ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第4節8部—虎穴に入らずんば……—

「彼はどうするつもりだと言っていましたか?」
《このままコクピットでできる限りのことをするって!》
「この先、遠隔操作された機体がどうなるかもわからないのにですか!? 無茶です、今すぐ脱出すべきです!」
《私もそう言ったけど……。任された以上退けないって、彼がそう言って聞かないらしいの。葉月ちゃんも説得してたみたいだけど……ダメだったみたい》

 夜刀神葉月と通信していた東雲姫乃は後から「葉月ちゃんのあんな震え声初めて聞いた」と付け足したが……。静流は、指導雛樹の性分を昔から知っていたため……。

「あの人の無茶は今に始まったことではありません。深く考えてしまうと、胃に穴が開きますよと葉月に伝えておいてください」
《はっ、えっ!?》
「私はセントラルゲート付近のドミネーター制圧部隊へ加わりますので。ああ、あと、度が過ぎた無茶をして死に急ぐつもりなら、睾丸ぎゅっとしますから。とも伝えておいてください」
《わ、わかった。ほんと肝が据わってるねー、結月ちゃん。いいお嫁さんになりそうだ》
「……馬鹿なことを言わないでください、ぶっ飛ばしますよ。ほら、ムラクモを全ユニット展開し、目標を殲滅します」

 軽く一蹴された東雲姫乃は、苦笑いを浮かべながらモニターに映るブルーグラディウス、結月少尉の状態とその周囲の情報に目を通していった。

 遠隔操作された機体が外海へ出るまでもう1分を切る。状況は相変わらずだ。
 その中でも、雛樹は腹を括りパイロットシートにどっかり座っていた。

「別に生き急いでないから、ぎゅっとするのは勘弁してほしいわ……」
《それはしずるんに言って。で、どうするつもりなの? 祠堂君》
「このまま待機するよ。ステイシスが入ってる金属球だけじゃ移動できないのを考えると、この機体が向かう先は敵の拠点だ」
《どうしても乗り込むつもり!? ダメよ、今すぐ脱出しなさい! 狙撃されたんでしょう!? あなたがそのコクピットにいるのは相手に筒抜けなのよ!?》
「虎穴に入らずんばなんとやらだ。狙撃手が外にいるこの状態じゃ、外に出てステイシスを助けられない。この機体は海の上を飛べるのか?」

 空は特殊二脚機甲、ウィンバックアブソリューターの領域だ。量産型である二脚機構、エグゾスケルトンソルジャーでは空を飛ぶことはできない。

《その機体の強力な推進機関と、浮力があればある程度ならば飛ぶことができるわ。でも、ほとんど滑空するようなもの。上昇したりはできないわ》
「上昇……」

 このまま海へ飛び出すと……丁度、セントラルゲートに開いた大穴まで一直線だ。
 高さも問題ないだろう。初めからこのことを計算して、粒子砲の初弾を放ったのだ。なんとも計算高いことだ。
 だが、大穴付近には大量のドミネーターが存在している。このままいけば確実に接触するが……。

「した時はした時だな。そうなればこの機体がゲート外へ出ることはないし……。ゲートの内側に落ちさえすれば、空のウィンバックなんとやらが回収しにくるだろ」
《アブソリューターよ。……確かにそうなれば、敵の予測外でしょうけど……》
「ああ、多分そうはならない」

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