シスコンと姉妹と異世界と。
【第103話】帰郷⑦
「……、姉さん」
「……、な、なんだ?」
「……、普通に出来るんだね……」
「素直に褒めてもいいと思うんだが……」
「ちょっとお姉ちゃん、こぼしちゃってたけどね〜」
「だってさ」
「加減がなかなか難しくてな……」
「でもよく頑張ってたわよ〜。穴が空いちゃうんじゃないかってくらいお鍋のこと見てたから」
「任された仕事はきちんとしないとと思って……」
「じゃあ最後にもうひとつ頼むわ。お皿にみんなの分をよそってちょうだいな」
「はい」
3人分が普通盛りで、1人分が具材多めで用意された。もちろん姉さんがローズの為に大盛りにしてあげていたもの。
「あちちっ」
耐熱皿とはいえ底は普通に熱い。この耐熱皿は魔法に覚えのある職人によって作られているらしい。『魔力の土』なるものを材料としているという話だ。もっとも、この世界の魔法法則に基づけば、この土を使っているから出来る、という明確な結果のイメージの為の材料というのが正しい。法則を"知っている"側の人間ならば、そこら辺の庭の土からでも作れるはず。
「美味しそーな匂い!」
「カレーって言うんだぜ、これ」
「かれー?」
「お母さんも初耳だわ。よく知ってるわね、ショー」
「アリスさんが前に教えてくれたんだよね。カレーっていう凄い美味しいのがあるんだ、ってさ」
「あぁ、エリーゼのお友達の! あそこのお宅は毎度毎度、色々な新しいものを開発するから凄いわよね〜」
「またアリスの名前が……」
「? 姉さんなんか言った?」
「いや、何も言ってないぞ? ……、ほら早く座れ。折角みんなで作ったんだ、覚めてしまっては勿体ないぞ?」
「そ、そだねっ」
姉さんはかき混ぜただけ、なんて口が裂けても言わない。今のこの状況なら、カレーに頭から突っ込まされて、目や鼻の粘膜だったりが激しく損傷と再生を繰り返すのが目に見える。出口が無いっていうのは怖い。出口はあってもドアノブが回らないとかの方がパニクる気がするけど。
「変なお兄ちゃん」
「ショーはいつも変態だぞ?」
「なんでいきなりそんな辛辣!?」
「あらあら、変態はいただけないわね……。どうしたものかしら。わたしがなんとか矯正してあげたいのだけど……」
それでマザコン適性が付くなら、路線が変わっただけで進行方向は何ら変わりなく変態へ一直線なんだが。
「その役目はわたくしが」
「いや、妹のわたしが」
「ショー、誰がいい?」
「……、いただきます」
「……、あらあら」
「逃げたな」
「逃げたね」
今更姉妹の二択なんかしようがない。どっちも大好きだもん。カレーライスの中のご飯とカレーみたいなもんで、どちらかが欠けたら成り立たないのだ。
「ん?」
スプーンいっぱいにカレーをすくい口に流し込む。
「……、辛くね? いや、スゲー辛くね? 汗とまんないよ?」
「けほっ、けほっ」
「カレーとやらはこんなに辛いものなのか? 食べているだけで修行と言えそうなものだが……」
母さんはむせて、姉さんは涙目になりながらの恨み節。しかし食欲兵器ローズ、性能が違った。
「……」
大汗をかきながらも、1杯、また1杯、とスプーンを口へと無言で運んでいる。そのタフさがやばいわ。
「ローズ、よくそんなガッツリいけるな……」
「ちょっと辛いけど、おいひぃよ?」
「パンにつけて食べるともっと美味いと思うぞ?」
「んー。あむ。……、美味しい!!」
「母さん、ギュー乳あったっけ? それ入れれば多少辛味が緩和されると思うんだけど……」
「2本くらい冷蔵庫に入ってるわよ」
「直ぐ取ってきます」
母さん1人でギュー乳2本買ってたのかな? 父さんは立場上家を空ける任務に出ることもザラだし……。はっ!
「姉さんもギュー乳飲めばいいんじゃない!?」
「急になんだ……」
「ギュー乳って身体の発育を盛んにするっていうじゃん?」
「……、どういう意味で言ってる? ん?」
「そ、その……」
「鍛錬に耐えうる身体作りってことだよね?」
「さすがローズ。俺の気持ちが良くわかってるじゃないか!」
「えへへー、褒められた」
本当にナイス援軍。自分の四球で走者背負った時に、声を掛けに来てくれる遊撃手みたいだ。機嫌にもよるけど基本雲行きが怪しくなった段階で助けてくれる健気な妹。いまは食事中だからご機嫌マックスだからな。うん、その嬉しそうな顔がまたたまらん。
「まぁ確かに、ギュー乳を入れれば食べやすくなるな……」
「母さんはどう?」
「これならわたしも食べられそうね。口の中に防御膜を作らなくて済みそうだわ」
「それ味わかんないじゃん!?」
今度作る時はご飯も忘れないようにしようと誓った俺だった。
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