シスコンと姉妹と異世界と。

花牧優駿

【第46話】下ごしらえ




 例の談合から最初の週末。明日からはローズ、ショーと泊まりがけでの任務兼小旅行だ。まぁ小旅行といえども、あいつら2人にとっては文化祭準備の延長なんだが。

 確か『みそ』と『お茶』を仕入れたいって言ってたか。『お茶』はかつてお母様が買ってきた事もあったし、御中元だったりで届いたこともあったので、我が家では慣れ親しんだものだ。

 だが問題は『みそ』の方だ。まったく知らん。どんな見た目なのか味なのか……。そもそも本当に食べ物なのか、とさえ思う。

 あいつはその『みそ』を何に使うのだろうか。事前の書類ではメイド喫茶でトンカツを出すくらいしか分からなかったのだが……。

 「お姉ちゃん準備中?」

 「ん、そうだぞ。今ショーは風呂に行ってるから、準備するなら今のうちに済ませた方がいいからな。……その、下着とかあいつの前で広げるわけにもいかないからな」

 「まぁ、それはたしかに」

 「だから、あいつが戻ってくる前に済ませた方がいいぞ。衣類は特に。まぁ箱にある程度の収納が効く以上、手荷物が多くなるってことは無いだろうけどね」

 「わかった! じゃあ……この中でどれがイイかな? お姉ちゃんが選んでよ!」

 「わたしが選ぶのか!?」

 いや、でもこれ、全部ローズには早いんじゃないのか……。

 「お願い! いざって時のために!」

 「なんも起きないだろうに……」

 「早く早く! お兄ちゃん帰ってきちゃうよ!」

 「じゃあ……この赤のヤツで。ローズといえばこの色って感じもするからな」

 「ありがと! じゃ、これに決めた!」

 最近の子供は進んでるんだな……。



______。




 「ただいまー」

 「「おかえり」」

 「? 2人ともお風呂まだなんだ?」

 「ああ。先に明日の準備を済ませようと思ってな」

 「そんなに準備ってほどのことあったっけ? 3人でひとつに纏めても良さそうだけど……」

 「そ、そういう訳には行かないだろう!」

 「お兄ちゃん、さすがにそれは鈍いよ……」

 「え、何がよ?」

 「「はぁ……」」

 なんなんだろ、2人してため息なんかついて。 

 「じゃあ俺も準備しよ。っても昼メシは食堂で調達すればいいしな。2人も着替えくらいでしょ?」

 「ま、まぁそうだな」

 「日曜分の着替えだから……。なぁローズ、黒パンって洗濯中?」

 「ううん。お兄ちゃんのタンスの一番下の段の左側に入れたような気がするよ」

 「そっかそっか。……おお、あったあった。サンキュー」

 「どうしてローズがショーのパ、下着の場所を……」

 「どうしてって言われても、洗濯は今までローズがやってくれてたからさ。いつもの場所ってこと。な、ローズ」

 女性ものの衣類の扱いって分かんないからな。まして下着とかになると余計に。だから洗濯はローズの役目になっていた。役割決めた時の俺は魔法で時短とかできた訳でもないし。

 「うん! どの服がどこに入ってるかとかこの日はこれとかだいたい分かるよ」

 「夫婦でもそこまでいかないだろうに……ずるい」

 「姉さん、なんか言った?」

 「い、いや? なんにも言ってないぞ?」

 「それよりお姉ちゃん、そろそろご飯食べよー」

 「お風呂とかは後でいいのか?」

 「今日は剣術指南とか無かったから、そんな汗かいたりもしてないし後でいいよー。もうお腹ペコペコ」

 「ロースがメシのこと言い出したら聞かないし、姉さん、早いとこ行っちゃおうよ」

 小声で姉さんに耳打ち。他のことならローズは自分が折れるなり譲るなりして、物事を上手いこと運ぶんだけどな。メシの時だけは話が違うらしい、さすがに。

 メシの後風呂入るのってあんまし良くなかったような気がするんだけどな。まぁ気にしないか。

 「確かに。よし、それじゃご飯に行こうか」

 「やったー!!」

 夕飯をかきこんだ後、姉さん達が風呂に入っている間に準備を済ませ終わった。

 が、冷凍庫作るのすっかり忘れてた。食堂に発注はしてあるし、解体の話も付けてあるから後は箱が届いてれば……。氷でも精製して突っ込んどけばだいじょぶっしょ。

 「明日には皆コブシシ狩りに行っちゃうだろうしな。モーリスに伝えてもらうか。食堂に持ってけばいいんだーって。あと仕留めるなら胴体潰さないように、って。したらまずはモーリスのとこ行ってから食堂だな……」
 
 モーリスに言伝を終えて食堂に向かって歩いていた。



______。



 「はぁ……気持ち良かった。お兄ちゃん、帰ったよ〜」

 「ショー、戻ったぞー」

 「あれ? お兄ちゃんは?」

 「準備してるはずだぞ?」

 確かに準備はしてたみたいだけど、途中で手を止めて行方をくらましたみたい。どうしたんだろ。

 「あのバカ……。下着くらいしまってから……」 

 と言いながらお姉ちゃんは、お兄ちゃんのパンツを一旦広げて確認してからたたみ直した。

 「どうしたの? パンツ広げて」

 「あ、いや、男物っていうのはこんな感じなのかと思ってな」

 「そうだよー。前が開くようになっててね〜。そこから」

 「そこまで言わなくていい! 想像つくから!」

 お姉ちゃん、想像しちゃうんだ……。顔真っ赤にしてるし。

 「どこ行っちゃったのかな〜。探しに行く?」

 「放っておけ。そのうち帰ってくるだろ」

 あーあ、お姉ちゃん拗ねちゃった。お兄ちゃん、早く帰ってこないと知らないぞ〜。


______。



 モーリスに事情を話し終わり、食堂にも話を通した。これでもう今日やるべき事は済んだ。

 部屋に戻る途中でアリスさんと話したりして、部屋に入るなり姉さんに「どこ行ってたんだわたしはとても心配したんだぞ」的なことをまくし立てて言われた。外出する訳じゃないんだから置き手紙なんか要らないって思うじゃない……。

 そんなこんなで俺は布団に潜り目を瞑った。



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