FANTASY WAR ONLINE

海沼偲

第十二話

 朝。これは現実世界の朝である。あの後ログアウトをして就寝準備を終えて、そのまま就寝。朝になったわけだ。朝食を食べて、日課の稽古を行うとログインできる。では、ログイン。
 もう一度ベッドから起き上がる。さっき起きたのに、もう一度起き上がるという謎行動だな。

《メッセージが一件届いています》

 誰から? 運営?
 どうやら違うようだ。メルからだった。メル? メルもメッセージ送れるんだ。
 内容は? 作っていたアクセサリーが完成したということだそうで。SSもついている。新しく完成したブレスレットを見せつけるようにして腕を掲げている。とても幸せそうな笑顔である。では、交信でもするかね。起きているといいのだが。

『メル、おはよう』
『スバル、おはよう』

 おや、今日は落ち着いた様子である。好き好きオーラが溢れ出ていない。一日連絡できなかったから、もっとテンションが高いかと思っていたが、こう落ち着いているのもいいものである。初対面の時のような凛とした雰囲気が声から伝わってくる。

『見たよ、ブレスレット』
『ほんと? どうだった?』
『うん、メルの落ち着いた雰囲気とマッチしていてとても似合っていたよ』
『ありがと、スバル。今日も一日頑張れるわ』
『お互いに頑張ろうな、メル』
『ええ、そうね。愛してるわ、スバル』
『俺もだよメル』

 ここで交信は切れる。時間制限があるのだ。長々と話すことは出来ない。さて、師匠はどこにいるのかね?

「おう、起きたの」

 師匠は椅子に座って本を読んでいた。師匠は俺と会うのが一日ぶりなのだ。しかし、こればっかりは仕方ない。

「食事は?」
「もう食べたの。お前はまだ食べておらんのか?」

 空腹は? 感じない。なら食べる必要はないだろう。

「問題ないです」
「よろしい。なら、先に修行でもしておるかの」

 師匠はすぐに外に出ていく。俺も後をついて外に出ていく。今日中には魔力感知を習得して見せる。出来るか出来ないかではない。やるのだ。
 外に出ると、もう何人かは修行を開始していたようだ。祖父ちゃんと祖母ちゃんとマナトである。座禅を組んでいる姿はいつもの風景である。しかしやっている内容は違う。俺もすぐさま開始するとしよう。

「ふむ、なかなかやるのう」
「ありがとうございます」

 成果は? なかなかいい。魔力を感じ続けるだけならば完全に会得したといえるだろう。今も師匠に話しかけられるまで魔力感知は発動し続けていたのだ。俺の体内の魔力しか感知は出来ないけどな。そこから先はさらなる修業が必要なのです。こればっかりは仕方がないのだ。

「次は他の作業をしながらでも魔力を感じ続けられるようにすることじゃな。わしが精霊語を教えるから、精霊語を覚えるついでに魔力を感じられるようになりなさい」

 ん? ちょっと難題? しかし、これが出来なければ魔力感知は習得できないのだ。やるしかない。

「わかりました」
「よし、では軽い本でも探してくるかの」

 師匠は家の中へと入っていく。俺は? 今のうちに魔力がどういうものだったか反芻しておくべきだろう。集中して魔力を感じ続けておく。

「ほれやるぞ」
「はい」

 少ししかできなかったが、魔力がどういったものか体は覚えてくれている。そう信じよう。

「いてっ」
「何ぼーっとしておる」
「すみません」

 魔力は? 感知できない。感知しようと集中すると、師匠の杖が飛んでくる。言語習得に集中したら? それは飛んでこない。片手間に魔力感知が出来るようになる修行だからだ。片手間にどうやって感知するんですかね。

「焦らなくても、魔力は逃げんよ」
「でも見えなくなります」
「そりゃお主が、探そうとするからじゃな。奥手な女を口説くようにするとよいぞ」
「なるほど」
「いや、何言っているかわからないからね、それ」

 ユウトは俺が納得しかけようとすると口を挟む。
 しかし、師匠。その言い方だと、さぞかしモテたのでしょう。ジジ臭い口調だが、師匠は三十代の男性に見える。もしかしたら、今もモテるのかも? 何歳なんだろうかね?

「ほれ、続きじゃ続き」
「はい」

 俺の返事を聞くと、師匠は再び精霊語を教え始める。俺はその授業を聞きながら魔力感知も同時進行。逆に考えればいい。二つのスキルが同時に習得できると。

《只今までの行動により【精霊語】を習得しました》

 お、精霊語は習得出来たな。精霊語を習得できたとはいっても、挨拶や道を行くときの定型文、簡単な単語類だけである。日常会話が出来なくもないが、さらに深い話は難しくなるだろう。しかし、言語なんて最初はそんなもんである。後はネイティブの人たちと話しまくるとかが必要だ。
 だが、基本的にどの種族も魔族語で通じる。ではほかの言語を覚える意味は? 田舎の単一種族の農村では、種族語でしか話されていないらしい。その時のために覚えるのである。それに、多言語を話せるとかっこいいじゃん。
では、魔力感知は習得できたか? 出来てないね。

「もうそろそろいい時間じゃろうな。昼じゃ昼」

 師匠はそういって家の中に入っていく。確かに、腹が空いている。休憩時間に入る必要があるだろう。

「オロートスさん、食料の備蓄がもうすぐ底を尽きそうです」

 と、昼食後にみなみ母さんが師匠に告げる。たしかに、逆によく今まで食料が持ったものである。

「ふむ、そうか。では、これを渡すから食料を買ってきてくれんかの」

 師匠が麻袋を取り出し母さんたちに渡す。中身は硬貨のようだ。

「師匠、結構あるのでは? 大丈夫なんですか?」
「わしは魔術の印税が入ってくるからの。金持ちなんじゃよ」

 なるほど。印税生活をしているわけか。だから町から離れた場所に住めるわけだろうしな。

「誰が行くんだい?」
「私たちで行くよ」

 買い出しは? 女性陣全員のようだ。まあ、間違いが起きることはないだろうな。これからも美味しい食事が保証されるわけなのだから。

「なら、儂らは体でも動かして待ってようかの」

 祖父ちゃんは食後の運動をしたいようだ。その視線の先には? 俺たち男性陣の姿が。これは、乱戦組手だろうな。

「なにをするのじゃ?」

 師匠は気になったようだ。

「見ればわかりますよ」

 ユウトが師匠にそう答える。確かに、見ればわかる。でもね、近接職じゃない限り目で追えるのかは怪しい。それほどに厳しい戦いが待ち構えていることだろう。

「では、いってくるわね」

 つきこ母さんが俺たちに向けてそういった後街へと続く道を進んでいく。俺たちはその後姿を見送った後、いつもの修行場所へと場所を移す。

「ルールは?」
「目、金的なし。でどうじゃ?」
「異議なし」

 最初は自分たちの種族の体の動きを慣らす戦いになることだろう。だからこそ、急所攻撃の禁止。じゃあ、それが終わったら? 解禁である。祖父ちゃんが、禁止といったんだ。あえて一番最初に破るだろう。それが本番の開始の合図である。
 楽しみだ。今の俺の獣人としての体を最大限使えるようにする必要がある。出来るか出来ないか? やるのである。今俺にはそれが求められているのだ。それだけじゃなく、魔力も感じられるようにしておこうか? 出来るか? 忘れるだろう。
 祖父ちゃん、父さん、ユウトにマナト。彼らは? 笑っている。楽しそうだ。しかしね、俺も顔も楽しそうに歪んでいる。これから起こることはきっと、地獄の一言で片づけられないだろう。だからこそ、いい。ご先祖様が龍の血を引いているとまで言われた豪傑。その血を引いている俺も同じ場所に立つ必要があるのである。

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