FANTASY WAR ONLINE

海沼偲

第四話


 目を開けると、人、人、人。人でにぎわっていた。
 俺は体を確認すると、人の耳がなくなり、頭頂部に獣耳が生えているのがわかる。背中へ視線を向けると、尻尾が生えている。動かそうと意識してみると、ぎこちないが動く。これはよう練習であるな。練習する必要があるかは謎だが。
 とりあえず交信をどう使えばいいのかわからないので、メニューを開く。すると、メニューのタブの一番下の欄に交信のタブを見つける。で、開くとメルの名前がある。なので、確認の意味を込めてメルに交信を行う。

『メル?』
『スバル!』
『どうしたんだ? そんな大声出して』
『…………』
『メル?』
『……寂しい』
『メル……』
『うん。……今まではそんなことなかったのよ。でも、スバルがいなくなっちゃったら、しばらくは会えなくなっちゃうって……それで』
『メル、俺だって寂しい。でも、メルが跡継ぎを見つけなければずっと会えないんだ』
『うん』
『待ってるからさ』
『うん』
『……メルの方から連絡はとれないの?』
『いいの? わたし、いっぱい連絡してくるよ。迷惑かけちゃうわ。愚痴とかいっぱい話すわよ。それでも嫌いにならない?』
『大丈夫。そんなことで嫌いになったりしないから。安心して』
『わたし、他の人を好きになったのって初めてだから、どうしたらいいのかわからなくて……』
『大丈夫。メルが落ち着くまでいくらでも待つから』

 そのあと、しばらくメルのラブコールに答えて、メルに満足してもらって交信は終わる。
 メルは、人と関わらな過ぎて、人との接し方がちょっと怪しいだけだと思うから、すぐに、こういうのは治まると思うんだよな。だから、それまでしっかりと俺がケアをする必要があると思う。
 メルから聞いた話なのだが、神様に嘘や世辞は通用しないらしいから、メルを口説こうと何人かの男神がメルを口説くためにメルの作品を世辞で褒めていたらしいのだが、嘲笑が見えているために、嫌気がさしていたらしい。だから、俺が本心から自分の作品を気に入ってくれているということですごくうれしかったと言っていた。
 うーむ、飾り気のない素朴な作品ではあるが、俺は好きだけどなあ。メルの作るもの。手料理を振る舞ってもらったけど、家庭の優しい味がして好きだし。
 ……さて、気持ちを切り替えるか。
 メニューのステータスの項目を見る。確認は大事だからな。

ネーム スバル
種族 獣人・狼
LV1
HP 100/100
MP 200/200

STR 11
VIT 10
INT  9
MND 20
AGI 11
DEX  9
LUK 10

種族スキル
【嗅覚強化:lv1】
スキル

EXスキル
【交信】【文武神の祝福】
称号
【女神の恋人】

 なんか知らないスキルがあるんですが。
 このゲームはスキルは自分の行動によって発現するものである。だから、剣を振れば【剣術】のスキルが現れたりということが起きる。で、EXスキルというものはその中でも難易度が極端に高いスキルの集まりだったはずである。開発者がぶっ壊れスキルが満載だと言っていたような気がするんだけど。
 【交信】はわかる。神と対話できるスキルだからな。そりゃEXの名にふさわしいだろう。でもいつ祝福なんてもらったんですかね。たぶんメルがくれたものだと思うんだけど。

【文武神の祝福】
 レベルアップ時に全ステータス+1
 さらに自由に振り分けるポイントに+2
 全てのスキルの成長率が微増

 効果はこれである。強い。ぶっ壊れの名にふさわしいスキルである。
 基本的にレベルアップでステータスは人族だったら自由振り分けのポイントが5ポイントもらえる。魔族だと、固定で割り振られるポイントが2ポイント。それに、自由に振り分けるポイントが3ポイントである。俺はさらにそこから、合計9ポイント人より多く加算されるということである。強すぎる。バランスブレイカー確定である。
 いや、メルと恋人になれたから祝福をもらえたと考えればそうでもない? メルの作品を本心から気に入らないともらえないのなら、取得率は大幅に下がるだろう。
 称号の【女神の恋人】は、神の恋人にふさわしい存在になるという効果である。わかんね。
 よくわからないものもあったが、ステータスは大体把握できたし、次はどうするかね。
 俺が今いる場所は神殿であることがわかる。神職者が所々にいる。そして、俺の隣では定期的に光の粒子が噴出し、そこからプレイヤーと思われる者が現れる。着ているものが俺と同じだからな。上下が、地味目の色をした麻の服だと思う。ごわごわしている。そして、布の靴。そう、靴を履いている。ここから、原始人ではなくなるらしい。
 神殿の中を見回すと、俺の背後には老人とも壮年とも青年ともとれる不思議な像が両手を広げて建っている。台座には文字が刻まれている。ふむ、創造神様だということがわかった。
 ……これは祈りをささげねばならんな。創造神様。俺とメルを出会わせてくれたことを感謝します。俺は薫とメルを生涯愛し続けることを誓いますので、彼女たちに幸福な人生を送らせてください。
 俺はどうしたって? 素敵な女性二人と過ごせて幸福な人生と言えないとか脳みそ腐っているだろ。だから、俺は今超幸せである。まあ、薫にメルとの交際を認めてもらわねばならんのだが。
 ……そういえば、メルってNPCなのか? 普通に惚れてたけど、NPCに惚れてたってことか。うむむ、問題ないな。実際に触れあって愛を交わしたのだ。そこにNPCとPCの違いはないであろうよ。
 では、創造神様に祈りをささげたし、神殿を後にするとしよう。……何か視線を感じる。視線の感じる方向にはシスターが数人こちらを向いてひそひそと話している。どうしたのだろうか?
 俺は進路を変えてシスターの方へと足を運ぶ。彼女たちが動揺しているのがわかる。しかし、ここから話しかけると少し遠いのでもう少し近づく。

「あの、すみません。何かおかしなことでもしましたか?」

 俺は笑顔でシスターたちの方へ話しかける。すると一人のシスターが口を開ける。

「い、いえ……祈りの際にとても清らかな雰囲気を纏っておりましたので、高名な神官様なのかと話していました」
「なるほど……俺は別にそんな高名な人ではないですよ。たった今この世界に来た旅人なんで」
「で、でも! すごくきれいな祈りでした! 私たちの心まで温かくなっちゃいました!」

 と別のシスター。ふむ、俺の真剣な祈りが彼女たちの心にもわずかながら伝わったのだろうか。そうだとしたら、すごくうれしい。俺の思いはそれだけの力があるということなのだからな。創造神様にも届いたやもしれん。

「確かに、愛する者との出会いを創造神様に感謝していたので、もしかしたらそれが原因かもしれません」
「……あなたのような方にここまで想われている方が羨ましいです」
「俺ぐらい真剣な人はいくらでもいますよ。では、他にもすることがあるのでこれで」
「あ、はい! またいつでも祈りに来てください!」

 俺はシスターの別れの言葉を背後に神殿を後にする。

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