シスコンと姉妹と異世界と。

花牧優駿

【第133話】討伐遠征23




 「おわっ」

 「んんっ……、わっ!?」

 「「イテッ」」

 目を覚ますと目の前にローズがいて、思わず驚いてしまった。ローズもビックリしたみたいで、互いに頭をぶつけた。そうだった。抱き枕代わりにそのまま二度寝したんだった。

 「お、おはよう」

 「お、おはよ……」

 布団の中でとりあえず挨拶。なんだろうこの微妙な気まずさ。女友達に告白して失敗した後みたいな感じだろうか。高校時代ヒキニートに片脚突っ込んでいた俺には実体験が無いので、あくまでも妄想の範疇なのだが。

 「今、何時かわかるか?」

 「さあ……? 寝たのが4時とか5時で、それからしっかり寝ちゃってたような……」

 「昼過ぎくらいかな? なんか腹もまだ減ってないんだけどな」

 「ご飯かぁ……。確かに今は別にいいかも」

 「……珍しいな」

 さすがにローズが食事を遠慮するとは思いもよらなかった。

 「雪が降るかもな」

 「わたしだってお腹空いてない時くらいあるもんっ」

 「いやまぁ、そりゃそうだろうけどさ……」

 普段がなぁ。アレだから。

 「じゃ、とりあえず起きるか」

 「もうちょっと」

 「……ん?」

 「もうちょっとこのままがいい……」

 ウリィィィィィ!! と内心妹の可愛さに発狂したが、俺の表情は鉄仮面の如く変化しなかった。多分。

 「いやでも、昨日風呂入らずに寝てるから色々と……な?」

 「お兄ちゃんの匂い、嫌いじゃないよ?」

 そう、それを気にしてたのよ。分かってんじゃん。

 「汗もかいてるし、焦げ臭さもあるだろうし……」 

 「頑張った証拠だね」

 あくまでも逃がさないつもりだろうか。

 「……、だから風呂行きたいんだよね」

 分解魔法で皮脂汚れとかはどうにでもなるけど、それでは味気なさ過ぎる。湯船に使って四肢を伸ばして「うぁー」ってするのが一番疲労回復になるのだから。

 「じゃあ、わたしも入ろっかな。たまには背中流してよ」

 「い、いいのか!? ……、じゃなかった。あーあれだ。戦いの時のアレとチャラでいいか?」

 「なっ!? ……うん、いいよ」

 一緒に寝たのでもう水に流してくれてるっぽいんだけど、一応俺はそれを聞いてないことにローズの中ではなってるからな。こう言っとかないと。

 「うしっ! じゃ、行くか」

 「うん」

 布団をバッとめくって飛び起きる。

 「「寒っ!!」」

 なんと外は一面雪に覆われていた。

 「誰かお茶煎れてくれてたんだな」

 テーブルの上の湯呑みからはまだ湯気が出ていた。

 「飲んどこ」

 乾燥した冬の時期には喉のケアが大切である。らしい。

 「お兄ちゃん早くー」

 「焦らなくても風呂は逃げねえって」

 お茶を一気飲みし、ローズ共々風呂へ向かった。



 「にしても、あの人何者だったんだろうな……」

 ローズより胸の小さい、母さんと瓜二つな女を思い出す。

 「まぁ、お母さんの妹かお姉ちゃんじゃない? じゃなきゃあれだけ似てるってことは無いでしょ」

 「妹じゃねえの? ……、まぁ幼児体型だったしな」

 「本人に聞かれたら消されそうだね……」

 「怖いこと言うなよ」

 「言ったのはお兄ちゃん」

 「だな」

 「「……」」

 再びの沈黙。湯船の中でリラックスしてるから、さっきみたいな変な気まずさは無い。

 「そういやさ」

 「んー?」

 「俺が貰っちゃった獄陽石、なんかアクセサリーに加工してみようかと思うんだけど、どんなのがいい?」

 「あくせさりー?」

 「装飾品、って言えばいいのかな? 首飾りとか腕飾りとか髪飾りとか……か?」

 「んー、んー」

 ローズが唸り声をあげ続ける。悩んでいるようだ。

 「まぁ別に今すぐ決めろとは言わないけど……」

 「んー、んー」

 聞いてねえよ。

 「おーい」

 「あっ! ここ、ここ」

 そう言って、左手薬指を指さすローズ。

 「ん、かゆいんか?」

 「ちーがーう。指輪、お兄ちゃんから欲しい」

 「指輪かぁ。いんじゃね? 多分作れると思うから、一応大きさ見とくか」

 「お兄ちゃんが手作りするの!?」

 「そりゃそうだろ。あんな訳分からん力の塊みたいなもん他人様に預けらんねえよ」

 「まぁ……それもそっか」

 「でもいいのか? 杖とか短剣とか、武器に埋め込んだりしてもいいと思うんだけど。あの石があれば火系統の魔法の扱いがかなり極まりそうな気がするぞ」

 平たく言ったら火属性攻撃アップの装備ということだ。

 「じゃ、両方にする。してもいい?」

 「大丈夫だろ。そんな小さいもんでもないしな。二人で四つ分くらいの余裕はあるさ」

 「お兄ちゃんも何か作るの?」

 「俺じゃなくて、姉さんにな。ローズにだけ渡して姉さんに挙げないんじゃ多分拗ねるしな。姉妹でペアリングでイイじゃんか」

 「お兄ちゃんとお揃いのが良かったのに……」

 「俺が持っててもなぁ……」

 今更バフ要らないし……。

 「ほら、あの女の人が言ってたろ。寵愛持ちがなんだって」

 「言ってたっけ?」

 「言ってたのー。モーリスに言わせれば、俺は"マナの寵愛"ってのを持ってるんだと。何であいつが分かるのかは詳しくは知らないけど。で、それがあるとマナが俺の味方をしてくれるっつーか贔屓ひいきしてくれるっつーか。詠唱省略だったりもそのへんのお陰ってわけ」

 「詠唱省略ならわたしにも出来たよ?」

 「でも制御が完璧には行かないだろ? 試験の時には大穴作ったりしてたしな。でも俺の場合にはそれが起こり得ないんだとさ。だから今更獄陽石での補助も必要無いんだよ」

 「なんかお兄ちゃんばっかずるい」

 ずるい、と言われましても。俺自身どうしようもないし……。

 「ローズだって可愛い猫になれるじゃんか」

 「あれは不本意な結果だもん……」

 「そうかぁ? ただでさえ可愛い妹が猫になることで破壊力を倍増させてるんだぜ?」

 「か、可愛い……妹……」

 「そうそう。可愛すぎてお兄ちゃんは辛い。お兄ちゃん泣かせだ。罪な女だよローズは」

 「なんでわたしが悪者みたいに……ぶくぶく」

 恥ずかしいんだか怒ってるんだかよく分からないけど、ローズは唇を尖らせながら鼻まで湯船に浸かった。

 「ふああ……。なんか眠くなってきたな……」

 「もう、これ以上寝てたらお姉ちゃんに怒られちゃうよ」

 「分かってるって……」

 兄妹水入らずの時間はゆっくりと流れ続けていた。




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