シスコンと姉妹と異世界と。
【第132話】討伐遠征22
決まってるわ。魔女の復活よ___。
女はそう言った。
「魔女とは……、あの、おとぎ話の魔女とでも言うのですか?」
「あら、軍での生活が長い貴女なら、おとぎ話か事実かどうかくらいの区別は付くんじゃなくって?」
フィーナさんと女のやり取りは続く。出来るだけ情報を取ろうということだろう。
「ですが、あれはもう遥か昔のことでしょう。それが今更復活だなんて」
「出来るのよそれが。然るべき準備が整っていれば、ね」
「準備……、それがこの石を集めるということですか」
「勿論、その獄陽石だけじゃ足りないわ。一つはもう既に手中にあるけど、残り八種集めなければいけないの」
「なら、尚更渡す訳にはいきませんね」
「だからあまり手間をかけさせないで欲しいのだけれど……。ただでさえこんな時間に仕事しなきゃならないのに。お肌の大敵なのよ、夜更しは」
「交渉決裂ですか。ショーくん、収納箱にしまっ」
「させないわ」
クソ。反応が遅れて間に合わねえ。
「硬化魔法ッ!」
両手と石の位置を固定。フィーナさんが喋り終わるまで待ってろよくそっ。
「頂くわ。って、早く離してちょうだい?」
「ぐぬぬぬ……」
「せっかくの再会なんだから、両手を上げて喜んだら?」
右手一本の女に対して俺は両手。流石に力負けはしない。てか、再会?
「密会した覚えは無いですけど! 初対面じゃないですかねェェ!!」
背中にジトっとした視線を感じた。
「つれないわねぇ。薄暗い倉庫の中激しくヤリあったじゃない。……でも、いくら寵愛持ちの坊やといえど、腕ごと切り落とされて平気でいられるかしらね?」
答、いられません。
ローブに仕込まれていたか、石を掴んでいない左手にナイフが握られていて、俺の肘目掛けて振り下ろされる。
「ローズッ!!」
「任せて!!」
ローズが刀身が鈍く光る短剣を女に向けて投じた。
「クッ、生意気ね」
女が身をよじる。短剣は女のローブの脇腹部分を引き裂き、尚も進む。そして、見事に手元の石を捉えて突き刺さった。
「あ」
「あ、じゃねえぇぇぇ!!」
あ、っぶねええぇぇぇぇ!!
「コレは頂いていくわね」
「え?」
女が手にしていたそれは、獄陽石の片割れだった。俺の手元にも残り半分が握られたままだ。
「あーあ」
まぁ、わざとやったわけじゃないからしゃーない、か。
「まぁ目的は達成したわけだし、半分だけどこれでいっか。上にはテキトーに報告しておきましょう」
敵さんもなんかフワッとしてるな。
「それじゃ、わたしは帰るから。ごきげんよう。またどこかで会うでしょう」
ぺこりと頭を下げた女。そしてそのまま、闇に溶けるように消えていった。
「ふぅー……」
アリスさんが息を吐く。さすがに緊張していたようだ。
「殺し合いにならずに済んだか……」
「ショーくん、よく半分になったとはいえ、それを守りきりましたね」
「いえ……。獄陽石って言ってましたっけ。どうしますコレ……」
「うーん、そうですね……。ショーくんが持っていてくださいませんか? 大佐には私から話をしておきますので」
「いいんすか?」
「売ったり捨てたりしなければ、の条件付きですよ?」
「しないですよ! 売った相手が狙われたりしたら大変ですもん」
「分かっているならいいのです。試すような真似をしてすみません」
「いや、そんな気にしないでくださいよ。状況を考えたら当然の事じゃないっすか」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
「で、」
一文字で呼び掛けられる。
「薄暗い体育倉庫でヤった件について詳しく」
アリスさんが氷の微笑を浮かべながら俺の肩を掴んでいる。逃げれないッ!! てか、尾ヒレの付き方酷くね!? 語弊なんてもんじゃないぞっ。
「ちょっ、これ放してェェ!」
「ダメよ、逃げるから。ねえ皆?」
「「「うん」」」
若干空が白んできた。ずっとこのまま見ていられそうな気がする(尋問有るから帰りたくない)。こうして俺の初めての高難易度任務は終わりを告げた。
任務が終わった俺たちは、真っ直ぐ学園に戻らずに宿へと戻った。マリーさんが迎えてくれたのには驚いたが、本気で心配してくれていたんだろう。うっすら目に涙が浮かんでいたようだったし。そしてそのままとても遅めの睡眠をとった。寝付いたのは5時過ぎくらいだろうか。さすがに皆も疲れていたようで、各自部屋に戻って大人しく寝ていた。
と思ってたんだけど。
いざ起きてみれば布団の中には可愛い妹のローズが規則正しい寝息を立てていた。大人しく寝ていたということに関しては特に否定しない。場所は別だが。
「ん、なんか香水か何かかなこの匂い。落ち着くな。ローズも女の子してるんだなぁ……」
なんてことを考えていると襲ってくる眠気。季節的にも布団から出たいとは思わないのだ。いくら日が昇っているとしても。
「うし、二度寝キメるか。丁度いい抱き枕(妹)もあることだし、ぐっすり疲れも取れるだろ。……、よっこいしょ」
「ん……」
ぽよんっ、とした感触が右手に触れる。
「あぁ、スマン。今のは本気の過失であって故意じゃない……。そりゃ多少は嬉しい気持ちはあるけど……。起きてから怒らないでくれ……」
疲れが残っていたのか、目を閉じると早々に俺は寝付いてしまった。
「……」
「……」
「お兄ちゃん、寝た? ……もう、ドキドキしてこっちが寝らんなくなっちゃったじゃん……。最近はずっとお兄ちゃん独り占めに出来なかったし、今くらい、いいよね? てゆーか、わたしをダシにしてお姉ちゃんとトドメさした分とでチャラだからね……」
「……」
……、起きてました。
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