シスコンと姉妹と異世界と。

花牧優駿

【第136話】呼び出し②




 「イメージ……、イメージ……」

 サニーさん……。

 「ショー、それは呪文の詠唱かなにかなのか?」

 「ううん。ただ考え事してるって感じ」

 俺の代わりにアリスさんが答える。

 「んー。樹齢五百年前の霊木……、サニーさん……」

 「どうショーくん、サニーの木刀のイメージは固まった?」

 「んー、あとなんか決定打一つ欲しいって感じっすかね」

 ぼんやりと霞がかかったようなところからまだ抜け出せない。

 「そうだねぇ……。じゃあさ、ショーくんはサニーのことをどんなふうに思ってるの?」

 「ええ!?」

 印象を本人の前で言わせるってことあるの?
 「どうなんだおい?」みたいな顔で四人が見つめてくる。逃げるのは……男らしくない、か。

 「まぁ……、纏めて言いますね恥ずかしいんでほんと。笑顔が太陽のように眩しくて、でもちょっとドジだったり弱い所もあってそれがまた可愛くて、料理も上手くて……。年上に失礼かも知れませんけど、マジいい女っすよね。……、てか全然纏まらなかったな」

 「ショーくん、ガチ過ぎてサニーがどうしようもなくなってるじゃん」

 「なんで言わせたんすか!?」

 顔を手で覆って隠しているが、耳まで真っ赤になっているのは分かる。こっちも恥ずかしいんだけど……。

 「でも言葉に嘘は無いでしょ?」

 「それは誓って無いです」

 ここで嘘つくほど人間やめてない。

 「ショーも言うようになったな……」

 「お兄ちゃん、なんかカッコいいね」

 二人も少々面食らったという感じか。

 「茶化さないでってば。まあでも、おかげで剣のイメージは出来たと思います」

 「じゃあ、やってあげて?」

 「じゃあサニーさん。いきますんで、見ててくださいよ」

 「う、うん……」

 よかった。返事してくれた。

 「はっ」

 まずは霊木を半分にする。そして、その上に手をかざす。

 「わぁ……光った」

 誰かの声が漏れる。頭の中のイメージを翳した手のひらを通して転写する。
 サニーさん。名前から連想するのは太陽だ。この霊木が受けてきたであろう五百年分の陽の光を呼び覚ます。そんなイメージ。
 刀というよりは剣でいいだろう。あくまでも実戦レベルでなければ作る意味が無い。持ち主を守るものでなければ駄目だ。

 「よし……。完成、かな」

 霊木を包んでいた光が消えると、赤茶色っぽい木剣が姿を現した。

 「持ってみても、いいかな?」

 サニーさんが問う。やはり自分が注文した以上、感触は気になるようだった。

 「勿論です。でも振るうのは外でにしましょう。どんな力を秘めているか分からないんで」

 「えっ!?」

 「練習用の模造刀って訳で作ってないっすもん。ちゃんと素材に見合った、サニーさんを守れる物をと思って作ってみましたから」

 「つまりショーくんの愛が詰まってるってわけだ」

 「アリスさん! そんな茶化すような言い方しないで下さい! 恥ずかしいんすからっ」

 「大事にするね……」

 「サニーさんいいなぁ……」

 ローズが羨ましそうに木剣を見る。

 「ショーが作ったんだ。剣の名前は考えているのか?」

 「もちろんだとも姉さん。……、そうさなぁ……」

 「ショーくんビシッと決めちゃえ!」

 アリスさんからのエール。別に告白するわけじゃ無いんだけど。

 「じゃあ、"鳳凰ほうおう日光翼にっこうよく"なんてどうですか?」

 「ほーおー?」

 サニーさんにはピンと来ないようだ。この世界の住人、当然とも言えるのだが。

 「ある国の伝説的存在で、火や風を象徴する存在みたいな扱い方をされることがあるんです。鳳凰が飛んだ後には虹が出るなんて逸話もあるみたいですよ?」

 あくまでも俺が知っているのは中国だかにおける鳳凰ではなく、ジョウト地方におけるホウオウなのだが。

 「へぇー」

 「で、ショーくんは日光翼と日光浴をかけたってことね!」

 「アリスさん大正解!」

 日光翼ってもんが存在するかは別にして。陽の光を受けた翼、って意味合いで勝手に作った言葉だし。

 「確かに。なんか触ってるとじんわり温かい感じがする……」

 「てなわけで多分、火系統の魔法に対しての扱い易さだったりは格段に向上するかもです。振るっただけで炎が出る……とか」

 「え、こわっ」

 「じゃー次はわたしのねー。期待しちゃうなっ」

 「そうっすね……」

 「わたしのことはどう思ってくれてるのかな?」

 「そうですね……。ちょくちょく部屋に侵入して布団に潜り込んで来たり、風呂でも巻いてたタオルわざと外したりするし……。エロですよエロ」

 「アリス……、貴様……」

 「ちょ、ショーくん。人をそんな痴女みたいな感じで言わないでっ。エリーゼも、ね? ちょっと待って剣持ち出さないで抜刀しないで構えないでローズちゃん助けて」

 以上、俺のささやかな反抗でした。


 「じゃ、気を取り直して。アリスさんのを作っていきましょー」

 もうイメージは固まっている。サニーさんと対を成すモノだ。

 「刀身は細く黒く……。宿す力は……風……。うん、出来ました」

 「漆黒……だな。それにやけに細いな」

 姉さんが見た目の印象を口にする。

 「お兄ちゃん、これ、レイピア……だっけ?」

 「正解」

 「じゃあ、ショーくん。この剣の名前を発表して?」

 アリスさん、ウズウズしているご様子。普段はこっちを焦らしてからかったりしてくる分新鮮な反応だ。

 「そうですねぇ……、ぐー」

 「寝るな寝るなっ! 焦らしプレイは苦手なのーお願いー」

 軽い涙目である。

 「可愛い……あっ」

 思わず心の声のつもりがポッと出てしまった。

 「もうっ、ここぞとばかりにバカにして……」

 アリスさん、俺の誤射の命中よりメンタルにダメージを受けている。なんか楽しくなってきた、何かに目覚めそうだ俺。

 「アリスさん嬉しそう……」

 「ローズちゃんッ!? そそそそ、そんなことないよ!?」

 「名前はっぴょーしまーす。"月下の胡蝶"でーす」

 「ショーくん!? そんなあっさり発表しないでぇ……」

 あうぅ……という感じでアリスさんが嘆く。

 「属性は風です。月明かりの下で夜風に舞う胡蝶。蝶のように舞い、蜂のように刺す。みたいな感じでしょうか」

 「訴えはスルー!? ……、それでレイピアなのね。でも、これって切れるの? 刺すだけだと扱い辛いんだけど」

 それもそうだ。よし試そう。

 「じゃあこれくらいならいっかな……」

 俺は収納箱アイテムボックスから一本の短剣を取り出した。

 「え? 鋼と木じゃさすがに……」

 「この短剣はほんとに駆け出しの街レベルのもんですし、粉砕するくらいじゃないと困りますからね! っと……、シッ!!」

 短剣を宙に放り、レイピアで刺突。見事串刺しとなった。

 「あっ、刺しちゃいました。抜いて……はい、斬りますね……。ハッ!!」

 「「「おおー」」」

 一同から揃った歓声が上がる。

 「今は控えめにしましたけど、おそらく本気でやれば嵐を巻き起こすような感じになるはずです。その嵐に姉さんやローズ、サニーさんの火系統の魔法を乗せればもう威力は絶大でしょ! っというコンセプトも持ち合わせています」

 そんなこんなで、俺の剣作りは大盛況に終わった。……、あの短剣高かったんだよなぁ。そりゃドラ●エみたいな感じで数百円から売ってればいいけど、ちゃんとした短剣というのは安くても三万以上するものだ。武器だもん。凶器だもん……。

 

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