柊木さんと魑魅魍魎の謎
第七話
「な、夏乃さん!」
「ということは、まさか……子孫を残すために、彼女を攫ったというのか。あんたは!」
「何を言うか。私は攫っていない。急進派の人間が、そうしていると言ったはずだ。私はあくまでもそれには反対している立場だ。この島にかけられた呪いは内部の人間だけで終息させねばならない、と」
「……その言葉、ほんとうだな?」
「ああ、ほんとうだ」
それを聞いて、夏乃さんはようやく村長から手を離した。
「だから、急いでこの島を出るんだ。急進派はどこに潜んでいるか解ったものではない。私は私で、けじめをつけねばならないだろう」
「……何をするつもりだ?」
村長はズボンのポケットから何かを取り出した。
それはスイッチのようだった。
「まさか、」
「爆弾だ。これを押せば、山にあるダイナマイトが爆発する。そうして、この島もろとも火が包み込むだろう。……この扉の向かいの通路を歩けば、クルーザーがある。そのクルーザーを使ってこの島から逃げるといい」
「……あんたは、それでいいのか」
夏乃さんは村長に問いかける。
「ああ、構わないよ」
村長は即答だった。
「この島に残る悪しき呪い、それをこの代で絶つ。もともと私はそうしたいと考えていたんだ。しかし、中には竜神の呪いを永遠に続けねばならない、竜神を崇め続けねばならないと考える人間も居る。そういう連中は、どんな手段を取ってでもこの島の呪いを存続させることだろう。それだけは決してあってはならない。この代で終わらせる必要がある。さあ、行くんだ!」
夏乃さんは頷くと、踵を返し部屋を出ていく。
「少年、椎名秋穗。急いで外へ向かうぞ。あのクルーザーに乗るんだ!」
僕は、少しそれを理解することに時間がかかったけれど、夏乃さんについていかなければこの島から生きて逃げ出ることは出来ない。そう思って、夏乃さんの後を追いかけた。部屋には、村長が椅子に腰かけてただ俯く姿だけが残されるのだった。
◇◇◇
クルーザーはすぐに見つけられた。
しかし、問題が一つ。
「夏乃さん、クルーザーは運転できるんですか?」
夏乃さんがすぐに運転席に搭乗する。
「免許は持っているから安心しろ。こんな時のために財布に入れておいてよかった。いいか、つかまっていろよ!」
そう言って、夏乃さんはエンジンをかける。
そしてクルーザーはゆっくりと港を後にするのだった。
ズズン、と低い爆破音が響いたのは、僕たちを乗せたクルーザーが沓掛島を後にして五分ほど経過したときだった。
村長が言った通り、沓掛島の緑生い茂る山々から火が上がっている。恐らく、あのまま山全体が燃え広がってしまうのだろう。それこそ、村長が望んだとおりのシナリオと言ってもいい。
「……結局、その呪いとやらがほんとうかどうかは解らなかったから、何とも言えないが……、もしあの話がほんとうだったら浦島太郎の物語ががらっと変わってしまうことになるだろうな。あれだ。『本当は怖い日本童話』に掲載されていたかもしれないぞ。それこそ、インターネットの掲示板というアンダーグラウンドに」
アンダーグラウンド。
確かに、そういう裏がある話はそのようなきな臭い場所が一番好みそうな話題だ。
まあ、沓掛島がああなってしまった以上、その情報が外に出ることは無いのだろうけれど。
「……それにしても、悲しい物語だったよ。まったく」
夏乃さんはそう言って、締めくくった。
クルーザーのエンジン、その駆動音だけが僕たちの空間を支配していった。
それだけが、聞こえる。
遠ざかっていく、燃えていく沓掛島を、僕はただ見つめることしか出来なかった。
「ということは、まさか……子孫を残すために、彼女を攫ったというのか。あんたは!」
「何を言うか。私は攫っていない。急進派の人間が、そうしていると言ったはずだ。私はあくまでもそれには反対している立場だ。この島にかけられた呪いは内部の人間だけで終息させねばならない、と」
「……その言葉、ほんとうだな?」
「ああ、ほんとうだ」
それを聞いて、夏乃さんはようやく村長から手を離した。
「だから、急いでこの島を出るんだ。急進派はどこに潜んでいるか解ったものではない。私は私で、けじめをつけねばならないだろう」
「……何をするつもりだ?」
村長はズボンのポケットから何かを取り出した。
それはスイッチのようだった。
「まさか、」
「爆弾だ。これを押せば、山にあるダイナマイトが爆発する。そうして、この島もろとも火が包み込むだろう。……この扉の向かいの通路を歩けば、クルーザーがある。そのクルーザーを使ってこの島から逃げるといい」
「……あんたは、それでいいのか」
夏乃さんは村長に問いかける。
「ああ、構わないよ」
村長は即答だった。
「この島に残る悪しき呪い、それをこの代で絶つ。もともと私はそうしたいと考えていたんだ。しかし、中には竜神の呪いを永遠に続けねばならない、竜神を崇め続けねばならないと考える人間も居る。そういう連中は、どんな手段を取ってでもこの島の呪いを存続させることだろう。それだけは決してあってはならない。この代で終わらせる必要がある。さあ、行くんだ!」
夏乃さんは頷くと、踵を返し部屋を出ていく。
「少年、椎名秋穗。急いで外へ向かうぞ。あのクルーザーに乗るんだ!」
僕は、少しそれを理解することに時間がかかったけれど、夏乃さんについていかなければこの島から生きて逃げ出ることは出来ない。そう思って、夏乃さんの後を追いかけた。部屋には、村長が椅子に腰かけてただ俯く姿だけが残されるのだった。
◇◇◇
クルーザーはすぐに見つけられた。
しかし、問題が一つ。
「夏乃さん、クルーザーは運転できるんですか?」
夏乃さんがすぐに運転席に搭乗する。
「免許は持っているから安心しろ。こんな時のために財布に入れておいてよかった。いいか、つかまっていろよ!」
そう言って、夏乃さんはエンジンをかける。
そしてクルーザーはゆっくりと港を後にするのだった。
ズズン、と低い爆破音が響いたのは、僕たちを乗せたクルーザーが沓掛島を後にして五分ほど経過したときだった。
村長が言った通り、沓掛島の緑生い茂る山々から火が上がっている。恐らく、あのまま山全体が燃え広がってしまうのだろう。それこそ、村長が望んだとおりのシナリオと言ってもいい。
「……結局、その呪いとやらがほんとうかどうかは解らなかったから、何とも言えないが……、もしあの話がほんとうだったら浦島太郎の物語ががらっと変わってしまうことになるだろうな。あれだ。『本当は怖い日本童話』に掲載されていたかもしれないぞ。それこそ、インターネットの掲示板というアンダーグラウンドに」
アンダーグラウンド。
確かに、そういう裏がある話はそのようなきな臭い場所が一番好みそうな話題だ。
まあ、沓掛島がああなってしまった以上、その情報が外に出ることは無いのだろうけれど。
「……それにしても、悲しい物語だったよ。まったく」
夏乃さんはそう言って、締めくくった。
クルーザーのエンジン、その駆動音だけが僕たちの空間を支配していった。
それだけが、聞こえる。
遠ざかっていく、燃えていく沓掛島を、僕はただ見つめることしか出来なかった。
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