張ってくださいね」
「ターシャはこれからどうするんだ?」
「姫乃と合流し、パレード後半を楽しみます。ステイシスの公開が済むまではいるつもりですよ」
「一番厄介な催しらしいな……」

 そう、一番この都市の住人が関心を持つのが最高戦力であるステイシスの公開なのだ。
 都市中が、方舟の守護神を一目見ようと盛り上がる中、その守護神に関心を持っているのはこの都市の住人だけではないことを。
 雇われ警備兵達は知っていた。

……——。

 雛樹が異変に気付いたのは、オペレートしている夜刀神葉月のこの一言からだった。

《やっぱり……一部兵器に不正なアクセス痕があるわ》
「不正なアクセス?」
《ええ。休憩がてらパレードを見ていた時、有象無象の電波に混じって一つだけ、とんでもない強度の電波を感じたの》
「感じた? 電波って感じたりできるようなものじゃないだろ。探知機か何か持ってたとか……」
《いいから黙って聞いて。そのアクセス痕から元を辿ったら……そこから北東約200メートル地点にある“アイゼンロック社”の第二オフィスビル、8階1504会議室。ちょうどセントラルストリートの第三区画を見下ろせる場所よ。そこから見えるはず、確認できる?》

 北東を向き、大体200メートル地点を探す。そのオフィスビルの特徴である大きなホログラムモニターを伝えると、そこだと回答を得られた。

《いい? 今、ステイシスの公開準備でパレードの進行は停止してる。第三区画にある一番やばい兵器がどれだかわかるかしら》
「ああ、一等でかい粒子砲だろ。威力が桁違いだの、収束率がどうだのと触れ回ってた」
《そう。ガンドックファクトリーの粒子砲台。不正アクセスが確認できたのはそれよ》
「……そんな危険な兵器に、簡単にアクセスできるものなのか?」
《アクセスだけなら容易だわ。でも、その兵器を乗っ取るほどのクラッキングは、“個人”では不可能よ。それこそ、巨大なコンピューターを数十台繋げたくらいの演算能力がなければね》

 なら、そんなに気にする必要はないんじゃないかと言おうとしたが……、葉月の舌打ちが先に割り込んできて黙り込んでしまった。

《粒子砲台のファイアウォールが浸食されてる。一応ガンドックファクトリーに連絡を入れたけど……あっちもまともに取り合ってくれないし。企業連には……だめね、遅すぎる》

 ぶつぶつと、物騒なことを言い始めた葉月に自分はどうすればいいか聞くと、単純明快な答えが返ってきた。

《なにか起こされる前に、元を潰したいのだけど……あなた一人じゃ危険だわ。近くにGNCの兵士が……ああ、だめね。なんらかの機器で指定スポットされてるじゃない。一線級の兵士が下手な動きをすれば感づかれて移動される……》
「俺はマークされてないと?」
《え? ……まあ、当たり前よね。無名の兵士なんだから》
「なら俺だけが下手に動けるわけだ。元を押さえに行く、オペレートを」
《あなた一人で!? やめなさい! 生意気でもたった一人の社員なんだから、無謀はさせられないわ》
「この人ごみの中、あの兵器を好きにされるよりは幾分マシだろ。上司なら部下を信じるのも仕事じゃないか。行かせてくれ」

 強い意志を持った雛樹の言葉に、言いようのない頼もしさを感じた葉月は、冷や汗を頰に伝わせながらも、許可の言葉を口にした。

「ははっ、慣れてないな。声も覚悟も震えすぎだぞ」
《煩いわね……。いいからさっさと行って抑えてきなさい!》
「うはは、久々にこんなに笑ったな。あー了解、指定座標に向かう。ルートを」

 しっかりと銃を体に固定し、葉月のオペレートに従って目立たないように移動を開始する。その行動中も進む、粒子砲へのクラッキング。その進行状況を見ながら、葉月は深く深呼吸をし、第三区画の現状マップの詳細を目で追っていった。


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