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海沼偲

『エリーゼの興国』 その2


「でも、どうやって集落の長になればいいの?」

 エリーゼはそこまで頭が回っていませんでした。

「そうだな……」

 オオカミは唸るように考え込みました。エリーゼはその横顔をニコニコと見つめます。

「エリーゼも何か考えたらどうだ?」
「うーん。……オオカミさんの方が頭がいいから、わたしはオオカミさんに任せるよ! 頼んだよ!」
「はあ……」

 オオカミは呆れたように溜息を吐きました。
 しばらくオオカミは考えていると、何かを思いついたのかがばっと顔を上げました。その行動に疑問を持ったエリーゼはじっとオオカミの顔を見つめました。

「どうしたの?」

 見ているだけでは飽き足らず、質問までしました。

「いや、エリーゼを集落の長にする方法を思いついた」
「どうするの!」

 エリーゼは興味津々とばかりにオオカミに近寄りました。

「それはな……」
「それは……?」

 オオカミは溜めます。エリーゼはじれったそうにオオカミの体をゆすっています。しかし、オオカミは仕返しとばかりに口を開きません。

「むー。さっき一緒に考えなかったのは謝るよ」

 エリーゼの方が先に折れました。オオカミはとても満足そうにしています。

「そうか、ならば話してやろう」
「お願い」
「エリーゼが集落の長になる方法。それは……集落に住んでいる人の手助けをすることだ」
「……?」

 エリーゼにはいまいちピンときていないようでした。

「いいか、エリーゼは自分のことを助けてくれる人がいたらどう思う?」
「ありがとうって思う」
「他には?」
「恩返ししたいなって思う」
「そう、それだ。そうやって人々に恩を売り続けてそれが最大限にたまった時、やつらは思うのさ。『彼女に恩返しがしたい』とな。その時にお願い事をすれば、すんなりということを聞いてくれる可能性が高い。そこを利用するんだ」
「えー、なんか嫌だなあ。利用しているみたいで」

 エリーゼはあまり納得できていないようでした。

「よく考えろ。手助けするときにまでわざわざ恩を売ったと思いながらしなきゃいい。地道に純粋な善意で手助けをして、最後の最後にその恩を使えばいいだけだ。別に打算的に動けとは言わん。そもそも、打算的に動くのは俺だけだ。エリーゼはのんきに困っている人を助ければいいのさ」
「そうなの?」
「そうだ」
「……ならやる。オオカミさんとも約束したしね」

 エリーゼは納得してオオカミの計画を実行することを決めました。
 それからというもの、エリーゼはオオカミの助言に従い困っている人の手助けをしていました。
 オオカミは昔に悪政をしいていたといっていましたが、オオカミの助言はとても優れており、エリーゼのおかげで何人もの人が救われたような思いをしました。
 今日もエリーゼは楽しそうに集落の中を歩いていました。

「おはようエリーゼ!」
「おはようございます!」
「エリーゼさんおはようございます!」
「おはよう、おばあちゃん!」

 集落には今までにはなかった活気というものが生まれていました。それは、エリーゼが困っている人を助けるようになってから、人々に余裕が生まれたことによって生まれたことでした。
 エリーゼは自分の手によって、このような状況に変えることが出来てとても誇らしく感じていました。それと同時に、自分にたくさんの助言をしてくれたオオカミにも数えきれない感謝の念を送っていました。

「なかなか順調だな」

 森の中で、オオカミが噛みしめるように言いました。

「そうだね、オオカミさんのおかげだよ! ありがとう」

 エリーゼはオオカミに感謝の言葉を述べました。それを聞いたオオカミは恥ずかしそうに頭を掻きました。

「そ、そうか……? そうでもないんじゃ、ないかな?」

 必死に否定をしようとしているようですが、こみ上げてくる嬉しさを抑えられないようです。

「もうそろそろ動こうかね」
「とうとう、わたしが長になるの?」
「なるだろうな」

 一人と一匹は静かに集落の方へと視線を向けました。

「き、緊張してきちゃったよ」
「気にするな」
「な、なんてお願いしたらいいの? どうすれば集落の長になれるの?」
「今しっかりと考えているから安心しろ」
「う、うん」

 エリーゼは不安から逃れようとオオカミに抱きつきました。

「離れろ。戻るぞ」
「う、うん」

 エリーゼたちが、集落へと戻ると、そこにはたくさんの人々がエリーゼたちを待っていました。

「あれ? 皆どうしたの?」

 エリーゼは疑問を浮かべます。

「ああ、エリーゼに一つ言いたいことがあってな」
「なに?」

 と、人垣の中から一人の男が現れました。

「族長」

 それは集落の長をしている男でした。エリーゼはその時、悪いことをしてしまったのかと不安に駆られてしまいました。

「エリーゼ、君にこの集落の長をしてもらいたい」

 しかし、長から放たれた言葉は全く別の物でした。

「…………。……え?」

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