シスコンと姉妹と異世界と。

花牧優駿

【第79話】貸し出し権⑤(サニー編)




 「うぇぇぇええ!?」

 「そんな驚かなくても……。それにここトイレ前なんだから、そんなに騒がない方がいいよ?」

 「あ、そうすね……。ってホンマでっか!?」

 「さんまさん」

 「なぁーにぃー!?」

 「やっちまったなぁ!」

 「男は黙って」

 「素手!」

 何をもって『素手』って言ったんだろ? まさか弁当とかを食べる時ってこと?

 「織田裕二がぁ〜〜」

 「キターーーー!!!」

 「アリスさん、しー! そんな声出したらッ」

 「い、今のはショーくんが悪くない!?」

 「俺ですか!?」

 「まぁ積もる話はそのうちね。あんましココで話すのもね」

 「は、はい!」

 「それじゃ、ごゆっくり〜」

 「すぐ戻りますよ〜」

 ……ふぅ。今回の教訓としては、とりあえず疑問は聞いてみるものだな、ということだろうか。向こうでの記憶とかあるのかな……。俺はまだどの学校に通ったりしてたかとか、妹である枝里香のことを覚えている。まぁちょっと前にあの白いちびっ子神様に思いださせられた、ってのもあるけども。自分は覚えていても他の人がどうなのか見当がつかない。

 とりあえず俺は座席に戻った。アリスさんたちがボックス席の通路側を空けてくれていたのでそこに座った。姉さんにビビった訳では無い。決して。

 「結局、今日行く温泉ってどんな感じのところなんですか?」

 「私も知らないんだ〜へへへ。手配してくれたのはアリスだから☆」

 「わたしも興味がある……。温泉というのも初めてだし」

 「まぁ簡単に言えば『箱根』ってところかしら」

 「「ハコネ?」」

 「箱根かぁ……」

 「学園前から2時間弱の汽車の旅で行く温泉地はもう『箱根』としか表現出来ないわね」

 「そういう地名なの?」

 「そうよ。ハコネさんって人が鉱石の採掘中に温泉を掘り当ててそれで町や土地が栄えて……ってことでその人の名前を取って『箱根』になったらしいわねぇ」

 ……この世界の認識ではそういう事なのか? それともアリスさんがいま適当に思いつきを並べただけの出鱈目なのか? どっちなんだいっ。

 「ふーん。まぁそういうのもお決まりというやつか……」

 「ハコネさんすごいねー☆」

 「……」

 「どしたの、ショーくん?」

 「あ、いや、汲み上げとかどうしてんだろ、って。人力でやったら火傷やらガスやらでまず死にますよね?」

 「そのへんは魔法の力を借りてるわよ当然。刻印ルーンを用いた魔法で半永久的に汲み上げをしてたような……」

 「あぁ!」

 「どしたのゾラ?」

 「いや、思い出せたんだ。刻印魔法の技術が盛んな町としてハコネの名を書物か何かで目にしたことがあったから」

 「本なんかわたし読まないもんな〜」

 「ははは。サニーさんらしいっすね〜」

 「ちょっとショーくん、どういう意味かな?」

 「明るくて可愛いサニーさんは外での実践の方が得意そうだなってだけですよ?」

 「もー調子いいこと言って〜」

 「わたしも、実践は得意なほうだと思うよ」

 「ゾラさんもですか? なんか意外っすね〜」

 「はぁ〜。分かってないなショーくんは……」

 「何がです、アリスさん?」

 「いーのいーの、こっちの話ー。それよかそろそろ戻らないと、お姉ちゃんが寂しくて死んじゃうってさー」

 アリスさんがそう言うと、後ろのボックスから『ぶはっ』という何か飲み物を噴き出してしまったような音と『すまないローズ……』という声が聞こえてきていた。戻りたくない。

 「……戻って平気ですかね?」

 「えーショーくんもうあとちょっとで着くんだからここにいてよー」

 「鞄とかも置きったぱなしなんで……。まぁサニーさん、まだまだ今日は長いんですから、そん時になんでも付き合いますって」

 「約束だよ? 男に二言はないよ?」

 「ええ、もちろんですとも! えっへん」

 「2人とも聞いたよね?」

 「「もちろん」」

 あぁ、言い逃れは出来なくなったな……。

 「で、ローズは大丈夫か?」

 「何が?」

 「姉さんが飲み物噴き出してそれがローズにかかったように聞こえてたんだけど……」

 「大丈夫。魔法で綺麗さっぱりチョチョイのチョイ」

 「さすが俺の妹だなぁローズは」

 なでなで。やっぱり猫みたいで可愛い。頭撫でてやると機嫌が悪くてもなんとか持ち直すからな〜。メシが絡んだら絶対に無理だけど。

 「やめてよっ。せっかくエリーゼさんに髪整えてもらったのにぃ」

 そう言って頬を膨らますローズ。今度はリスときたか。

 「風呂入ったらどうせ元通りだからいいじゃんか〜。ローズの髪の毛ってなんかフワフワしてるけど指通り良くていい匂いするしで、なんか好きなんだよな〜」

 「むぅ〜……」

 口では反論というか抵抗を見せるも、身体は正直だった。膨れっ面ながらも大人しくしている。素直じゃないところもまた良いんだよね〜。……頭大丈夫かな俺。ってかまだ通路に立ちっぱなしで座ってない。

 「どうしたんですかステラさん?」

 ローズの隣に座ってたステラさんが口をパクパクしてたので、思わず聞いてしまった。

 「ショーくんはいつもすぐに女の子の頭撫でたりするの?」

 「いや、そんな誰でも構わずやるような節操無しではないですけど……。大概ローズにだけじゃないですかね? なあ?」

 「わたしに聞かないでよ、もう!」

 「ぷりぷりすんなって」

 「ローズちゃん可愛いですもんね〜」

 「……羨ましい」

 「エリーゼお姉様、何かおっしゃいました?」

 「あ、いや、何も言ってない!」

 「本当ですか? 何か『羨ましい』的なことが聞こえたような気がしたのですけど……」

 「ステラ、わたしは何も言っていないしお前は聞いていない。そうだな?」

 「はい……」

 魔法を使ったわけでもないのに大した威嚇効果だこと。MP要らずのデバフ屋になれるんじゃないか? まぁ性に合わないっていってすぐに退職しそうだけど。

 「ほら、もうすぐ駅に着きそうだからショーもここ座れ」

 「りょーかい」

 「なんでわたしの膝の上に座るんだ」

 「だってさっき……」

 「あれは忘れろ!」

 「じゃあ、わたしの膝の上にでも……」

 と、ステラさん。

 「じゃあ、遠慮なく……」

 「遠慮しろ!」

 この後駅につくまでの7〜8分怒られつづけましたとさ……。

 



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