ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら
第1節7部ーガーネットー
《君とステイシスの因子共鳴はメリットばかりではない。均衡が少し崩れただけで大きな歪みが生じると思われる……と》
モニターの向こうが何やら騒がしくなってきた。高部総一郎は企業連幹部であり、まだまだ先日のドミネーター襲撃事件についての後始末が終わっていないために立て込んではいるのだろうが……。
《すまない、ここまでのようだ。ある程度のステイシスのデータをそちらに送っておいた。生活を共にする際の参考程度に使って欲しい》
「わかりました」
別れの言葉もなく、高部総一郎は一方的に通信を切ってしまった。消え去ったホログラムモニターの前で、雛樹はしばらく立ち尽くしていた。
方舟を守る最高戦力といえば聞こえはいいが、極めて殺傷能力の高い……しかも意思をもつ生物兵器と生活を共にするなど正気の沙汰ではない。
こんなもの、常に引き金に指がかかった銃を向けられて生活するも同じことだ。まだステイシスという少女の事をよく知らない現状ではなおさら。
「なぁに?」
「いや……。お前はどう思ってるのかと思って」
「別に、外には出てみたかったしぃ。まあ、私に触れる男が……必ず私に優しいってわけでもないのはぁ、考えてみれば当たり前のことよねぇ」
今まで散々怖がられてきたのに、それは都合が良すぎるかしらぁ……と。ステイシスは呟いた。雛樹はそれを聞いていたが返す言葉が見つからない。しばらく黙った後、自分もソファーに座り右手をさりげなく差し出した。
「なによぅ」
「一応、この家はお前のものなんだ。そこに住まわせてもらうのは、高部さんの温情だしな……。できる限り、自分の出来る範囲で面倒を見るよ」
ステイシスは差し出された雛樹の右手を、だぼだぼの袖を振って払う。随分と自分のことが気に入らないようなのだが……。ふいと顔を逸らして、ステイシスは言う。
「そのお前っていうのやめてくれるぅ?」
「……じゃあなんて呼べばいい? ステイシス……だと都合が悪いだろ」
「だからぁ、アルマって……」
「それは……あまり言いたくないな。アルマは兵器の意を持つ言葉なんだ」
「知ってるわよぉ」
“アルマ”は本来ドミネーター因子を保有する生物兵器全てに与えられるはずだったものだ。しかし、因子融合体初の成功例であるステイシス以降、ドミネーター因子を有する生物兵器の成功例はない。
故に、アルマは現在もステイシスだけの名であり、唯一の存在ということを誇示する名であり続けている。
己の存在を己の意思で確信するために、このアルマという名がどのような意味であろうと引っ提げているようだ。
「生物兵器か……」
「?」
首を傾げて疑問符を頭に浮かべているようなステイシスに対し、雛樹は悩む。確かに彼女は人に使われる自立生物兵器なのかもしれないが……。
海上都市へ来る前、ステイシスはあの黒い機体に乗って、独断で自分に会いにきたという。
「ガーネット。ガーネットと呼ぶことにしよう、な」
「ええ、な、じゃないわよぉ。何勝手に名前変えてるのぉ?」
「その綺麗な赤い目が、紅榴石のようだから……じゃダメか?」
「むぅ……。なにそれ……」
「実物は、金が入れば見せてやるよ」
「……がーねっと。ふぅん、まあ。悪くないわぁ」
この世界を普通に過ごすための名として、雛樹はその名を選んだ。それは、あまりに美しい紅の両瞳を指してそう名付けたのだ。それ以外に意味はない。
だが、皮肉にも……ガーネットという石は伝承にあるノアの方舟、その照明として扱われていたという。
「ふん……これから精々楽しませて頂戴、人間」
「楽しむかどうかは置いといて、まぁ、与えられた任務はこなすさ」
モニターの向こうが何やら騒がしくなってきた。高部総一郎は企業連幹部であり、まだまだ先日のドミネーター襲撃事件についての後始末が終わっていないために立て込んではいるのだろうが……。
《すまない、ここまでのようだ。ある程度のステイシスのデータをそちらに送っておいた。生活を共にする際の参考程度に使って欲しい》
「わかりました」
別れの言葉もなく、高部総一郎は一方的に通信を切ってしまった。消え去ったホログラムモニターの前で、雛樹はしばらく立ち尽くしていた。
方舟を守る最高戦力といえば聞こえはいいが、極めて殺傷能力の高い……しかも意思をもつ生物兵器と生活を共にするなど正気の沙汰ではない。
こんなもの、常に引き金に指がかかった銃を向けられて生活するも同じことだ。まだステイシスという少女の事をよく知らない現状ではなおさら。
「なぁに?」
「いや……。お前はどう思ってるのかと思って」
「別に、外には出てみたかったしぃ。まあ、私に触れる男が……必ず私に優しいってわけでもないのはぁ、考えてみれば当たり前のことよねぇ」
今まで散々怖がられてきたのに、それは都合が良すぎるかしらぁ……と。ステイシスは呟いた。雛樹はそれを聞いていたが返す言葉が見つからない。しばらく黙った後、自分もソファーに座り右手をさりげなく差し出した。
「なによぅ」
「一応、この家はお前のものなんだ。そこに住まわせてもらうのは、高部さんの温情だしな……。できる限り、自分の出来る範囲で面倒を見るよ」
ステイシスは差し出された雛樹の右手を、だぼだぼの袖を振って払う。随分と自分のことが気に入らないようなのだが……。ふいと顔を逸らして、ステイシスは言う。
「そのお前っていうのやめてくれるぅ?」
「……じゃあなんて呼べばいい? ステイシス……だと都合が悪いだろ」
「だからぁ、アルマって……」
「それは……あまり言いたくないな。アルマは兵器の意を持つ言葉なんだ」
「知ってるわよぉ」
“アルマ”は本来ドミネーター因子を保有する生物兵器全てに与えられるはずだったものだ。しかし、因子融合体初の成功例であるステイシス以降、ドミネーター因子を有する生物兵器の成功例はない。
故に、アルマは現在もステイシスだけの名であり、唯一の存在ということを誇示する名であり続けている。
己の存在を己の意思で確信するために、このアルマという名がどのような意味であろうと引っ提げているようだ。
「生物兵器か……」
「?」
首を傾げて疑問符を頭に浮かべているようなステイシスに対し、雛樹は悩む。確かに彼女は人に使われる自立生物兵器なのかもしれないが……。
海上都市へ来る前、ステイシスはあの黒い機体に乗って、独断で自分に会いにきたという。
「ガーネット。ガーネットと呼ぶことにしよう、な」
「ええ、な、じゃないわよぉ。何勝手に名前変えてるのぉ?」
「その綺麗な赤い目が、紅榴石のようだから……じゃダメか?」
「むぅ……。なにそれ……」
「実物は、金が入れば見せてやるよ」
「……がーねっと。ふぅん、まあ。悪くないわぁ」
この世界を普通に過ごすための名として、雛樹はその名を選んだ。それは、あまりに美しい紅の両瞳を指してそう名付けたのだ。それ以外に意味はない。
だが、皮肉にも……ガーネットという石は伝承にあるノアの方舟、その照明として扱われていたという。
「ふん……これから精々楽しませて頂戴、人間」
「楽しむかどうかは置いといて、まぁ、与えられた任務はこなすさ」
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