ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら

稲荷一等兵

第1節9部ー争いの火種ー

「いや、緊急を要する要件ではない。軍曹もその体たらくだ。私が動いたほうが早いだろう」
「おっさん、このクソギプス取る許可をくれ。そこのにやけ面二つぶっ飛ばしてェ」

 珍しく身動きできないRBがよほど面白いのか、からかい甲斐があるのか、アレクサと伊庭はどうもそのにやけっつらを隠すつもりがないらしい。それが鼻に付くのか、RBは口調を荒くしていたが。

「軍曹。パレード中、何者からか狙撃を受けたと報告していたな?」
「んァ……ああ、やたら腕のいい奴だったぜ。対装甲ライフル弾で人のどタマァ狙って来やがる手癖の悪さを除けばな」
「対装甲ライフルの予測狙撃を見切って受け切るやつが人だって? 冗談きついぜ」

 そう言って茶化した伊庭だったが、アレクサに頭を小突かれて謝罪した。RBにではなく、天城中佐にだが。気にしなくていいという風に右手を小さく上げた。それを見て肩を竦めるRBは……。

「それがどうしたんだよ」
「海中に没した潜水艦から見つかった、奪取された正規軍二脚機甲の解析結果が出てな。破壊された装甲の一部に残ったライフル弾の弾痕が、軍曹のトリガーブレードに残った弾痕と一致したのだ」
「敵潜水艦へ接近したのは、その奪取された正規軍機とセンチュリオンテクノロジーのウィンバック二機。そのあとは応援部隊を乗せた企業連のヘリ……。厳戒態勢が敷かれている中、最後まで狙撃支援していたそいつが都市から出たとは考えにくい……まだこの都市に残っていると?」
「可能性としては大いにあり得る。すでに企業連が部隊を動かしていた。災厄の根は断たねばならん。我々も部隊を派遣することになるだろう」

 その天城中佐の言葉に、伊庭とアレクサは身構えるが……RBは。

「んなことより、捕らえた蒸気顏スチームフェイスはどうなったよ。組織の人間ならそいつから情報を引き出せばいいんじゃねェのか」
「本土政府軍、飛燕のことか。いや……奴からは有益な情報は引き出せていない。唯一分かったのは、この都市側に襲撃の手引きをした人間がいるということだけでな……」
「ハン、何やってんだ企業連の連中はよ。脳みそでもなんでも解析しちまえば一発だろうが」
「その解析ができないよう、脳に細工されてあったのだ。それも、方舟こちら側の技術を使用されてな。相手は方舟の技術情報を知った上で今回の騒ぎを起こしている。内通者がいる可能性が大いに出てきた」

 不穏な可能性を多く提示されてしまった方舟側は、水面下で混乱しつつあった。まだ表沙汰にはなっていないが、今回の事件の続きが起きるかもしれないという、いうならば爆弾を抱えてしまっているのだ。

「でもどっちみち、企業連から部隊派遣の任務を発注されるだろうね」

 アレクサは心底めんどくさいという表情を見せながら、飲料水が入ったグラスを傾けた。企業連傘下であるGNCは、様々な融資や特権を受ける代わりに、もちろんのことながら企業連の頼みごとには首を縦にしか振ることができない。

「これから忙しくなるだろうが、よろしく頼む」
「了解です、中佐」
「了解、天城中佐」
「あいよ」
「てめーは先に怪我治せや、RB」

 そのぶっきらぼうな物言いをする伊庭へまた口汚く言い返すRB。いつもはRBが茶化す立場が完全に逆転してしまっている現状を、アレクサは楽しみながら、天城は半ば呆れ気味に傍観していた。

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