シスコンと姉妹と異世界と。
【第125話】討伐遠征⑮
「どうすっべかね〜」
「ショーくん言葉変になってるよ?」
「あ、サニーさん。すんません。如何にしてこの呪印処理出来るかなと思いまして……。若干手詰まり気味なんですよね」
「そのままなら、魔物はショーくんに惹き付けられるんだよね?」
「……、囮になれと?」
「こーゆーのってぇ、敵を倒せば消えるってのがお決まりじゃん!?」
「アリスさんまで……」
「それともここで試しに腕切り落としてみる?」
「アリス!!」
「エリーゼ、急にそんな声出さないでよ。冗談だってば」
「冗談でもよしてくれ……」
姉さんの顔が信号のように赤くなって、青醒めた。そういや、入学前の手合わせした時にそんなイメージの幻惑魔法掛けてたっけか。そのせいで怒ってるんだろうな。思い出しちゃった、と。
「でも本当にいざとなったらやらないとだしな……」
「お兄ちゃん、その時はわたしが一思いにやるからね!」
「んな清々しい顔で言うかぁ!?」
ローズもあの魔法に巻き込んじゃってたと思うんだけど、グロいの平気……なのか?
「風よ、夜を照らせ。風陣の舞ッ!」
フィーナさんが詠唱と共に魔法を発動。一気に霧を払い飛ばした。
「あの二匹は何処かへ姿をくらましたようですね……」
「恰好いい……」
ローズがフィーナさんの魔法に見蕩れている。ん?
「そういや、サニーさんとヴィオラさんはさっき詠唱無しで魔法使ってませんでした?」
「あれ、気付いちゃったの?」
「ショーくんも意外と見てるものなんだね」
「そりゃビックリしますもん……」
アリスさんが使うならともかくとしてねぇ……。
「サニーちゃんは天才なのだっ!」
「はいはい、嘘つかないのー」
ヴィオラさんがポカっとサニーさんの頭を叩く。
「この篭手にちょっと秘密があるのよ」
「もう、ばらすのが早いんだから……。ほら、ショーくん、ここ見てみて」
「んーっと……」
サニーさんの手を取り示された手の甲を除く
「あっ……」
「おっ!? ここに紋様が……」
「ショーくん正解。目が肥えてるね。学園長の太鼓判を押してあげよう」
「あ、ありがとうございます」
学園長というパワーワードに、思わず頭を下げてしまった。
「この紋様はね、使う魔法の系統を刻んだもの……っていうのかな。わたしなら水で、サニーは光系統ね。普通魔法を使う時はマナを詠唱を介して変換するんだけど、これはその詠唱にあたる部分に置き換えることが出来るのよ」
「簡単に言えば、砂糖、醤油、みりんを使う所を、麺つゆで代用するような感じよ」
「それ、すげぇしっくりきました」
アリスさんのアドバイスはこの上なく理解しやすかった。細かいところはそりゃ色々と仕組みがあるのかもしれないけど。今は別にそこは問題じゃないから後回し。イマイチ、ヴィオラさんたちにはピンと来なかったようだが。
「で、マナの消費量に応じて、魔法の威力や範囲を変えられるようにしてあるの。この刻印は計算式に近いかもしれないね。マナという代数を当て嵌めてそれにより結果を生み出すって意味では」
「はい、ヴィオラ先生とサニー先生の特別授業終わり。何となくは分かったでしょ?」
そういう事だったのか……、という声が先輩でありこの二人と同期である筈の姉さんから聞こえた気がした。恐らく姉さんの鎧にそんな機能は付いていないのだろう。
「じゃあもう片方の篭手と合わせて二つの系統は無詠唱で使えるってことですか?」
講義を聞いていたローズからの質問。
「本来はそうなんだけど、色々と事情があって今回は片方一種類だけなのよ、ごめんね」
「金っすか?」
「ショー、聞き方ってものがあるだろう……」
「ショーくんのが正解だから別にいいわよ。本当、予算の問題よ。言葉を計算式のようにして刻み込むわけだから、それ相応の技術を持った人間に頼まなくてはならないのだけど、そんな人材はその辺に転がっているようなものではないの。需要と供給に釣り合いがとれていない状態ね。だから高価なのよ……」
はぁ……と、ため息混じりにヴィオラさんが答えてくれた。
「中には指の数だけ魔法を刻み込んだ武器だったり防具だったりを作れる職人さんもいるようなのだけど、あくまで噂程度の存在で……」
「わたしが知ってることを教えるとしたら、直接自分の身体に刻印を刻んで魔法を行使したりする人もいるのは確か、ってことぐらいかな」
サニーさんの補足情報でした。
「さて、それではそろそろ任務再開といきましょうか」
フィーナさんが手をパンパンと二回ほど打ち鳴らして言う。
「とりあえず、煙の上がっている周辺を探しましょう。火の手があがっているようなら消化せねばなりませんし」
(待っていればショー様の元に勝手に魔物が現れてくれると思いますが、以下がいたしますか?)
(ナビ子か。いや、自分から会いに行った方がいいな。なんかそうじゃないと腹立つわ)
(でしたら高いところをお勧めします)
(りょーかい)
「母なる大地よ、我にその力の一端を示せ。地獄耳」
と、詠唱のふりして更に、地面に耳をあてて聞いてるふり さすがにナビ子頼りってのを露骨に出すわけにもいかないのだった。
「上から攻めましょう。腕のこれのせいか、何となく繋がってるような気がしますし」
「分かりました。ショーくんを信じましょう」
それっぽい理由を付け足して、フィーナさんの了承を得た。
(では、細かいところは私が案内しますね!)
(なんで嬉しそうなんだよ)
(主人の役に立てるのは光栄な事ですから。では、行きましょうか)
まだまだナビ子に頼ることになりそうだった。
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