シスコンと姉妹と異世界と。
【第89話】貸し出し権⑮(サニー編)
「だれ? あのひと」
「見ない顔だが……」
そう呟きつつ、姉妹は駆け付けてくるエプロンのおじさんを見やる。
「無事かい、嬢ちゃんたち!?」
「ええ、まぁ……」
「どうしてここに?」
「この街中でドンパチやり合ったらすぐにその噂は広まるさ。それでぶっ飛んできたってわけ?」
「野次馬的な感じ☆?」
「まぁそんなところだが……。そいつらの事なんだが、ウチらに任せてはくんないか?」
「任せる、というのは?」
姉さんがも尤もな疑問を呈する。
「身柄を衛兵に引き渡すのは止めてもらいたい。こっちで預からせてもらいたい、ってことさ」
「ですが……」
まぁ、決まりは決まりっていうか。姉さんの反応は至極当然であった。事故が起きたら(起こしたら)警察に連絡入れるようなもので、悪さをしでかした奴らは拘束して衛兵に身柄を預けて、場合によっては報酬を貰う。そんなシステムが常識として根付いていた。
「コイツらはここらで有名なチンピラでな……。俺達もいい迷惑してたんだ。だからその御礼をしなきゃならねぇ」
「そのような理由では」
「と、言いてえところなんだが、」
姉さんを遮るようにおじさんが言葉を紡ぐ。
「そいつらは大概ここの出身でな。中には俺の知り合いのせがれも含まれてると来たもんだ。衛兵に引き渡してどこへ連れてかれるか分かんねえってなら、ウチらの店で働かせて徹底的に扱き倒して厚生させてやりてえんだな」
「それなら……」
「いいんじゃないかな?」
「アリス……」
後ろでは未だ4人がジリジリ焼かれている。正直話聞くどころじゃないくらい心配になってきた。ミイラ引き渡すことになりそうな感じするもん。
「おじさんがこの人たちを使って悪さをしてたっていうなら勿論身柄は引き渡さないけど」
「あ、当たり前だ! 俺はそんなことしてないって!!」
「こう言ってるし良いんじゃない? 万が一グルならウチの商会の名にかけて街ごと(経済的に独占して)潰すだけよ」
「……、お前がそこまで言うならわたしも賛成しよう」
ぐ〜〜〜〜〜。
大きな腹の虫が鳴いた。その拍子にローズの作っていたガラスの中の太陽が消えてなくなった。軽く弾けて。
「もうムリ……」
「嬢ちゃん腹減ってたのか!? そりゃ長話しちまって悪かったな! ……したら、うちの店で食って行ってくれよ。お代は勿論取らねえから好きなだけ食べてくれ」
と、大きく『千本』と書かれたエプロンをしたおじさんが笑いながら言った。言ってしまった。無料食べ放題! ほどローズにとって効果的かつ魅力的な言葉はないのだから。
そうこう言ってるうちに、この街の青年部ともいえそうなガタイの良い方々が順番に伸びたり茹で上がったりしてるチンピラを連行しに来ていた。ので、俺のガラスケースも解除してあげた。
「んじゃ、店で待ってるから嬢ちゃんたちも早いところ来てくれよな。そこの路地抜けて右に曲がればすぐだから」
そう言って千本の店長さんは走り去っていった。
「それじゃ、お言葉に甘えるとしますか」
「いいのか? ショーくん、さっき女将さんにお店のこと聞いてたんじゃなかったっけ?」
「大丈夫っすよ、ゾラさん。さっきのあの人の店がもともと行こうと思ってたお店でしたから」
「!! ……そんな偶然もあるものなんだね」
異世界転生なんて御伽噺の世界の事だからなぁ……。
「……、いこ」
「ほらほら、ショーくん行くよっ☆」
終始繋ぎっぱなしだった左手をローズに引かれ、さらには右手をサニーさんに引っ張られながら店への道を進んだ。
______。
メニューには色々あった。軽食としてはうどんがメインで、温玉ぶっかけギュー肉うどんがイチオシらしい。上手いこと作った黒玉子を自分で割り乗せるようだ。まぁ温泉街だし箱根だし。物珍しさで余計に売れるんだろう。
メインで推してるデザートは和のものが基本。抹茶と和菓子のセットだったり、季節外れのかき氷だったり、わらび餅だったりなんでもござれってかんじ。と○でんにあるようなデザートはほぼ網羅してると思う。
結論から言って、店は翌日営業停止に追い込まれた。ローズの暴食無双が発動してしまったからだった。おかわりで持ってこられたうどんがすぐさま消えてなくなる、なんてことが起きた。5往復くらいはしたんじゃなかろうか。
父さんたちのビール感覚で抹茶を喉を鳴らしながらゴクゴクと流し込み、デザートに埋もれるその姿はなんとも近寄り難い雰囲気を放っていたように思える。
それに、他のみんなも2人前、3人前と箸が進んだ。お昼の時間を過ぎていたのもあったが、朝ごはんも俺が分けてもらったせいでみんな少しずつしか食べていなかったからだろう。中には今日までに食事を抜いたりしていた人もいたようだし。それでいてマナを使ったり体を動かしたりした後と来たもんだ。栄養補給が必須になるのは当然で、『身体が資本』の騎士を目指す人間の集まりだな、と実感させられた。
それでも店長さんは笑顔で「また来てくれよな!」と送り出してくれたあたり、大したプロ根性だな〜、と思った。
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