シスコンと姉妹と異世界と。

花牧優駿

【第75話】貸し出し権(サニー編)




 文化祭からはや1週間。何の変哲もない、平和な一週間を過ごしていた。実戦訓練でそこそこ胸を張れる成績を残し、剣闘でモーリスにコテンパンにされ、姉さんと五分五分に渡り合って、アリスさんに振り回され、ローズに慰められ……とそんな感じ。

 「ショー、明日の準備は出来たのか?」

 「準備って言ってもなぁ〜。温泉行くだけだからタオルくらいしか持ってくもんないよ」

 「男っていうのはそんなに身軽なものなのか?」

 「だって単純な話さ、下着だって男1枚、女2枚じゃん?」

 「まぁそれもそうだが……」

 「でもなんか意外だね〜。サニーさんがみんなで温泉行きたいだなんて」

 「だよな〜。勝手な想像だけど、みんなでゆっくり温泉ってよりは登山!とか言いそうなもんだけど」

 「なんかわかるかも〜」

 「2人はサニーをなんだと思ってるんだ……。一応言っておくと、アイツらの中ではサニーがおそらく一番まともな筈だ」

 姉さんの言うアイツらとはもちろん、サニーさんやシャロンさん達、エリーゼ親衛隊のメンバーの事である。

 こないだの文化祭での『ショーくん1日貸し出し権』を行使したことにより、明日の日帰り温泉旅行となったわけだ。さすがにサニーさんも2人で行こうとは言わずに、皆でということになった。

 来られるのはアリスさん、サニーさん、ステラさん、ゾラさんの4人。そこに俺ら3人を加えた計7人での旅路。

 ステラさん……正直あんま印象に無いな。以前サニーさんに丸焼きにされそうになった時に助けてもらったあとのお茶会でもそんなに話すことは無かったし……。あの時は姉さんに気付かれてそれどころじゃなくなったのもあるけどさ。

 「姉さんはこう言ってるけど、姉さんだからなぁ〜」

 「な、なんだその言い草は……」

 「姉さんから前もって聞いてた『人たらし』っていうのと、実際のヴィオラさんとじゃ全然違ったから……」

 「確かにそんな感じはしなかったかも……」

 「ヴィオラさんがしたことっつったら……食い逃げ?」

 あっ。

 「そうだ……忘れてた……。食べ物の恨み……イノチヨリオモイィ……」

 ローズマリス・ダークネス様、と言ったところか。もちろんローズマリーでなく、マリス(悪意)のほう。

 「ショー……、ローズがヤバいんだが、ヴィオラは何をしたんだ……?」

 「食い逃げ」

 「それだけで普通、人があんな風になる訳がないだろ!」

 「ローズの食に対する愛というか執念は、完全に人間の範疇を逸脱してると思うよ? 初めてアリスさんと一緒にメシ行って、遠慮込みであれだけ食べるんだから……。秋道一族なんて相手にならないよ」

 「……わたしも気に留めておこう」

 「アリスさんは平気だと思うけど、サニーさんたちが何かの拍子にやらかしたら……」

 「犠牲者が出るかもな……」

 姉さんは遠い目をしてそう言った。


______翌朝。


 「お姉ちゃん……寝てないの?」

 「あ、あぁ……自分で思ってるより楽しみだったみたいでなかなか寝付けなかったんだ……あははは」

 「お姉ちゃんでもそんなことあるんだー。でもでも、目のクマはお化粧して隠した方がいいかもっ」

 「化粧か……あまりしたことがないからな」

 「アリスさんは化粧とか上手そうだよな〜」

 「話は聞かせてもらったわよ〜!!」

 「「「!!!」」」

 毎度おなじみアリスさんの突撃モーニング。突撃と言っても幾つかパターンがあって、今のように急にドアを空けて突入する文字通りのやつ。全員が寝静まっている間に布団に侵入し一緒に寝るやつ。あとはアリスさんのその場の思いつきによるところが大きいが、顔に落書きされた時は本当に危なかった。

 「おま、アリス、自分の用意はいいのか!?」

 「だって朝ごはんは汽車の中でだし、顔洗って着替えるだけじゃない?」

 「だからってそんないきなり来なくても……」

 「眠気ぶっ飛んだでしょ!」

 「アリスさんってばー、うぅ」

 「まぁ、そういうわけで、簡単におめかししてあげるから顔洗って待ってて? 道具だけパッととってくるから」

 「あ、ああ……。ありがとう」

 「ビックリしたね……」

 「まぁ、いつものアリスさんだよね……」

 とりあえず着替えよっと……。

 それぞれ着替えて洗顔を済ませてアリスさんを待つ。

 「着替え終わった〜?」

 「ああ、待たせたな」

 「じゃあちゃちゃっと始めるね〜。そのあとローズちゃんもショーくんもやったげるから」

 「やったー!」

 「俺もですか!?」

 「化粧水くらいはしとくものよ〜」

 「なるほど……」

 「じゃ、エリーゼはこっち座って」

 「よろしく頼む……」

 10分後……。

 「すご〜い。なんか魔法みたい」

 「ちっちっち〜。残念ながらこれはわたしの実力なのだよローズちゃん」

 ローズの呟きの通り、姉さんのクマとか諸々綺麗さっぱり目立たなくなっていた。

 「今度教えてください!!」

 「わたしも教えて欲しい……」

 「おまかせあれ〜。じゃ、次はローズちゃんね」

 「お願いします!」

 そんなこんなで全員が身だしなみを整えてもらった。

 「んじゃまた駅でね〜」 

 待ち合わせ場所は駅の『学園前』。学園前と言っても駅から学校までは歩いて15分位はかかる。

 「はぁ、朝から忙しかったな……」

 「でも綺麗になれたね!」

 「そろそろ俺らも行こうか。アリスさんたちを待たせると良くないことが起こりそうな気がするんだよね」

 「ははっ。アリスが聞いたら頬を膨らましそうだな」

 「確かに! 早く行こ!!」

 6時43分。待ち合わせよりおよそ20分早く駅に着いた。



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