ノアの弱小PMC—アナログ元少年兵がハイテク都市の最凶生体兵器少女と働いたら
第2節ー最高戦力と兵士ー
  その頃、名目上ではステイシスが所有する家の間取りや設備などをくまなく歩いて確認していた雛樹。
家は随分と木材が使われている……ように見えて、要塞のような作りをしている。
外壁、内壁は太く丈夫な木が組まれていて外見はコテージのような趣を持っているが……其の実、木壁に挟まれるようにして分厚い装甲壁が存在しており、外部、内部共に衝撃を通さないような作りになっているようだ。
すべての窓ガラスは特殊強化ガラス。小銃弾、小型粒子性兵器などでは貫通できないようになっている。
そんな物々しい素材を使っているにもかかわらず、この落ち着く空間を演出できているのは、なるほど、娘を思う親の心というやつかと雛樹は一人納得していた。
大きな檜風呂は屋根を開くことで露天風呂にもなり、吹き抜けの上にある寝室には大きなベッドが二つと、和紙を使った間接照明が癒しの空間を演出。
キッチンは随分と最新の設備らしく、本土にいた雛樹にはさっぱり使い方がわからないものばかりだった。
随分と歩き回っていたが、違和感が一つ。
「……なにか不安だったりするのか?」
「ふあ。な、なによう」
ステイシスが、自分のジャケットの裾を袖に覆われた小さな手でつかんでぴったりと後ろをついてきていたのだ。
「あんたがアルマを一人にするからでしょおっ。デトを連れずにこんなに長いことお外に出たのなんて初めてなのよぅ……」
「あ……そうなの。悪かったな。でも、じゃあどうやってここまで来たんだ?」
「眠ってたらいつの間にかここにいたのよぅ」
「俺が来るまで一人でお留守番してたんだろ?」
雛樹がそのことについて言及を続けると、裾を持った方とは逆の方の袖を軽くふりふりと上下させ、少し頰を赤くしながらガーネットは言った。
「おふとん……って、言うんだっけぇ? あのふかふかにくるまって隠れてたわぁ」
「わぁお。意外と小心者なん」
「おりゃあ」
右頬に凄まじい衝撃と、鼓膜を爆ぜさせるような破裂音。声を発する間も無く、思いっきり側面にすっ飛び床を転がった。
振っていた方の袖を雛樹の頰めがけて振り抜いた、人外の威力を持つビンタだった。
「……!? ……! ……ッ!?」
「アルマの弱みに付け込んで悪口を言いたいのぉ? そうなんでしょお? ねーぇ」
仰向けの状態から、上半身を起こした雛樹だったが……開いた足の間にステイシスの膝を入れられ、ぐっと顔を近づけられたために起き上がれなかった。
視界の端には、またふりかぶられているステイシスの右袖がふりふりしている。これを放たれると下手すれば首がもげると直感した雛樹は、両手を自分の顔とガーネットの顔の間に割り込ませて壁を作った。
「待て待て待て、お前がまず知らないといけないのは社交辞令だッ! 冗談で首もがれてたまるか、おい!」
「アルマ、馬鹿にされるのとってもキライなのぉ」
「馬鹿にしてない! いいか、いや、まあ確かに悪意はあったかもしれなぉうわッ!!」
再びステイシスの袖が振り抜かれた。間一髪、上体を思いっきり逸らすことで回避したが、通り過ぎる際の風切り音が異常なまでに研ぎ澄まされていた。
風圧で押されて後頭部を床に打ち付けたほどの威力。
「待てったら!」
「んん……」
ステイシスの腕を掴み、制止しつつも雛樹は言う。
「これから面倒を見るとは言ったが、別に俺はお前に都合のいい人間であり続けるつもりなんてないぞ……!」
「なによぅそれぇ」
「俺がお前に対して、気になったところは口にしていく。それは、人の生活を教えてくれと言われたからだ。お前が人の生活を送るのに必要な最低限の作法と常識は教えないとダメなんだよ。外に出たかったんだろ、ガーネット」
「……そうだけどぉ?」
「じゃあ無闇に人を傷つけちゃダメだ。自分から人を遠ざけることになるからな。ただ、お前も俺に対して嫌だったり気になったりするところは言ってくれていいんだ。言葉に対してすぐに手が出るようじゃやっていけないからな」
「ふぅん……じゃあ言葉で返せばいいのねぇ?」
「ああ、そうだ……」
無理くり言った言葉だったが、なんとか伝わってくれたようだ。だぼだぼの袖をしばらく口元に軽く当ててなにか考えるような仕草を見せた後、ぎぃっと口元を釣り上げて言う。
「アルマは小心者じゃないわよぉ、このクサレドーテーヤロー」
「と、箱詰め娘に言われてもな」
「くぁあああ! 捥いでやるぅ!」
「やめろォ!」
どこぞを捥ごうとしてくるステイシスを無理やり引き離し、なるべく距離をとって話し合った結果……ステイシスの腹がくぅと鳴った。
つまるところ、彼女は腹が減って気が立っていたのだ。
家は随分と木材が使われている……ように見えて、要塞のような作りをしている。
外壁、内壁は太く丈夫な木が組まれていて外見はコテージのような趣を持っているが……其の実、木壁に挟まれるようにして分厚い装甲壁が存在しており、外部、内部共に衝撃を通さないような作りになっているようだ。
すべての窓ガラスは特殊強化ガラス。小銃弾、小型粒子性兵器などでは貫通できないようになっている。
そんな物々しい素材を使っているにもかかわらず、この落ち着く空間を演出できているのは、なるほど、娘を思う親の心というやつかと雛樹は一人納得していた。
大きな檜風呂は屋根を開くことで露天風呂にもなり、吹き抜けの上にある寝室には大きなベッドが二つと、和紙を使った間接照明が癒しの空間を演出。
キッチンは随分と最新の設備らしく、本土にいた雛樹にはさっぱり使い方がわからないものばかりだった。
随分と歩き回っていたが、違和感が一つ。
「……なにか不安だったりするのか?」
「ふあ。な、なによう」
ステイシスが、自分のジャケットの裾を袖に覆われた小さな手でつかんでぴったりと後ろをついてきていたのだ。
「あんたがアルマを一人にするからでしょおっ。デトを連れずにこんなに長いことお外に出たのなんて初めてなのよぅ……」
「あ……そうなの。悪かったな。でも、じゃあどうやってここまで来たんだ?」
「眠ってたらいつの間にかここにいたのよぅ」
「俺が来るまで一人でお留守番してたんだろ?」
雛樹がそのことについて言及を続けると、裾を持った方とは逆の方の袖を軽くふりふりと上下させ、少し頰を赤くしながらガーネットは言った。
「おふとん……って、言うんだっけぇ? あのふかふかにくるまって隠れてたわぁ」
「わぁお。意外と小心者なん」
「おりゃあ」
右頬に凄まじい衝撃と、鼓膜を爆ぜさせるような破裂音。声を発する間も無く、思いっきり側面にすっ飛び床を転がった。
振っていた方の袖を雛樹の頰めがけて振り抜いた、人外の威力を持つビンタだった。
「……!? ……! ……ッ!?」
「アルマの弱みに付け込んで悪口を言いたいのぉ? そうなんでしょお? ねーぇ」
仰向けの状態から、上半身を起こした雛樹だったが……開いた足の間にステイシスの膝を入れられ、ぐっと顔を近づけられたために起き上がれなかった。
視界の端には、またふりかぶられているステイシスの右袖がふりふりしている。これを放たれると下手すれば首がもげると直感した雛樹は、両手を自分の顔とガーネットの顔の間に割り込ませて壁を作った。
「待て待て待て、お前がまず知らないといけないのは社交辞令だッ! 冗談で首もがれてたまるか、おい!」
「アルマ、馬鹿にされるのとってもキライなのぉ」
「馬鹿にしてない! いいか、いや、まあ確かに悪意はあったかもしれなぉうわッ!!」
再びステイシスの袖が振り抜かれた。間一髪、上体を思いっきり逸らすことで回避したが、通り過ぎる際の風切り音が異常なまでに研ぎ澄まされていた。
風圧で押されて後頭部を床に打ち付けたほどの威力。
「待てったら!」
「んん……」
ステイシスの腕を掴み、制止しつつも雛樹は言う。
「これから面倒を見るとは言ったが、別に俺はお前に都合のいい人間であり続けるつもりなんてないぞ……!」
「なによぅそれぇ」
「俺がお前に対して、気になったところは口にしていく。それは、人の生活を教えてくれと言われたからだ。お前が人の生活を送るのに必要な最低限の作法と常識は教えないとダメなんだよ。外に出たかったんだろ、ガーネット」
「……そうだけどぉ?」
「じゃあ無闇に人を傷つけちゃダメだ。自分から人を遠ざけることになるからな。ただ、お前も俺に対して嫌だったり気になったりするところは言ってくれていいんだ。言葉に対してすぐに手が出るようじゃやっていけないからな」
「ふぅん……じゃあ言葉で返せばいいのねぇ?」
「ああ、そうだ……」
無理くり言った言葉だったが、なんとか伝わってくれたようだ。だぼだぼの袖をしばらく口元に軽く当ててなにか考えるような仕草を見せた後、ぎぃっと口元を釣り上げて言う。
「アルマは小心者じゃないわよぉ、このクサレドーテーヤロー」
「と、箱詰め娘に言われてもな」
「くぁあああ! 捥いでやるぅ!」
「やめろォ!」
どこぞを捥ごうとしてくるステイシスを無理やり引き離し、なるべく距離をとって話し合った結果……ステイシスの腹がくぅと鳴った。
つまるところ、彼女は腹が減って気が立っていたのだ。
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