シスコンと姉妹と異世界と。

花牧優駿

【第64話】文化祭




 「なんやかんやで無事に開催だな……」

 時は10月某日。今日はシュヴァルツ・ウィンザー学園の文化祭当日である。俺はアリスさんが届けさせてくれた食材のチェックやら、調理場の準備に勤しんでいた。

 地獄のような準備期間を乗り越え、僕らは今日という日を迎えることが出来た。それがまず感慨深いのだった。

 単純な話、クラリスさんが想像以上に鬼教官だった。『姉御ォ、勘弁してくだせぇ……』なんて言ってる輩もいたほどだ。早朝から謎のランニングに始まり、筋トレをこなし……と朝一から授業に出るのが億劫になるような内容だった。モーリスはとても喜んでいたが。

 午後になってようやくメイド服を着ての訓練だった。演習とも言えそうな感じではあったが……。部屋に帰ってきたローズが半泣きになってたのは印象に残っている。

 厨房担当チームは俺が仕切らされたわけだけど、ナビ子のアドバイスというか指導をそのまま復唱しているだけのようなものだったが、わかり易いと、とても好評だった。

 ちょいちょい挟まれてくる、ナビ子の毒を中和する作業だけに俺は集中していたようなものだった。

 ちっ、なんで、んなとこで間違えんだよ!!

 的な怒声が脳内に響くのは中々にしんどかったが。

 「おっ、全部そろってるじゃんか……」

 冷蔵庫の中にもみんなが任務で取ってきてくれた(もちろん俺も行った。何故かゾラさんたちが手伝ってくれたのだが、その話はまた後日にでも)コブシシの肉が保管されていた。今日のメインはほぼコレになるだろう。

 あとは大量の卵。アリスさんとこのメイド喫茶で食べたオムライスを再現したら、全会一致でメニューに採用された。手間がかかるので味はケチャップオンリーだ。山菜を刻んだバターライスを卵で包みケチャップを掛けてという具合だ。

 てなわけで客席にはトンカツ用の味噌ダレが入ったボトルと、ケチャップのボトルが置かれていた。あと塩。悪いものが入り込んで来ても大丈夫。いっそ入り口に盛っておくか? ……無駄遣いするなって食堂のお姉様方に怒られるな。

 「まぁフォークとかスプーンは注文受けてから出せばいいよな……」

 特にもう用意することは無いか。

 「お兄ちゃん、見てー!」

 「……うん」

 空いた胸元がセクシーだがなんというか……

 「どお!?」

 「犯罪的な可愛さだな」

 いろんな意味で。

 「やったー!! ね? 今まで見ないでおいて良かったでしょー?」

 「そうだな。うん、よく似合ってる。よしよし」

 なでなで。借りてきた猫みたいで可愛い。ネコ耳だし。

 「へへ〜」

 「ショーくん、そんくらいにしとかないと、向こうの鬼が後で怖いかもしれないよ……」

 「えっなんでクラリスさん!?」

 「いいからいいから。ほらあれ……」

 「……ヒィッ!!」

 ……姉さんですねぇ。殺人鬼の目だアレは。

 「ね?」

 「はい……」

 「あれでヤキモチ焼いてるってんだから怖いもんだよね〜」

 「聞こえますって!!」

 「ショーくんが盾になってくれるでしょ?」

 「だってさローズ」

 「そこでわたし!? お兄ちゃんの甲斐性なし!」 

 「悪かったって……。まぁ踏み込んでこないだけ良かった」

 「誰が踏み込んでこないって?」

 「「……!!」」

 思わずローズと2人で腰を抜かしてしまった。へなへなと2人手を取り合って座り込む。

 「あ、おはよーアリス」

 「おはよー。どう準備の方は?」

 「よかった、アリスさんか……。死んだかと思った。なぁ?」

 「うん……。流石に今のはホントに怖かった……」

 「いやいや、脅かすつもりは無かったんだよ〜」

 「がっつり声真似しといてよく言うよ、アリス」

 「いや〜普通に登場してもさぁ?」

 「いいじゃないですか、普通で……」

 「アリスさんは何でここに?」

 「あなたたち2人とクラリスの様子を見に来たの。やっぱローズちゃんネコ耳似合うわね〜。ホントに猫そのものみたい♡」

 「わ、わ、そんな強く抱きしめないでくださいッ!」

 おーおー、あのローズが照れとるわ。

 「で、クラリスさんはどうしてここに?」

 「わたしも手伝うからね」 

 「メイド喫茶を?」

 「あ、ありがとうございます……」

 お礼の言葉を口にするローズの目から光が消えたのを俺は見逃さなかった。

 「今更アリスたちの手伝うわけにも……ね」

 「そうだ。アリスさんや姉さん、ゾラさんたちは何やるんですか?」

 「わたしたちはね……」

 「わたしたちは?」

 「お化け屋敷!!」

 くっそ日本的じゃねえかァァァ!!

 心で俺は絶叫を強いられたのだった。



 

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