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海沼偲

『エリーゼの興国』 その3

「案外あっけなかったな」
「そうだね……」
「どうやって長に上り詰めようか考えてたんだけどな」
「そうだね……」
「エリーゼ大丈夫か?」
「そうだね……」

 オオカミはそこまで話して諦めました。
 あの後、エリーゼはあれよあれよという間に集落の長へと跡を継いだのです。しかし、エリーゼはそのあまりの突拍子のなさに惚けたまま今の時間まで過ごしていたのです。
 オオカミはエリーゼが復活することを祈りながらひたすら話しかけていましたが、エリーゼが復活する兆しが見られなかったため、諦めてしまったのです。

「……あ、今は?」

 エリーゼはようやく正気を取り戻しました。

「ようやく戻ったか」

 オオカミも疲れたような顔でエリーゼのことを見つめました。

「オオカミさん、わたし……」
「そうだ、お前は長になった」

 エリーゼは何かを確かめるように自分の手のひらを見つめます。そして、ただ握ったり閉じたりを繰り返しました。すると、段々と、エリーゼの顔に笑みが浮かんでいきます。そして、ある一定のラインを超えると、それは人に見せられないにやけた顔へと変わっていきました。これを直視できるのは世界広しといえどもオオカミだけでしょう。

「そうか……わたしが長か……」
「そうだな」
「オオカミさん!」

 エリーゼは突然オオカミの方へと振り返りました。それにはさすがのオオカミも驚き、少し後ずさってしまいます。

「ど、どうした?」
「オオカミさん! やっと夢に一歩近づいたよ! もう少しでオオカミさんも人間に戻れるんだよ! やったあ!」

 エリーゼは喜びのあまりオオカミに抱きつこうとしました。しかし、何を思ったのかエリーゼはその途中で立ち止まり、椅子に座りなおしました。

「どうした?」
「え、う、ううん!」

 エリーゼは何でもないかのように首を横に振ります。その振っている顔はリンゴのように真っ赤っかでした。
 オオカミはエリーゼの奇行に少し疑問を覚えましたが、何か自分の中で納得をさせて何事もなかったかのように振る舞いました。

「さて、ここからが本番だぞ」
「うん、わかっているよ。ここから集落をより良いものにしていってオオカミさんを人間に戻すんだもんね」
「そうだ」

 エリーゼの瞳には決意が宿っていました。さきほどまでの、お茶らけた雰囲気がどこかへと飛んで行ってしまったようです。

「さて、これからの行動の計画を説明しよう」
「お願い」

 エリーゼの言葉には真剣な思いがこもっていました。それを聞いたオオカミは嬉しそうに笑いました。

「まずは――」

 エリーゼの治世は順調そのものでした。
 エリーゼは積極的に人々の意見を取り入れ、それをオオカミさんと相談しながら集落へと還元していったのです。
 そのため、エリーゼの治める集落はこのあたりの集落の中で、最も素晴らしい種楽であると人々の噂になるようになりました。

「オオカミさん! 今日もこの集落に入りたいって人が来ているよ!」
「ふむ、さっそく審査をしてもらうよう言ってくれ」
「わかった!」

 エリーゼはバタバタと廊下を走っていきました。それをぼんやりと聞きながらオオカミはこれからのことを想像していました。
 これから、エリーゼがよき政治を行い続けていれば、いづれは自分は元の人間の姿に戻れるだろう。その時、エリーゼと今まで通りに自分と付き合ってくれるのだろうか。それが、オオカミには心配でした。
 オオカミの心の片隅には、このままずっとオオカミのままでもいいんじゃないだろうかという思いも湧き出てきていたのです。

「今日もお疲れ様、オオカミさん」
「ああ、お疲れエリーゼ」

 二人はお互いをねぎらいました。

「もうすぐ、なのかな」

 エリーゼはオオカミのことを見つめながら言いました。

「どうだろうな」

 オオカミは夕日を見つめながら呟きました。

「オオカミさん」
「なんだ?」
「……どこか行ったりしないよね?」
「行かないさ」

 しかし、その言葉にはいつもの力強さはありませんでした。

「ほんと?」
「本当だ」
「信じるよ」
「信じろ」
「絶対だからね」
「絶対だ」

 オオカミはエリーゼを安心させるためにニッと笑いました。

「大変だ! 族長!」

 と、一人の男が部屋に入ってきました。

「ど、どうしたの!」

 エリーゼの問いに男は震える口を無理やり動かしました。

「ば、蛮族が侵攻して来たんだ!」

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