シスコンと姉妹と異世界と。

花牧優駿

【第16話】晩餐会②


 

 寮から歩いて10分のところにご飯屋さんがあるらしく、そこまで移動中。

 「アリスさん、なんてこと言ってくれるんすかっ……」

 アリスさんに小声で抗議。未だ姉さんから醸し出される空気は重い。姉さんの隣を歩くローズも話しかけることが出来ずにいそうだ。

 「僕も悪気があった訳じゃないんだよ? ただ、普段のエリーゼなら、あそこまで落ち込むなんて思いもしなかったんだ……」

 まぁ3人揃ってワンピースでも良かったな、と思わなかったと言えば嘘にはなるけど……。

 「まぁ、それはそうですよね……」

 「こういう時は男の出番じゃない?」

 そこで女を出してきますかアリスさん卑怯者裏切り者ッ!!  

 「マジすか……。んー、でしたら」

 「ひゃっ」

 「お手を拝借。ちょっと2人に追いつきましょう」

 「なんかショーくん、大人っぽいんだね……」
 
 アリスさんの右手をとって、ちょっと離れてしまった2人に向けて小走り。

 「追い付きましたね。したら、アリスさんが姉さんの左側で手を繋いで下さい。僕は右側に行くんで」

 左からアリスさん、姉さん、俺、ローズの順になるはずだ。そんな混雑してない大通りなら4人で並んで、手繋いで歩いても迷惑掛けなさそうだし。

 「あっ、うん……」

 「姉さん!ローズ!」

 「どうした?そんな慌てて……。な、アリスまで?!」

 「お兄ちゃん? って手……」

 「たまにはこーゆーのもまた一興でしょ!」

 「その……ショーくん?」

 「へ、なんですか?」

 「「今日の店はここなんだ……」」

 そう言ってアリスさんが左手で指さす。そこにはギューの牙亭、と書かれた看板がぶら下がっていた。


 「NOーーーー!!!!」

 そう叫ばずにはいられなかった。



______とりあえず入店。




 「もうちょっと早ければこうはならなかったのに……」

 「くそ恥ずい……」

 「お兄ちゃんドンマイ」

 「……まぁ帰りもあるんだから、そう落ち込むな」

 姉さんが女神に見えた。

 「さ、ショーくん、ローズちゃん。遠慮なく好きなもの頼んでね!」

 アリスさんが店員さんを手招きしながらそう言ってくれる。

 「遠慮なく……」

 ローズが揺れている。正直遠慮した方がいい様な気もするが……。あの食べっぷりをアリスさんは知らないから。

 「そうだ。食べるのも稽古、なんて言うらしいからな」

 姉さんそれはお相撲さんなんですけど……。かといってこの世界は相撲無いんだけど。どこで聞いた話なんだか。

 「そしたら……」

 固唾を飲んで見守ることにした。ローズの決断を。

 「ギュー肉の鉄板焼きを4つと茹で野菜盛り合わせ1つとパン2つとホットミルクで!」

 早口でそう捲し立てるローズ。食欲に負けたらしい、どうやら。

 「じゃ、じゃあ、ショーくんは何にするのかな?」

 アリスさんが動揺を隠しきれてない。無理もない。胸以外は同年代の女の子と比べても小さいローズが、そんなに食べるなんて思いもしなかっただろうに……。
 ちなみにギュー肉、牛肉である。A3〜4くらいある気がする。ただ、ギューは角だけではなく牙まである。雑食らしいし。

 「俺も……」

 言った途端アリスさんの瞳から光が消えた。全てを諦めてしまったような感じだ。そんな俺食べないですよ……

 「ギュー肉の鉄板焼きとパンと、ホットミルクをひとつずつで」

 ほっと息を吐き出したアリスさん。この世界に無事帰ってきたようだ。

 「わたしは、ショーと同じのにしようかな」

 「僕もそうしようかな。あと、3人で茹で野菜盛り合わせを分けっこしようか」

 「そうだな、そうしよう。ショーもそれでいいな?」

 「うん。いいよ」

 「そしたらそれでお願いします」

 「かしこまりました。少々お待ち下さいませ」



 料理が運ばれてくると、周りのお客さんからの視線が凄かった。その子がそんな食うの!?と声が聞こえてきそうだった。
 俺たち3人は会話も交えながらの食事だったが、ローズだけは無言で黙々と肉と野菜を交互に口へ運んでいた。



 「「ごちそうさまでした」」

 会計を済ませ、店を出た先で2人にローズと頭を下げる。俺はちょっと謝罪の意味も込めて。

 「さて、帰ろうか」

 「……?」

 姉さんが帰ろうと言い出したのに歩こうとしない。

 「ほら、ショーくん」

 そう言って手を取られる。そうでした。帰りも手をつなごうって姉さん言ってたっけ。
 姉さんが満足気に頷く。微笑みを携えながら、アリスさんとの間に割り込んでくる。けっこう強引に。
 ローズも『ててて』と俺の隣に収まると、にっこり笑う。



 この世界に来て、ほんとに良かったなと思えた瞬間であった。

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